2011年1月17日月曜日

 「KAGEROU」の密告


 水嶋ヒロこと斎藤智裕さんの話題作「KAGEROU」
 この話題についてはこれまで何度かとりあげましたし
 12月16日には買ったこと、感想を紹介すると予告もしました。

 しかしこの宿題がなかなかに難しい…
 毀誉褒貶うずまくなか、時間ばかりが経ってしまいました。

 「KAGEROU」は爆発的に売れる一方で
 週刊誌やネットでゴウゴウたる批判も浴びています。

 でも批判をよく読んでみると、実は読んでないんじゃないの?
 というものがほとんど。

 (今後は不要な勘ぐりを減らすためにも
 選考過程をもっと透明化する必要があるでしょう。)

 ま、批判したくなる気持ちはよーくわかります。

 天は2物も3物も与えじゃないけど、水嶋ヒロさん一人が
 イケメンで、かっこいい役者で、絢香さんと結婚して
 小説が書けて、2000万円もの懸賞金を辞退したと聞けば
 ふつうの男はオモシロかろうはずはありません。

 こんななか、下手に褒めたりすると
 男の裏切りものとして、今後、いじめの対象にされかねないな…
 という空気が濃厚です。

 しかし、読まずに貶すというのはいかがなものでしょう?

 もてないのはイケメンじゃない等々だからではなく
 本も読まないで他人の悪口をいうような性格だからじゃないの!
 と突っこみたくもなります。

 自由と正義を求める弁護士としては
 なんとしてでも一言いいたいという気持ちでした。

 でも村上さんの「ノルウェイの森」を読んだあとなので
 そのまま感想をのべたのではすこし公正さを欠くと考え

 最近の芥川賞受賞作である赤染昌子さんの「乙女の密告」も
 あわせて読んでみました。

 これはうまい!
 赤染というペンネームは百人一首の歌人・赤染衛門からだとか。

  やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて
   かたぶくまでの 月を見しかな

の和歌を詠んだ人
 平安中期に活躍し、和泉式部とならび称されたそうです。

 和泉式部が情熱的な歌風なのに対して
 赤染衛門は穏やかで典雅な歌風だったとか。

 「乙女の密告」は穏やかで典雅とはいえませんが
 本歌である「アンネの日記」を踏まえたうまさが秀逸。

 ということで
 うーん、ますます難しい…。

 と思っていたら、1月9日(日)朝日新聞の読書「売れている本」欄に
 佐々木敦さんが「重い主題 軽い文で淡々と」と題して
 書評を書かれていました。

 さすが批評家、私のいわんとするところが
 ほぼそのまま書かれていました。

 大幅なパクリで申し訳ないですが
 引用させてもらいながら、本宿題の責めをふさぎたいと思います。

 佐々木さんの冒頭は
 「これほど当欄にふさわしい本がまたとあるだろうか?」
 うまいですねぇ。

 本書は発売1か月を経ずして印刷部数がなんと100万部を超し
 日本出版史上に残る大ベストセラーになったわけだから
 「売れている本」欄で紹介するにふさわしいというわけ。なるほど。

 佐々木さんの感想は一言でいうと、
 「率直な感想としては、一部で揶揄されているほどヒドくはない
 むしろ結構オモシロいんじゃないの」というもの。賛成。

 「ヤスオはシリアスな場面でも露骨なオヤジギャグを飛ばし
 地の文にも、そこはかとないユーモア感覚があって
 読者の感情をエモーショナルに喚起するような要素は
 ほとんど皆無であるとさえ言ってもいい。」異議なし。

 問題はその先
 「そのことが批判されているようだが、私は必ずしもそうは
 思わなかった。これは明らかにわざとである。

 この小説の最大の美徳は、泣ける物語を、しかし決してあからさまに
 泣かせようとはせず、やたら淡々と語ってみせたということだろう。」

 うーん?こう判断できるかはちょっと証拠不足
 この点だけ、佐々木さんと見解を異にしました。

 佐々木さんももちろん、最後に注文を忘れません
 「問題はもちろん、二作目であることはいうまでもない。」同感。

 斎藤智裕さんの作家生命がカゲロウの成虫のように
 はかなく終わらないよう、今後の活躍を期待しています。
 

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