2024年10月17日木曜日

離婚事件(解決)(8)慰謝料

 

 さいきんはインターネット普及のせいか減ったが、以前は「夫と離婚したい。ついては慰謝料2000万円を請求したい。」という相談が多かった。

 これはむかしの情報源が週刊誌やバラエティ番組だったことによる。「芸能人Aと妻が離婚した、Aが妻に慰謝料2000万円支払った。」などというニュースである。

 離婚したいと考えたとき、相手も同じ考えであれば問題ない。当事者だけの協議離婚であろうと、家庭裁判所における調停離婚であると同じである。離婚原因は必要ない。

 しかし相手が離婚に同意していないときは簡単でない。裁判上の離婚をするしかない。その場合、離婚原因が必要である。裁判所が夫婦間に割って入り、離婚する考えのない相手に対し離婚しなさいと命ずるのであるから当然である。

 民法は、離婚原因として、次の5つをあげる。
1 配偶者に不貞な行為があったとき。
2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

 1~3が証明できるときは、あまり問題ない。4のときは、離婚後の相手の生活が成り立つかどうかが吟味される。

 問題は5である。性格の不一致と呼ばれるものなどがこれに含まれる。不貞などのように決め手がないため、判決という蓋を開けてみるまで結果は分からない。

 さいきんは離婚原因を訊くと、「夫のモラハラです。」と回答する妻が増えた。モラハラだから離婚して当然という顔をしている。モラハラとはモラルハラスメントの意。モラル(道徳)に反する精神的な暴力や、言葉や態度による嫌がらせ行為をいう。

 モラハラだから離婚したいと訴えても裁判所は100パーセント、これを認めない。令和2年10月夫が妻に「死ね。」などと暴言を言った。令和3年2月夫が妻に「この穀潰しが。」などと暴言を言った。同年7月夫が妻に「このバカが。」と言った。などなど個別具体的な事実を積み上げるしかない。

 離婚事件は家庭内の出来事だから証拠がすくない。それでも昔に比べれば、殴られたアザをスマホで撮りましたとか、夫の暴言がラインの履歴に残っていますなどということが増えてきてはいる。

 話を最初に戻すと、慰謝料は離婚により当然請求できるものではない。たとえば、性格の不一致により離婚する場合、こちらが請求できるのであれば、相手だって請求できるということになりかねない。

 慰謝料は、相手の不法行為により発生する損害賠償金である。相手が不貞をしたとか、暴力をふるって怪我をさせたことにより発生するのである。

 つぎにその額であるが、2000万円ということはない。一般的には200~300万円くらいが相場である。DV等による被害が大きければ500万円もありえよう。しかし芸能人の離婚事件を取り扱ったことがないので分からないが、裁判所が2000万円の慰謝料を認めることはあるまいと思う。恐らく財産分与額と合算された数字ではなかろうか。

 さらなる問題はその現金化である。裁判所が相手に対し200万円を支払えと命令したからといって、それがただちに現金になるわけではない。暴力をふるうような相手であれば、お金をもっていないことが多い。

 夫から2000万円の慰謝料をもらいたいという妻に「夫はそんなにお金をもっているのですか?」と尋ねると、たいがい首を横に振る。ま、そうだろう。「お金をもっていない人からお金はとれない。」夫婦関係が永遠に続くとはかぎらないが、これは動かしがたい永遠の真理である。

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