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2026年4月6日月曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について② 相続開始後の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、同月12日以降、4回に渡り、A名義の普通預金口座から、合計259万6000円を出金し、同出金に伴う手数料合計432円が同口座から支払われた。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始後の払戻し

⑴ 分割の対象となる遺産の範囲-預貯金債権

 現在は、預貯金債権について、不可分債権であり、遺産分割の対象となるとされている(判例②~④)。

 そのため、原則として、遺産分割の前には、共同相続人全員の同意を得なければ、預貯金の払戻しをすることができない。 

⑵ 単独の権利行使による払戻し

 各相続人は、預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし各金融機関ごとに150万円が上限)を、単独で払い戻すことができる。払い戻した分については、当該相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされる(民法909条の2)。

 払戻しがされたものは、すでに分割済みのものとなり、遺産分割の対象とはならない。もっとも、これを遺産分割の対象に含めることを相続人全員で合意することもできる(判例①)。

⑶ ⑵以外の払戻し

 金融機関が相続の開始を知った場合、金融機関は預貯金口座を閉鎖し、払戻しができなくなるが、金融機関が相続開始を知るまでの間は、被相続人以外の者による預貯金の払戻しがされる余地がある。

 遺産である預貯金債権が、遺産分割前に払い戻されると、預貯金債権そのものは遺産分割の対象から逸出する。これに代わる無断払戻者に対する損害賠償請求権や不当利得返還請求権を相続財産の代償財産ということはできるが、これらは可分債権であるから、原則として遺産分割の対象とならない。民事訴訟による解決となる。

 無断払戻者以外の相続人の同意が得られれば、その財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなし、それを当該払戻しをした相続人に取得させる(民法906条の2)。

3 事例について

 被相続人Aの死後に出金された金額等は、合計259万6432円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する129万8216円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和54年2月22日・集民126号129頁

②最小判平成22年10月8日・民集64巻7号1719頁

③最大決平成28年12月19日・民集70巻8号2121頁

④最小判平成29年4月6日・集民255号129頁

■高等裁判所

■地方裁判所

⑤東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)398~408頁、497~514頁

■裁判官・元裁判官

②井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)239~240頁

③岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』451~452頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~80頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 -裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)169~170頁、188~195頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)163~172頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月2日木曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について① 相続開始前の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、Aの生前に、Aの預貯金を引き出したり、Aの保険契約の保険金受取人を変更したりし、それによりYは9844万0804円の利益を得たところ、同額のうち9433万5315円は、Aの許諾を得ていたものではなかった。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されていることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始前の払戻し

⑴ 無断での払戻し

 被相続人の生前に、被相続人の一人が被相続人の預貯金を無断で払い戻した場合、被相続人の当該相続人に対する不当利得返還請求権(又は不法行為に基づく損害賠償請求権)が発生し、これが、被相続人の死亡により、各共同相続人に当然分割されるのが原則である。

⑵ 委託を受けた払戻し

 払戻しが無断ではなければ、寄託金返還の問題となる(裁判例②)。

⑶ 被相続人からの贈与

 被相続人の了解のもと預貯金が払い戻され、特定の相続人が贈与を受けた場合は、特別受益の問題になる。

3 分割の対象となる遺産の範囲-金銭債権

 上記2⑴⑵の場合、共同相続人は被相続人の有する金銭債権を相続することになる。そして、金銭その他の可分債権は、相続開始とともに法律上当然に分割される(判例①)。

4 事例について

 被相続人Aの生前にYがAの許諾なく預貯金を引き出したりした使途不明金の額は、9433万5315円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する4716万7657円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和29年4月8日・民集6巻4号819頁

■高等裁判所

②東京高判令和4年4月28日・判タ1517号105頁

■地方裁判所

③東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)183~187頁

②岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』(2024、ぎょうせい)451~452頁

③司法研修所『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(1994、法曹会)245~246頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~78頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 ー裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)184~188頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)159~162頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

⑧関戸勉、福澤武文ほか『相続・遺言を巡る法律問題 弁護士が知識と経験で解決した困難事例』(2020、第一法規)3~11頁

⑨本橋総合法律事務所『Q&Aと事例 相続における使途不明金をめぐる実務』(2025、新日本法規)


富永

2022年12月6日火曜日

行方不明の相続人との間の遺産分割協議事件

 

 行方不明の相続人との間の遺産分割協議が成立した。話を簡単にするために、亡くなった被相続人をA、相続人をBとC、そのうちCが行方不明であるとしよう。

Aの遺産は不動産(自宅と貸家)と預貯金。遺言書があれば別だが、一般的には、BとCの実印を捺した遺産分割協議書と各自の印鑑証明が必要である。それがなければ不動産の名義変更はできないし、預貯金の払戻しもできない。

本件ではBから依頼を受けた。Cはもう20年以上行方不明。まずはCの住民票の所在地を調査する。関西のある都市Dにある集合住宅にあることが分かった。その住所宛に手紙(内容証明郵便)を出すと、集合住宅の管理者から戻されてきた。つまり、Cは住民票上の住所に住んでいないということだ。

このような場合どうするか。民法は不在者財産管理人という制度を用意している(25条1項)。

Dを管轄する家庭裁判所に対し、Cの不在者財産管理人を選任するよう申し立てた。家庭裁判所も、Cが不在者であるかどうか独自の調査を行ったようだ。かなり時間が経ったので、何度か裁判所に問い合わせると、詳細は教えてくれないが、それらしきことを説明してくれた。

実は、その過程で、あるトラブルが発生した。詳細は例によって守秘義務により説明できない。あれこれ想像してくだされ。

調査の結果、不在者であると認められた。不在者財産管理人として、D地区で開業しているE弁護士が選任された。E弁護士だからといって、いー弁護士とは限らないが、事案の性質上、クセのないよい先生だった。

管理人の費用は行方不明者のCに負担させることができない。やむなくBに負担していただくことになる。つまり、相続人のなかに行方不明者がいると、2人分の弁護士費用がかかるということだ。

あとはE弁護士との間で遺産分割協議書を取り交わした。行方不明者と遺産分割協議を行う場合、帰来時清算型の遺産分割をすることがある。家庭裁判所と協議したが、それが許されるのは遺産の取得分が100万円以下のときに限られるという。本件では使えない。

やむなく、Bが全遺産を取得し、その代償金として、遺産の半分に相当する額をE弁護士の預り口宛に振込送金するという内容の遺産分割とした。

先ごろ、不動産の名義変更の登記、預貯金の払戻しと代償金の送金も終え、本依頼事件は無事終結した。

あと残るのは、不在者財産管理人が預かっている上記代償金の行方である。この点についても、民法は失踪宣告という制度を用意している(30条1項)。

不在者の生死が7年間明らかでいないときは、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができる。その宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされる(31条)。

いつからこの7年を数え始めるのかという問題がある。Cはもう20年以上行方不明なわけだから、すでに7年を経過しているといえなくもない。しかし、これは認められていない。本件ではD地区に住民票があり、職権消除されていないことから分かるように、最近まで生きていたことが判明している。

必須ではないが、一般に、失踪を裏付ける資料として、警察に行方不明者届を提出しなければならない。本件でもその手続を行った。あとは7年間の経過を待つほかない。

なお、行方不明者との離婚、行方不明者に対する不動産登記手続請求などについては、ケース・バイ・ケースであるが、公示送達や欠席判決制度を利用することができる。これらの点はまた別の機会に。

2018年12月26日水曜日

遺産分割調停事件(解決)


(南アルプスのむこうに富士山)

 福岡家庭裁判所に係属していた遺産分割調停事件が解決しました。このケースは,両親の遺産を子どもたち(兄姉妹)3人で分割した事件です。
 こちらは姉妹から依頼を受けました。お一人が遠方にお住まいでしたので,コミュニケーションに気をくばりました。

 父親が先に亡くなり,母親が最近亡くなった事案です。本来,父親が亡くなった際,母親が2分の1,子どもたちが各6分の1(1/2×1/3)相続していました。金融資産(預貯金)については母親が相続していたのですが,不動産については分割が未了でした。

 母親が亡くなった時点で,民法上は,子どもたち(兄姉妹)がそれぞれ3分の1ずつ分割することになります。しかし,兄が両親と同居し,実家が農業をしていたことから,そうはなりませんでした。

 本件では主に特別受益(生前贈与)が問題になりました。姉妹に対し,生前贈与があったというのです。その一部については,当方も認めましたが,残りについては争いました。

 特別受益があるとなると,死亡時の(狭い意味での)遺産に特別受益相当額を加算したものが広い意味での遺産となり,それを3等分し,特別受益をうけた当事者は,そこから特別受益分を控除したものが実際の相続分となります。(例えば,相続人ABCで死亡時の遺産5500万円,Bの受けた生前贈与が500万円の場合,6000万円が広い意味での遺産となり,その3分の1にあたる2000万円を各自が相続することとなり,ただしBは特別受益分500万円を控除し,1500万円となります。ACが2000万円,Bが1500万円で合計5500万円になります。)

 他方,兄に対する生前贈与も問題になりました。母親が金融資産を承継したことから,その生前贈与が問題になりました。当方の依頼人としてはそれをはっきりさせることが目的のひとつでした。しかしながら,同居しておらず,情報が乏しいため,なかなか困難なところがありました。

 最終的には,生前贈与を考慮して,兄が田畑を取得する,金融資産を3等分することになりました。

 法定相続制度は,家督相続制度と異なり,平等な法定相続分を定めていることから,長男とその他の兄弟間の意識のギャップを生じることが少なくありません。本件もそれがなかったわけではないでしょう。しかしながら,全員が細かいところに目をつぶり早期の解決を図ることができました。

 調停には本人が出頭されるのが望ましいのですが,本件では当方の依頼人はいちども出頭しないで解決することができました。

2018年3月14日水曜日

遺産分割調停が成立しました。


 ある遺産分割事件の調停が成立しました。
 相続人は,伯父と甥2人の3人です。

 ある相続人の手許で行方不明となった預貯金がありましたが,半分くらい返金することで合意ができました。
 被相続人の生前,死後を問わず,行方不明の預貯金の処理はむずかしい。争いになれば,地方裁判所でその存否を争わなければなりません。
 本件では,地裁での結論予測やそこに至るまでの手間・ヒマ・費用などの衡量をもとに,上記解決ができました。

 特別受益・寄与分の主張はなかったので,遺産を3等分することに争いはありませんでした。

 問題は,遺産のなかに不動産が存在し,そこにある相続人の子どもが住んでいることでした。
 関係者のなかに,不動産が欲しくて,かつ,現金が用意できる人がいれば,その人が不動産を取得し,その余の相続人に代償金を支払うという解決ができます。たとえば,3,000万円の不動産をAが取得し,その代償として,AがB,Cに対し1000万円ずつ支払うという方法です。
 本件ではこれによることができなかったので,不動産を売却し,経費を控除した残金を3分の1ずつ分配することになりました。現在,不動産業者に依頼して売却中です。

 というわけで,調停が成立したものの,紛争全体が決着をみるためには不動産の売却をまたなければなりません。が,とまれ一応の中間点は到達です。

2017年12月6日水曜日

『水戸黄門』のように,なぜ正義が勝たないのか?(2)筑紫野市の弁護士の回答


            (宝厳院の紅葉)

 きのうのつづき。
 
 『水戸黄門』や『遠山の金さん』の場合,最後は大立ち回りをやってどちらかというと刑事処分,行政処分的な解決が図られている。しかしながら,日本の現行法上は民事的な解決が図られることが一般的である。

 民事的な解決といった場合,テレビ的な大立ち回りで一件落着というわけにはいかない。きのう書いたような幾多の困難を乗りこえて,民事裁判で「被告は原告に対し金1,000万円を支払え。」との勝訴判決をえたとする。実務ではそこから先にこそ最大の困難がまち受けていることが多い。 

 この判決を現金に換えて満足をえるには,被告が任意に支払うか,それがなければ強制執行によらなければならない。強制執行は,被告の財産,たとえば,不動産,預貯金だとか,給与だとかの差押え・競売をおこない,これにより現金を得るということである。ということは,被告に財産がなければ満足は得られない。被告の財産の所在がわからないということも,これに含まれる。とくに後者の場合,一般的な理解は非常に得られにくい。

 財産の所在調査については,近時,裁判手続のなかで,財産開示がなされるようになっている。しかし,これも限界がある。そこから先は,興信所や探偵の仕事になるのであるが,そこにも困難が含まれている。なかなか,『水戸黄門』や『遠山の金さん』のように,すっきりとした解決に至らないことも残念ながら少なくないのである。