2026年5月21日木曜日

【労働問題・コラム】月平均所定労働時間とは

 【事例1】エスエイロジテム(時間外割増賃金)事件

 株式会社Yでは、月間の総労働時間数について、174.48時間とし、それを超える部分を時間外労働として取り扱っている。このような運用は認められるだろうか。

【事例2】スタジオインク事件

 株式会社Yの就業規則には、所定労働時間が1日8時間、1週間40時間とされ、所定休日は、日曜日、国民の休日、年末年始(12月29日から翌年1月4日まで)、土曜日、その他会社が必要と認めた日及び夏季休暇(3日間)とされ、これによると平成18年の所定休日は122日となっていた。月平均所定労働時間は何時間になるだろうか。


【解説】

 割増賃金(残業代)は、時間単価×残業時間×割増率で計算する。

 時間単価は、月給制の場合、月給の基礎賃金額÷月平均所定労働時間数で計算する(労基則19条1項4号)。

 月平均所定労働時間の労基法上の上限値は、173.80時間(閏年174.28時間)である。


・閏年以外

 週40時間×52週(364日分)=2080時間(①)

 40時間×1週÷7日(残り1日分)≒5.7時間(②)

 ①+②=2085.7時間(365日分)÷12か月=173.80時間

・閏年

 週40時間×52週(364日分)=2080時間(①)

 40時間×1週÷7日×2日(残り2日分)=11.42時間(②)

 ①+②=2091.4時間(366日分)÷12か月≒174.28時間


 【事例1】のように、労基法上の上限値を超過している場合や月平均所定労働時間が不特定である場合、労基法上の上限値を月平均所定労働時間として計算する。使用者側に最も有利な時間であるため、労働審判等で争点を減らす目的で、初めから労基法上の上限値で請求する場合もある。

 【事例2】のように、就業規則において所定休日等の規定がある場合には、実際の月平均所定労働時間を計算した方が労働者に有利である。

≪計算式≫

(365日-122日)÷12か月×8時間=162時間




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①東京地判平成12年11月24日・労判802号45頁(事例1)

②東京地判平成23年10月25日・労判1041号62頁(事例2)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一711~712頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人131~140頁


富永

2026年5月17日日曜日

【労働問題・コラム】割増賃金の基礎とならない除外賃金② 通勤手当

  【事例】大島産業ほか(第2)事件

 株式会社Yでは、もっぱら従業員の手取り額を増やすために、賃金の一部を「非課税通勤費」名目で支給するようになり、本店敷地内にある寮に寝泊まりするXらにも一律で「非課税通勤費」として月1万1000円を支給していた。通勤手当は、割増賃金(残業代)を計算する際の時間単価(賃金単価)に含まれるだろうか。


【解説】

 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つは、割増賃金の基礎となる賃金には算入しない(労基法37条5項、労基則21条)。

 割増賃金額が個人的な事情で変化するのはおかしいという考え方から除外されたものである。

 手当の名目ではなく、実質で判断される(昭和22年9月13日発基17号)。

 【事例】では、通勤を要しなかった長距離トラック運転手に対しも「非課税通勤費」が支払われていたこと等の実質を踏まえて、基礎賃金に含まれると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①福岡高判令和元年6月27日・労判1212号5頁(事例)

■地方裁判所

②福岡地方裁判所平成30年11月16日・労判1212号12頁(裁判例①の原審)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)711頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)192~204頁


富永

2026年5月14日木曜日

【労働問題・コラム】割増賃金の基礎とならない除外賃金① 住宅手当・家族手当

 【事例】デンタルリサーチ事件

 株式会社Yでは、従業員Xに対して住宅手当5万2000円、家族手当5万9500円を支給しているところ、これは扶養家族の有無・数や持家・賃貸の別、住宅ローン・家賃の額に応じたものではなく、もともと役職手当、特別手当、職能給という名目で支給していたものを廃止し、住宅手当、家族手当を増額させて総支給額を同額にしたものであった。住宅手当、家族手当は、割増賃金(残業代)を計算する際の時間単価(賃金単価)に含まれるだろうか。


【解説】

 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つは、割増賃金の基礎となる賃金には算入しない(労基法37条5項、労基則21条)。

 割増賃金額が個人的な事情で変化するのはおかしいという考え方から除外されたものである。

 手当の名目ではなく、実質で判断される(昭和22年9月13日発基17号)。

 【事例】では、住宅手当、家族手当の名目で支給されていた手当について、扶養家族の有無・数や、持家・賃貸の別、住宅ローン・家賃の額等の個人的事情に基づき定められたことを窺わせる証拠が全く存在しないとして、基礎賃金に含まれると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①東京地判平成22年9月7日・労判1020号66頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)711頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)192~204頁


富永

2026年5月10日日曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑦ 研修等への参加

 【事例】八尾自動車興産事件

 株式会社Yは、同社の業務として、60分程度の研修会を所定労働時間外に開催した。研修会に参加した時間は、労働時間に含まれるだろうか。


【解説】

 研修会等への参加は、業務との関連性が薄い会社行事等であっても、事実上の強制に基づく場合は、労働時間に当たることがある。



【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①大阪地判昭和58年2月14日・労判405号64頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)708頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)74頁


富永

2026年5月7日木曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑥ 移動時間

 【事例】日本工業検査事件

 株式会社Yに勤務するXは、川崎市内の本社から鹿児島県まで検査作業のため出張し、移動時間が生じた。この移動時間は、労働時間に含まれるだろうか。


【解説】

 就労場所への出勤のための時間は労働時間ではない。出張のための休日中の移動時間についても労働時間性は否定されている(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。

 【事例】で、裁判例①は、「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがつてまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である。」と判示した。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①横浜地川崎支決昭和49年1月26日・労判194号37頁


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)708頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)75~76頁


富永

2026年5月3日日曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑤ 仮眠時間等の不活動時間

  【事例】大星ビル管理事件

 ビル管理会社である株式会社Yでは、いわゆる泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間があり、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられている。このような泊り勤務は、労働時間に含まれるといえるのだろうか。


【解説】

 労働者が実作業に従事していない不活動時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであって、労働時間に当たる。

 【事例】では、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられていたと認定され、株式会社Yの指揮命令下に置かれているものとして、不活動仮眠時間も労基法上の労働時間に当たると判断された。

 なお、「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については、労働時間等に関する規定の適用が除外されている(労基法41条3号)。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判平成14年2月28日・民集56巻2号361頁

■高等裁判所

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)707~708頁

■立案担当者見解

■学説

①菅野和夫『労働法(第12版)』(2019、弘文堂)498~500頁

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)71~72頁


富永