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2025年1月31日金曜日

『ゲーテはすべてを言った』鈴木結生著・朝日新聞社刊

 

 今週は、早朝から飯塚で破産債権者集会があったり、顧問会社むけのセミナーをやったりして、あまりブログが書けなかった。楽しみにされているファンのみなさま、申しわけありません(そんな人いないかもしれないけれど)。ではいきなりですが、むすびの投稿。

 15日第172回芥川賞に鈴木結生さんの『ゲーテはすべてを言った』が選ばれた。鈴木さんは西南学院大学の現役院生ということで、地元ニュースで何度もとりあげられた。

 すわと思って書店に行くけれども、なかなか福岡まで増刷本がまわってこない。受賞を受けて増刷をかけ、大消費地から平積みにされていくのだからしょうがない。

 21日(火)、ジュンク堂の外商さんに尋ねるも、外商まで廻ってくるのには時間がかかるという。

 27日(月)、新天町にある2書店をまわったが、店頭での発見にはいたらなかった。

 28日(火)、朝から久留米で遺言書の検認事件があった。その帰りにあまり期待はしていなかったが念のため、西鉄久留米駅の「ブックセンタークエスト」にクエスト(探求)してみると、なんと平積みにされていた。わーい。

 いっきに読んだ。久留米からの帰りはロータリークラブの職場訪問例会で、筑紫ガスの石崎工場を見学することになっていた。朝倉街道駅で西鉄電車を下車しなければならないところ、乗り過ごしてしまい二日市駅まで行ったしまった。例会終了後も、二日市駅でおりそこなうところだった。

 『ゲーテはすべてを言った』はAI要約によると、ドイツの文豪ゲーテの研究者である主人公が、自分の知らないゲーテの言葉と出会い、その原典を探し求める物語。ドラゴンクエストならぬ、ブッククエストの物語である。 

 著者の該博な知識に驚いた。聖書にはじまる人類の知の花々をアレンジして統合的に語る色彩感覚・造形感覚に幻惑された(カバーのイラスト参照)。20代の大学院生がこれを書いたことに羨望を覚えた。

 検索してみると、福岡の大学で、九大や福大は芥川賞や直木賞作家を輩出していないようだ。それに対し、西南大学では、鈴木さんを含め4人が受賞。葉室麟さん(12年直木賞)、東山彰良さん(15年直木賞)、沼田真佑さん(17年芥川賞)。これにも羨望を覚えた。

 オビにあるとおり「ゲーテ学者が侵した、越えてはならなかった一線・・・。」というのがクライマックス。はたしてクエストの対象となったゲーテの言葉は発見されるのか。研究者はどこまで語ってよいのか。

 すべては言ってないけれども、これくらいで。

2012年10月5日金曜日

『冥土めぐり』by.福岡県筑紫野市の弁護士





鹿つながりで,
鹿島田真希さんの『冥土めぐり』(河出書房新社)。

今期の芥川賞受賞作。
いかにも,らしい作品でした。

直木賞がレコード大賞なら
芥川賞は新人賞。

前者が練達の作家による
うまい作品なのに対し

後者は新進気鋭の作家による
前衛的・実験的作品がおおい。

(芥川賞作品は,そう思って読まないと
なんじゃこれ?と思うと思います。)

(ボクの後輩には,時間のムダだから
読まないという人もいます。そうかな?)

この作品も
こきこきしていました。

テーマは,母(血)の束縛からの娘の自立
でしょうか?

なんか最近,女流作家のあいだで
このテーマが流行っているような。

このテーマにかぎらず,社会問題をきっけけにするのか
先行する他の作品にインスパイアされるのか…。

母・娘ではなく,父・息子という組合せであれば
旧約聖書からの伝統的なテーマ。

好きなのはスタインベックの
『エデンの東』。

父の愛を切望しては
得られない(と思い込んでいた)主人公。

かれが死の床にある父から
贈られた言葉。

「ティム・ショール」
(道は開かれている。)

スタインベックらしい
みごとなラスト。

これは深く,いい言葉です。
そう,道は開かれているんです。

                    弁護士 浦田秀徳


2011年12月9日金曜日

『平成猿蟹合戦図』



 吉田修一さんを知ったのは
 どちらの作品だったか?

 仲間由紀恵さん主演でテレビドラマになった
 『東京湾景』(新潮社2003)だったか?

 そのころ薬害肝炎訴訟を提起。
 東京での会議の際、モノレールのなかで読んだ記憶が。

 それとも芥川賞を受賞した『パークライフ』(文藝春秋2002)
 だったか?
 
 これも東京・弁護士会館での会議がはじまる前の時間
 日比谷公園で読んだ記憶が。

 それから、『最後の息子』(文藝春秋1999)
 『熱帯魚』(文藝春秋2001)

 『パレード』(幻冬舎2002)
 『日曜日たち』(講談社2003)

 『ランドマーク』(講談社2004)
 『7月24日通り』(新潮社2004)

 『初恋温泉』(集英社2006)
 『悪人』(朝日新聞社2007)
 
 『静かな爆弾』(中央公論社2008)
 『元職員』(講談社2008)

 『さよなら渓谷』(新潮社2008)
 『横道世之介』(毎日新聞社2009)

 こうして並べてみると、伊坂幸太郎さんや奥田英朗さんほど
 意識的には追いかけていないけど、そうとう読んでますね。

 『7月24日通り』は大沢たかおさんと中谷美紀さん主演の
 映画(2006)もステキでした。

 妻夫木聡さんと深津絵里さんで映画になった
 『悪人』も記憶に新しい。このブログにも書きました。

 さていま書店に平積みされているのが
 『平成猿蟹合戦図』(朝日新聞出版)。

 タイトルから明らかなとおり
 有名な昔話を下敷きに。

 読む前はこのタイトルはよくないと思っていました。
 話の展開がみえみえな気がして、読む気を削ぐので。

 ところが途中これがなんで猿蟹?と安易な臆断を心地よく裏切られ
 最後はぴしゃっと猿蟹で着地を決めるという見事さ。

 たくみな話運びと
 しっかりとした構築性を堪能させられました。

 長崎、東京、秋田を結んで
 若者たちが政治の世界に挑戦する話。

 近年話題になった虎退治やクマ退治が
 ベースになっているのでしょうか?

 長崎出身の吉田さんの関心からすれば
 やはり「エリのクマ退治」のほうでしょうか?

 そうだとすると、きょうの話
 薬害肝炎提訴からはじまり、うまく着地なのですが。 

 (政治のリアルにもとづいているのでしょうが
 裏勢力との関係が無批判に書かれているのが唯一難点でしょうか)

2011年1月17日月曜日

 「KAGEROU」の密告


 水嶋ヒロこと斎藤智裕さんの話題作「KAGEROU」
 この話題についてはこれまで何度かとりあげましたし
 12月16日には買ったこと、感想を紹介すると予告もしました。

 しかしこの宿題がなかなかに難しい…
 毀誉褒貶うずまくなか、時間ばかりが経ってしまいました。

 「KAGEROU」は爆発的に売れる一方で
 週刊誌やネットでゴウゴウたる批判も浴びています。

 でも批判をよく読んでみると、実は読んでないんじゃないの?
 というものがほとんど。

 (今後は不要な勘ぐりを減らすためにも
 選考過程をもっと透明化する必要があるでしょう。)

 ま、批判したくなる気持ちはよーくわかります。

 天は2物も3物も与えじゃないけど、水嶋ヒロさん一人が
 イケメンで、かっこいい役者で、絢香さんと結婚して
 小説が書けて、2000万円もの懸賞金を辞退したと聞けば
 ふつうの男はオモシロかろうはずはありません。

 こんななか、下手に褒めたりすると
 男の裏切りものとして、今後、いじめの対象にされかねないな…
 という空気が濃厚です。

 しかし、読まずに貶すというのはいかがなものでしょう?

 もてないのはイケメンじゃない等々だからではなく
 本も読まないで他人の悪口をいうような性格だからじゃないの!
 と突っこみたくもなります。

 自由と正義を求める弁護士としては
 なんとしてでも一言いいたいという気持ちでした。

 でも村上さんの「ノルウェイの森」を読んだあとなので
 そのまま感想をのべたのではすこし公正さを欠くと考え

 最近の芥川賞受賞作である赤染昌子さんの「乙女の密告」も
 あわせて読んでみました。

 これはうまい!
 赤染というペンネームは百人一首の歌人・赤染衛門からだとか。

  やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて
   かたぶくまでの 月を見しかな

の和歌を詠んだ人
 平安中期に活躍し、和泉式部とならび称されたそうです。

 和泉式部が情熱的な歌風なのに対して
 赤染衛門は穏やかで典雅な歌風だったとか。

 「乙女の密告」は穏やかで典雅とはいえませんが
 本歌である「アンネの日記」を踏まえたうまさが秀逸。

 ということで
 うーん、ますます難しい…。

 と思っていたら、1月9日(日)朝日新聞の読書「売れている本」欄に
 佐々木敦さんが「重い主題 軽い文で淡々と」と題して
 書評を書かれていました。

 さすが批評家、私のいわんとするところが
 ほぼそのまま書かれていました。

 大幅なパクリで申し訳ないですが
 引用させてもらいながら、本宿題の責めをふさぎたいと思います。

 佐々木さんの冒頭は
 「これほど当欄にふさわしい本がまたとあるだろうか?」
 うまいですねぇ。

 本書は発売1か月を経ずして印刷部数がなんと100万部を超し
 日本出版史上に残る大ベストセラーになったわけだから
 「売れている本」欄で紹介するにふさわしいというわけ。なるほど。

 佐々木さんの感想は一言でいうと、
 「率直な感想としては、一部で揶揄されているほどヒドくはない
 むしろ結構オモシロいんじゃないの」というもの。賛成。

 「ヤスオはシリアスな場面でも露骨なオヤジギャグを飛ばし
 地の文にも、そこはかとないユーモア感覚があって
 読者の感情をエモーショナルに喚起するような要素は
 ほとんど皆無であるとさえ言ってもいい。」異議なし。

 問題はその先
 「そのことが批判されているようだが、私は必ずしもそうは
 思わなかった。これは明らかにわざとである。

 この小説の最大の美徳は、泣ける物語を、しかし決してあからさまに
 泣かせようとはせず、やたら淡々と語ってみせたということだろう。」

 うーん?こう判断できるかはちょっと証拠不足
 この点だけ、佐々木さんと見解を異にしました。

 佐々木さんももちろん、最後に注文を忘れません
 「問題はもちろん、二作目であることはいうまでもない。」同感。

 斎藤智裕さんの作家生命がカゲロウの成虫のように
 はかなく終わらないよう、今後の活躍を期待しています。