(月刊『同友』記事)
福岡県中小企業家同友会の月刊『同友』4月号に,ちくし法律事務所と当職の記事が掲載されました。
タイトルは「日本で一番顧客さまに近い法律事務所」。
月刊『同友』には「21世紀型自律型企業づくり」という連載ページがあるのですが,そこで紹介されました。
以下に全文引用させていただきます(長文失礼します)。
日本で一番顧客さまに近い法律事務所
~幸せづくりのお手伝い業~
ちくし法律事務所 弁護士 浦田 秀徳氏(筑紫支部)
裁判所から離れた地域で事務所を構える『ちくし法律事務所』。同友会で理念経営を学び、社員を生かす経営と地域密着の戦略の実践について取材しました。
筑紫野市にて創業
西鉄二日市駅から南へ徒歩2分、今回の取材先の『ちくし法律事務所』があります。「法律事務所というと、司法の門前町のように裁判所の近くにあるのが一般的ですが、地域の顧客さまに寄りそって物事を考えるために、この地で活動しています」と語るのは、共同代表経営者の浦田秀徳さんです。
1984年に稲村晴夫弁護士が事務所を開き、86年浦田さんが入所し共同経営の形態を取りました。現在では弁護士8名、事務局10名の陣営となっています。
司法改革に先駆けて
99年にいわゆる司法改革が始まりました。この改革は国民に充分な司法サービスを提供するためのもので、裁判の効率化や法曹界(弁護士・検査官・裁判官)の人員の拡充などを目指しています。裁判では2名以上の弁護士が必要なところ、『ゼロ・ワン地域』すなわち弁護士がゼロか一人の地域も多く,地方に弁護士を増やすことが求められました。
法曹に必要な学識及び能力を培うための法科大学院(通称ロースクール)が導入され、司法試験受験の機会が広がり、合格者が増加しました。浦田さんの時代には合格者が年間500名程度(合格率2%)でしたが、現在ではその数は3倍(合格率は20~30%)になっています。弁護士人口は全国で約4万名にのぼります。しかし依然として弁護士の多くが都市部・裁判所近辺に集中しているため、地域に根ざす弁護士はそれほど増えていないのが実情です。
「改革に先駆けること15年以上も前に、おそらく日本で最初に、裁判所のない地域に根ざした事務所でしょう」と浦田さんは話します。まさに『日本で一番顧客さまに近い法律事務所』を実践しています。
地域に根ざすということ
筑紫野市・太宰府市・大野城市・春日市・那珂川町を中心に業務を展開しています。「顧客さまは地域の人がほとんどです。地域の紹介・口コミが多いのが特徴です。弁護士同志のつきあいならば専門知識で済みますが、地域のみなさんとはより広い話題を身に着けておかないと世間話一つできませんね」と苦笑いします。
司法改革では広告の規制緩和もあり、テレビ・ラジオなどでもCMをしたりHPを持ったりすることができるようになりました。「弁護士が8人いる事務所というのは、大きい方だと思います。若手からベテランまでおり、個性・知識・経験・機動力などの強みを補完し合いながら業務にあたっています。一番大切なのは顧客さまとのコミュニケーション力だと思います」。
HP・ブログ・ニュースレターなどは事務局が手づくりで行っています。「ニュースレターは5千部作成し、顧客さまと地域に配っています。専門家に依頼すればもっといいものができるのでしょうが、スタッフが真心こめて作り、その『ヘタウマ』さが醸し出す温かさが地域のみなさんに伝わるんですよね」と浦田さん。
人的・社会的ネットワークを強化すべく、市民大学講座への講師派遣・公的団体の審議会等の委員就任・ボランティア活動への参加・地域行事への協力に尽くしています。
地域貢献の一環として、無料セミナーを定期開催しています。テーマの中で『エンディングノート』は好評だと言います。
エリアには大きな産業・大手企業はありません。小さな案件を丁寧に一つずつ解決することを積みかねていくことで信頼を構築しています。
なにごとも根本は理念経営
地域に根ざしつつも、全国的・国民的な課題にも取り組み,解決した実績があります。
薬害エイズ事件、ハンセン氏病事件、薬害肝炎事件など全面解決を果たしています。いずれも20人から30名ほどの弁護団を組織し、浦田さんはその腕を見込まれ中心的役割を担いました。「解決には、かなりの時間がかかります。それまでは報酬はありません。強力・的確なリーダーシップは求められます。すべての被害者を救済し、二度と同じ被害が発生しないように取り組んできました。これらを支えているのは『理念経営』にほかなりません」と浦田さんは熱く語ります。
自主・民主・連帯の精神
同友会には99年に入会しています。共育委員会に参加して学びを深めました。「社員とともに歩む経営スタイルが当事務所に活かされていると思います」。
2014年からは筑紫支部長を務め、現在は福岡地区副幹事長です。
経営の中心に据えていることは『自主・民主・連帯の精神』です。全員で行う経営会議は月1回開かれます。さらに弁護士会議・事務局会議が開かれます。経営情報を開示・共有し、経営課題の解決策について話しあいます。また春の研修と称して、1泊2日で理念を確認するとともに経営指針を作成・共有する合宿が開催されます。全員が自由に発言できる風とおしのよい職場環境づくりに努めています。
採用・共育で心掛けていること
スタッフ採用の際には、試験時間内にはこなせない量の問題をあえて出しています。困難な状況に立ち向かい,できうるかぎりの結果を残すという現場対応力を見ます。そして特筆すべきは、面接をスタッフ全員で行うことです。一緒に働く仲間としてそれぞれの視点から見ています。志望者自身も、雇用側の本気度と企業風土を実感できると言います。
「法律的な知識があればそれに越したことはありませんが、それはOJTで修得できます。それより大事なのは、法律事務所を訪ねてくる人は、困っている人、心に痛みを抱えている人なんです。そういう人たちに対して思いやりのある対応ができるかが大事になってきます。電話対応一つにもあらわれます。そして洞察力や優先順位などの判断力、総合的な人間力が求められます」。
そうして入社したスタッフは、やりがいを持って職務にあたり,経営にも参加しています。浦田さんは言います,「ブラック企業の一番の徴表は短い在職期間です。当事務所の平均在職は1年目の2人を含めても16年以上です。やりがいを感じていただいていると自負しております」。さらにこう付け加えてくれました。「採用時に私はこう言います。結婚しても、出産・育児しても、離婚そして再婚しても続けて働ける職場です(笑)」と。
『顧客さまのためになるかどうか』
相談に対して、浦田さんは『お客さまのためになるかどうか』という視点を大切にしています。その解決のためには,裁判所にもちこまないことも選択肢として重視しています。弁護士の仕事は裁判をすることではないということです。果たして裁判官がこれを取り上げるか、そしてそれが納得のいく結果を導き出せるか。それにより顧客さまが幸せになるかどうか。知識のみならず長年の経験で判断するのです。浦田さんは力説します。「基準となるのは顧客さまの幸せです」。憲法13条の保障する幸福追求権の実現,すなわち、「幸せづくりのお手伝い業」という理念の実践です。
取材の最後に浦田さんの考える自立型企業についてお聞きしました。
「裁判所や業界の常識にとらわれないで、顧客さまや地域の立場に立って物事を考える企業。組織するメンバーが自社の理念に沿って自分で考え行動できる企業ではないでしょうか」。さらに、「最近すべての場が『人生道場』と考えるようになりました。あらゆる場面で人間的成長が求められると思います。仕事、経営だけでなく趣味やそのほかの付き合いでも生きざまが問われます。それがよい評判や信用につながると思います」。
取材協力ありがとうございます。
【経営理念】
・日本で一番顧客さまに近い法律事務所。
・地域に根ざしつつ、全国的・国民的な課題も解決する。
・顧客さまの幸せづくりのお手伝い業。