健康保険法という法律を読んだだけでは、訪問看護事業とは何なのか、訪問看護ステーションとは何なのかなどはとても分かりにくい。
健康保険法88条1項にはこう書いてある。
被保険者が、厚生労働大臣が指定する者(以下「指定訪問看護事業者」という。)から当該指定に係る訪問看護事業(疾病又は負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある者(主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。)に対し、その者の居宅において継続して看護師その他厚生労働省令で定める者が行う療養上の世話又は必要な診療の補助(保健医療機関等又は介護保険法第8条28項に規定する介護老人保健施設若しくは同条第29項に規定する介護医療院によるものを除く。以下「訪問介護」という。)を行う事業所により行われる訪問看護(以下「指定訪問看護」という。)を受けたときは、その指定訪問看護に要した費用について、訪問看護療養費を支給する。
なんたる悪文。一読して意が通じない。意図的に分かりにくく書いているとしか思えない。
健康保険法は厚生労働省(内閣)が原案を考えて国会に提出した、いわゆる閣法だろう。三権分立の建前からすれば法律は国会がつくり、行政がこれを執行することになる。しかし、国会議員がつくる法律、いわゆる議員立法は少数である。大多数は行政・政府が原案を考える閣法となっている。
その点はとりあえず措くとして、この分かりにくさはないだろう。これを提出され審議にあたった国会議員のうち、ここに書いてあることを正確に理解した議員はいかほどいたことか心配になる。
解読してみよう。まず、「訪問介護」とは?
疾病又は負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある者に対し、その者の居宅において継続して看護師らが行う療養上の世話又は必要な診療の補助をいう。
但書きが3つある。
1、「居宅において継続して療養を受ける状態にある者」は、主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。
2、「看護師ら」とは、看護師その他厚生労働省令で定める者である。
3、本条の「訪問看護」は、保健医療機関等又は介護保険法第8条28項に規定する介護老人保健施設若しくは同条第29項に規定する介護医療院によるものを除く。
つぎに、「指定訪問看護」とは?
指定に係る訪問看護事業を行う事業所により行われる訪問看護をいう。
ただし、指定訪問看護事業者とは、厚生労働大臣が指定する者をいう。
かくて健康保険法88条1項の定めていることは?
被保険者が、指定訪問看護を受けたときは、その指定訪問看護に要した費用について、訪問看護療養費を支給する。
ということだけである。なんか肩透かしをくった感じである。
その他必要な事項は、厚生労働省令で定めることとされている。これを委任立法という。法律には骨子しか書かず、あんこの部分は省令等に委ねるやり方である。美術館を訪ねたら1Fには抽象画1点しか陳列しておらず、詳しくは地下1階へと案内がある。地下1階に行くと・・・。
ふつう、さらに地下2階、3階へ行くよう指示される。通知・通達というやつで、事務次官、局長・部長、課長・室長など各レベルの通知・通達が存在する。行政内部の指示にすぎないはずが、行政外部の人間も事実上これに拘束されることになる。
こういうやりかたは、厚生労働省が思うように健康保険法を柔軟に運用できるメリットがあるものの、国民の代表である国会のコントロールを免れるものであるという批判がある。
ともかく、厚生労働省令を見てみよう。まず、健康保険法施行規則74条。
法88条第1項の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書及び書類を当該申請に係る訪問看護事業を行う事業所の所在地を管轄する地方厚生局長等に提出しなければならない。
一 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名及び住所
二 訪問看護ステーションとなる事業所の名称及び所在地
・・・
十 運営規程
・・・
十五 その他厚生労働大臣が必要と認める事項
というわけで、施行規則を読むだけでは足りない。その他いくつかの厚生労働省令をあわせて読む必要がある。
顧問先から依頼を受けた身体的拘束の原則禁止、虐待防止、事業継続計画の策定に関する条項を運営規程、重要事項説明書及び契約書に反映させるということからすれば、「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年3月31日)(厚生省令第80号)を参照しなければならない。
ここまでできるだけ分かりやすく解説してきたが、分かっただろうか?・・・分かんないよね。
※とくに、大雪山~トムラウシ山縦走からこの話だから、書いているほうも頭がついていかない。