2011年3月2日水曜日

 コマクサの「終わらざる夏」


 
 浅田次郎さんの「終わらざる夏」
 何度も泣けます。電車のなかでは読めません。お薦めします。

 北方4島をめぐり、きなくさいきょうこのごろですが
 千島列島最北端の占守島における終戦秘話が切々と語られます。

 以前、北方領土返還を訴える国会議員がテレビに出演し
 北方4島の位置関係を問われて答えられず醜態をさらしていました。

 こんな人たちにとんでもないところへ連れて行かれてはたまらない
 と感じました。まずは正確な事実を知ることからはじめなければ。

 「終わらざる夏」は声高な反戦小説ではありません。
 ですが

 終戦期、ひとりひとりの日本人がどう生きたかという姿をとおして
 戦争の愚かさと平和の貴さを伝えています。

 ラスト、シベリア抑留で死線をさまよっていた菊池軍医は
 亡くなった中村末松伍長から託されたノートをぐうぜん開きます。

  ページをめくったとたん、終わらざる夏の光と風が
  耀い吹き上がったのだった。

 ノートのなかみは故・中村伍長がつくっていた捺し花です。

  ハマナス 採取地 占守島竹田濱

  エゾトリカブト 大観臺
  コマクサ 同
  チシマフウロ 山田野
  イヌタデ 三塚山
  レンゲショウマ 三好野飛行場
  チシマキンバイ 別飛沼湿地

 山に登る人間からすると、ここに並んだ花々はどれも
 ちかしい名前たちです。

 なぜなら、ほとんどが高山に咲く花でもあるからです。

 なぜ、そうなのでしょう?
 ひとつは、高山の厳しい環境が千島のそれと似ているということでしょう。

 山を登ると、森林限界という一線があり、そこを越えると
 意外にもお花畑が広がっています。

 低温、風雪など厳しい自然環境により針葉樹でさえ生きていけない世界
 それが森林限界より先の高山です。

 ところが逆に針葉樹など他の植物がいない環境であることが
 高山植物が生きる条件にもなっているわけです。

 強風雪や乾燥に強い、栄養を備蓄する、短期間に花を咲かせ実をつける
 などのそれぞれの個性を発揮してけなげに花を咲かせています。

 環境が似ているのはいいとして種はどうしたのでしょう?
 千島から風や鳥が運んできたのでしょうか?

 この答えは、氷河期に日本の中央まで進出していた植物が
 高山で現在まで生き残ったものだといわれています。

 氷期が終わったのが1万年前とされていますから
 高山の花々は1万年前から厳しい環境に耐えてきたわけです。

  赤、白、黄色、青、紫。
  捺し花は夏の匂いとともに命をとどめていた。
  

1 件のコメント:

  1. そうですね、「終わらざる夏」。上手いですね、作家というのは凄いと思います。余りに上手くてこんなに感情移入していいのかと思う位に上手い。勿論、そのプロットに考えさせられるものがあるからですが。
    戦争というのは究極の人権侵害です。私の父母たちの青春はそれに彩られています。そして、それを支持したのは間違いなく私の祖父母たちだったという事実には愕然としますね。

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