2024年10月9日水曜日

離婚事件(解決)(5)未成年の子の面会交流

 

 親権者を誰にするかという紛争に付随する問題として、別居親と未成年の子らとの間の面会交流の問題がある。親権者を誰にするかでもめているわけだから、同居親は別居親と子どもが面会交流することに積極的ではない。解決が困難であるゆえんである。

 面会交流が別居親の権利であると誤解している向きがおおいが、そうではない。面会交流は子どもの権利である。子どもの利益のために行われなければならない。

 古代中国以来、人間の本質について性善説と性悪説とが対立している。一般的に法律は性悪説に立脚している。性悪説だと、人の言うことを疑ってかかることになってしまう。法律家は悪しき隣人といわれるのはこのためである。

 面会交流の問題も性悪説に立てば、やめておいたほうが無難である。しかしなぜか性善説のほうが幅をきかせている。面会交流をしたほうがデメリットよりメリットが大きいというのである。

 別居親が完璧な親の立場に徹し、子どもたちの健全な発達に資する態度に終始すれば問題はない。それは両親のよい影響を受けた方が子どもにとって幸せに決まっている。しかし、別居親が完璧な親を演ずることはそう簡単ではない。どうしても不必要に甘やかしてお菓子やおもちゃを買ってやったり、同居親の悪口を言ったりしてしまう。

 調停において、離婚後の面会交流に関する条件が定められることが一般的である。この問題も子どもの年齢というファクターが大きい。

 子どもが中学生以上で、別居親が近くに住んでいれば、同居親の協力がなくても面会交流をすることができる。

 しかし2,3歳の子の面会交流となれば同居親の協力が不可欠である。アマゾンの商品のように置き配というわけにはいかないから、日時・場所を決めて子どもの受け渡しをしなければならない。別居親とはメール交換もいやだという同居親が多いので、これはやっかいである。

 さらにやっかいなのは、離婚調停中の面会交流である。両親とも戦闘モード中の面会交流だから、離婚成立・親権者指定後のそれより一層難しい。ガザで停戦合意を実現して、子どもたちにポリオワクチンを接種する状況に似ていなくもない。

 だいぶ昔(もう時効だろう。)、佐賀県郡部出身・在住の別居親(父)と5,6歳の長女、長男の面会交流に付き添ったことがあった。離婚調停中に正月が来てしまい、正月期間中に子どもたちと面会交流をしたいと別居親側が要求した。

 同居親(母)は福岡都市圏出身・在住で資格をもつキャリアウーマンだった。一般論としても、女性のほうが男性に比べて意識が10年ほど進んでいる。佐賀県郡部の男性と福岡都市圏の女性となれば20年くらいのギャップになる。価値観の違いはおおきい。

 我妻栄先生の教えどおり、夫婦とは川に網を張って魚をとるようなものである。価値観が近ければ網は安定するが漁獲はすくない。逆に、価値観が遠ければ網は不安定であるが漁獲はおおい。だから、価値観が近いほうがよいとも一概にはいえないのである。が、遠ければ離婚に至るリスクが高い。

 案の定というべきか、佐賀県の男性と福岡県の女性は離婚調停をするに至っていた。子どもの面会交流についても意見が激しく対立し、互いに一歩も譲歩しようとしない。やむなく調停委員の指示により、正月期間中であったが(トホホ)、当職が子どもたちに付き添って面会交流をすることになった。

 可哀想なのは、板挟みとなっている子どもたちである。母のもとを離れるときは「お母さんといっしょにいたい。」と言っていたが、父のもとに来ると「お父さんといっしょにいたい。」と言い出した。まるで映画かドラマの一場面のようだった。子どもたちの苦渋を考え、当職の心臓もはりさけそうだった。

 かくて、未成年の子を抱える両親の離婚事件は気が重いのである。

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