2011年4月15日金曜日

 「月と蟹」


 後鳥羽上皇や順徳院を承久の乱で破り
 彼らを追放した武家政権の所在地が鎌倉。

 鎌倉散策はだいすきですが、京都と比べると
 「太陽と月」というか、すこし陰なイメージ。

 その鎌倉を舞台にしたのが
 道尾秀介さんの「月と蟹」(文藝春秋)。

 ちょっと、びっくりしました。道尾さんは
 もっとキワモノを書いているのかと思っていたので。

 「ノルウェイの森」で、ワタナベが寮の先輩・永沢さんから
 借りていた本が、ジョゼフ・コンラッドの「ロード・ジム」。
 
 遭難した老朽船パトナ号に800人の乗客を残したまま、船を見捨てて
 船長ら3人とボートで「脱出」してしまった一等航海士ジム。

 その人生が船乗りマーロウの言葉により語られるのですが
 彼は我々にこう問いかけます(柴田元幸訳・河出書房新社)。

 「率直に言って、私が不審の念を抱いているのは
 私の言葉ではなく君たちの心だ。

 もし君らが、肉体に糧を与えるために想像力を
 枯渇させてしまっていなければ、私としても雄弁になれるだろう。

 失礼なことを言っているつもりはない。幻想を持たないのは
 まっとうなことだしー安全だしー儲かるしー退屈だ。

 けれど君たちだって、かつては生の強烈さを、些細な事どもの
 衝撃の中で生み出されるあの魅惑の光を知っていたはずだー

 冷たい石から打ち出された火花の閃きに劣らず驚異的な
 そして、ああ、同じくらい儚い光を!」

 「月と蟹」は、我々がかつて知っていた「些細な事どもの衝撃の
 中で生み出されるあの魅惑の光」「儚い光」を思い出させてくれます。

 ご一読ください。
 

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