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2026年5月14日木曜日

【労働問題・コラム】割増賃金の基礎とならない除外賃金① 住宅手当・家族手当

 【事例】デンタルリサーチ事件

 株式会社Yでは、従業員Xに対して住宅手当5万2000円、家族手当5万9500円を支給しているところ、これは扶養家族の有無・数や持家・賃貸の別、住宅ローン・家賃の額に応じたものではなく、もともと役職手当、特別手当、職能給という名目で支給していたものを廃止し、住宅手当、家族手当を増額させて総支給額を同額にしたものであった。住宅手当、家族手当は、割増賃金(残業代)を計算する際の時間単価(賃金単価)に含まれるだろうか。


【解説】

 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つは、割増賃金の基礎となる賃金には算入しない(労基法37条5項、労基則21条)。

 割増賃金額が個人的な事情で変化するのはおかしいという考え方から除外されたものである。

 手当の名目ではなく、実質で判断される(昭和22年9月13日発基17号)。

 【事例】では、住宅手当、家族手当の名目で支給されていた手当について、扶養家族の有無・数や、持家・賃貸の別、住宅ローン・家賃の額等の個人的事情に基づき定められたことを窺わせる証拠が全く存在しないとして、基礎賃金に含まれると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①東京地判平成22年9月7日・労判1020号66頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)711頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)192~204頁


富永

2026年5月10日日曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑦ 研修等への参加

 【事例】八尾自動車興産事件

 株式会社Yは、同社の業務として、60分程度の研修会を所定労働時間外に開催した。研修会に参加した時間は、労働時間に含まれるだろうか。


【解説】

 研修会等への参加は、業務との関連性が薄い会社行事等であっても、事実上の強制に基づく場合は、労働時間に当たることがある。



【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①大阪地判昭和58年2月14日・労判405号64頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)708頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)74頁


富永

2026年5月7日木曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑥ 移動時間

 【事例】日本工業検査事件

 株式会社Yに勤務するXは、川崎市内の本社から鹿児島県まで検査作業のため出張し、移動時間が生じた。この移動時間は、労働時間に含まれるだろうか。


【解説】

 就労場所への出勤のための時間は労働時間ではない。出張のための休日中の移動時間についても労働時間性は否定されている(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。

 【事例】で、裁判例①は、「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがつてまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である。」と判示した。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①横浜地川崎支決昭和49年1月26日・労判194号37頁


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)708頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)75~76頁


富永

2026年5月3日日曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲⑤ 仮眠時間等の不活動時間

  【事例】大星ビル管理事件

 ビル管理会社である株式会社Yでは、いわゆる泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間があり、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられている。このような泊り勤務は、労働時間に含まれるといえるのだろうか。


【解説】

 労働者が実作業に従事していない不活動時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであって、労働時間に当たる。

 【事例】では、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられていたと認定され、株式会社Yの指揮命令下に置かれているものとして、不活動仮眠時間も労基法上の労働時間に当たると判断された。

 なお、「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については、労働時間等に関する規定の適用が除外されている(労基法41条3号)。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判平成14年2月28日・民集56巻2号361頁

■高等裁判所

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)707~708頁

■立案担当者見解

■学説

①菅野和夫『労働法(第12版)』(2019、弘文堂)498~500頁

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)71~72頁


富永

2026年4月29日水曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲④ 手待時間

 【事例】田口運送事件

 運送会社である株式会社Yに雇用されるトラック運転手Xは、出荷場や配送先での待機時間が生じることがあり、トイレに行ったり、コンビニで買い物に行く等してトラックから離れていた。Xの手待時間について、労働時間に含まれるだろうか。


【解説】

 作業と作業との間の待機時間である手待時間は、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であり、労働時間に含まれる(昭和33年10月11日基収6286号)。

 【事例】では、Xらトラック運転手の労働実態を詳細に事実認定したうえで、使用者であるYの指揮命令下に置かれていたものと評価し、実労働時間と認定された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①横浜地相模原支判平成26年4月24日・判時2233号141頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)707頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月25日土曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲③ 居残り残業

 【事例】昭和観光事件

 株式会社Yの就業規則には、事前に所属長の承認を得て就労した場合のみを時間外勤務として認める旨の規定があるところ、Xは所属長の承認を得ずに居残り残業を行った。Xの居残り残業について、残業代は請求できるだろうか。


【解説】

 残業について承認制をとり、実施には届出をさせない(あるいは恒常的に残業が発生するので届出する暇がない)事業所の例がしばしばある。しかしながら、労働時間制は客観的に定まるものであり、届出がないことは残業の存在を否定することに必ずしもならない。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①大阪地判平成18年10月6日・労判930号43頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)82~84頁


富永

2026年4月23日木曜日

【不動産賃貸・コラム】用法遵守義務違反による解除① 騒音

 【事例】

 木造アパートの賃貸人であるXは、昭和42年1月以降同年4月末頃までの間、賃借人Yが居室で少なくとも一晩置き位に、毎回午前1~2時頃まで、時には徹夜で麻雀をやっており、他の賃借人からその騒音のために睡眠を妨げられているとの苦情が寄せられた。Xは、Yに対して、賃貸借契約の解除をすることができるだろうか。


【解説】

 不動産賃貸業において、賃借人の騒音によるトラブルは多い。隣人の騒音について賃借人の1人から相談されると、騒音を出している隣人もまた賃借人であるため、オーナーからみるといわばどちらも顧客であるから、対応に苦慮する場面も多いだろう。

 賃借人が「用法」(民法616条、同594条1項)の遵守義務に違反した場合、賃貸借契約の解除事由となる。

 もっとも、「賃貸借における信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事由が主張立証された」場合には、解除が認められない(判例①)。要するに、退去は一筋縄ではいかない。

 裁判例では、騒音の種類、程度、時間帯、頻度や地域性、他の賃借人の騒音への敏感さ等が考慮されている。

 【事例】では、4か月間で少なくとも一晩置き位に深夜まで麻雀が行われていたこと、騒音のため睡眠を妨げられてXの妻は通院していたこと、数回にわたる停止要求にも応じず継続されたこと等が指摘され、賃貸借契約の解除が認められた。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和41年4月21日・民集20巻4号720頁

■高等裁判所

②東京高判昭和50年8月21日・判タ333号204頁(解除有効、深夜の喧噪な行動等)

■地方裁判所

③東京地判昭和47年12月5日・判時709号56頁(解除無効、バーでの深夜の歌声(近隣住民の抗議を受け防音装置を設置))

④東京地判昭和54年10月3日・判タ403号132頁(解除有効、夜に放歌・大声)

⑤東京地判昭和54年11月27日・判タ416号162頁(解除有効、一日中ラジオ大音量等)

⑥横浜地判平成元年10月27日・判タ721号189頁(解除有効、公害防止条例違反の深夜カラオケ騒音)

⑦東京地判平成13年5月10日・WL(解除有効、尋常でない喧嘩口論・言動・足音等)

⑧東京地判平成17年2月28日・判例秘書L06030847(解除有効、深夜の大声等)

⑨東京地判平成19年3月7日・WL(解除有効、何かを叩くような騒音等)

⑩東京地判平成22年1月20日・WL(解除無効、隣室の騒音)

⑪東京地判平成22年8月6日・WL(解除無効、同居人との口論等)

⑫東京地判平成22年11月19日・WL(解除有効、大音量のラジオの音等)

⑬東京地判平成23年1月31日・WL(解除有効、夜中の大音量での音楽等)

⑭東京地判平成27年2月24日・判時2260号73頁(解除無効、6歳児のいたずら)

■簡易裁判所

⑮東京北簡判昭和43年8月26日・判時538号572頁(解除有効、深夜麻雀、事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第2巻 民法2(第7版)』(2024、ぎょうせい)313~316頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

②太田秀也『賃貸住宅管理の法的課題2 ー迷惑行為・自殺・サブリースー』(2014、大成出版社)5~6頁

③渡辺晋『建物賃貸借-建物賃貸借に関する法律と判例-(改訂3版)』(2022、大成出版社)191~192頁


富永

2026年4月21日火曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲② 早出残業

 【事例】福星堂事件

 和洋菓子の製造・加工並びに販売等を目的とする株式会社Yでは、所定終業時刻が午前8時30分とされていたが、Xは、午前4時台に出勤して早出残業することもあった。


【解説】

 単に遅刻しないために早めに出勤してタイムカードを打刻していただけの場合、早出残業とは認められない。また、そのような時間帯に多少の準備行為を行っていた場合でも、始業時刻前に行う必要のない作業である場合、早出残業とは認めない事例がある。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所

①神戸地姫路支判平成28年9月29日・労経速2303号3頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)77~78頁


富永

2026年4月19日日曜日

【不動産・かわら版】その賃料、安くない?



 ★ 賃料の増額を求めたい! ★


 20年前から駅前の店舗を賃料月額80万円で貸しています。


 建物が古くなって修繕費がかさむようになり、敷地の固定資産評価額も上がって税負担も増え、利回りが悪化しています。


 賃料の増額をお願いすることはできないでしょうか。


 福岡県は、2024年の地価上昇率が全国1位、2025年も東京都、沖縄県に次いで全国3位と地価が上昇しています。


 地価上昇や物価高などもあり、賃料増額の紛争も増えている印象です。


 賃貸人は、借地借家法上、契約後の事情の変更によって賃料が不相当になった場合に、賃料増額請求をすることができます。


 ポイントは、契約後の事情の変更が必要、ということです。契約当初から近隣相場より低く賃料額が決められていた場合は、「相場より低い」というだけでは増額できません。


 また、契約書に一定期間増額しない特約がある場合もあります。


 話し合いで決まらない場合は、不動産鑑定になりますが、鑑定費用も決して安くありません。賃料が高額な事業用物件であれば、それでもなお増額請求をするメリットもあるでしょう。


 うちの物件は賃料増額できないの!?お困りの場合はまずご相談ください。


富永

2026年4月18日土曜日

【相続・コラム】遺産分割に関連する付随問題① 葬儀費用

 【事例】

 被相続人Aは、平成18年9月4日に死亡したところ、Aには、X、Yをあわせて7名の子がいた。Yは、同日、夫に頼んでA名義の預貯金から100万円を払い戻してもらい、Aの葬儀費用等の支払いに充てた。その後もYはA名義の預貯金はすべて払い戻して、Aの納骨堂代、納骨壇永代使用料などの支払も行った。そうしたところ、Xは、YによるA名義の預貯金の払戻しが不当であるとして、自身の相続分に応じた額の返還を求めた。被相続人A名義の預貯金から葬儀費用等を支出することは認められないのだろうか。


【解説】

1 葬儀費用

⑴ 意義

 葬儀費用とは、追悼儀式及び埋葬に必要な費用であって、具体的には、棺柩その他の祭具、葬式場設営、読経、火葬、墓標、通夜や告別式の参列者の飲食、納骨堂などに要する費用である。

 他方、墓地の代価、四十九日の法要の費用、葬儀後の見舞客の食事代については範囲外と考えられている(文献③)。

⑵ 遺産分割の対象となるか

 葬儀費用は、相続開始後に発生した費用であるから、遺産分割の対象にならない。ただし、相続人全員の合意により遺産分割事件の対象とすることはできる。

⑶ 葬儀費用の負担者

 遺産分割等において、葬儀費用を誰が負担すべきかをめぐり争いとなることがある。

 葬儀費用の負担者に関しては、

①共同相続人が法定相続分に応じて分割して承継するという見解(相続人全員負担説、裁判例③⑰⑱㉑)

②葬儀を主宰した喪主が負担するという見解(喪主負担説、裁判例⑤⑧㉖)

③相続財産である遺産をもって支出すべきであるとする見解(相続財産負担説、裁判例②⑦⑬⑭⑳㉓㉕)

④専らその地方又は被相続人の属する親族団体内における慣習若しくは条理に従って決めるべきであるとする見解(慣習ないし条理説、裁判例⑥⑨⑮⑯㉒)

などに分かれており、定説をみない状況である。ただし、最近の裁判例(裁判例⑤⑩⑪)は、喪主負担説によるものが多くなってきているとの指摘がある(文献⑤)。

2 香典

 香典は、慣習上香典返しに充てられる部分を控除した残余につき葬儀費用に充てられるが、なお残余金が生じた場合は、葬儀主催者に帰属すると解する見解(文献①)と相続人に帰属するとの見解がある(文献④)。

3 事例について

 事例では、一般論として、葬儀費用は喪主、納骨堂代や永代使用料は祭祀承継者が負担すべきと判示しつつ、相続人間での決算報告に異議が述べられていないこと等、個別の事情を考慮して、葬儀費用、納骨堂代やその永代使用料への支出を不当利得とは認めなかった。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①東京高決昭和30年9月5日・家月7巻11号57頁

②高松高決昭和38年3月15日・家月15巻6号54頁

③福岡高決昭和40年5月6日・家月17巻10号109頁

④大阪高決昭和49年9月17日・家月27巻8号65頁

⑤名古屋高判平成24年3月29日・判例秘書搭載

■地方裁判所

⑥甲府地判昭和31年5月29日・下民7巻5号1378頁

⑦東京地判昭和59年7月12日・判タ542号243頁

⑧東京地判昭和61年1月28日・家月39巻8号48頁

⑨東京地判平成6年1月17日・判タ870号248頁

⑩東京地判平成27年12月3日・判例秘書搭載

⑪東京地判平成28年11月8日・判例秘書搭載(事例)

■家庭裁判所

⑫東京家審昭和33年7月4日・家月10巻8号36頁

⑬大阪家堺支審昭和35年8月31日・家月14巻12号128頁

⑭東京家審昭和37年9月25日・家月14巻12号116頁

⑮仙台家古川支審昭和38年5月1日・家月15巻8号106頁

⑯神戸家明石支審昭和40年2月6日・家月17巻8号48頁

⑰福井家審昭和40年8月17日・家月18巻1号87頁

⑱長崎家佐世保支審昭和40年8月21日・家月18巻5号66頁

⑲大阪家審昭和40年11月4日・家月18巻4号104頁

⑳盛岡家審昭和42年4月12日・家月19巻11号101頁

㉑神戸家姫路支審昭和43年2月29日・家月20巻8号88頁

㉒宇都宮家栃木支審昭和43年8月1日・家月20巻12号102頁

㉓大阪家審昭和51年11月25日・家月29巻6号27頁

㉔長崎家審昭和51年12月23日・家月29巻9号110頁

㉕大阪家審昭和53年9月26日・家月31巻6号33頁

㉖神戸家審平成11年4月30日・家月51巻10号135頁


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①井上繁規『(三訂版)遺産分割の理論と実務』(2021、新日本法規)203~205頁

②岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』(2024、ぎょうせい)449頁

③司法研修所『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(1994、法曹会)255~256頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)80~81頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)47頁、488~499頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 ー裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規) 176~177頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)177~180頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月17日金曜日

【労働問題・コラム】労働時間の範囲① 始業前・終業後の時間

 【事例】三菱重工業[会社側上告]事件

 株式会社Yでは、所定労働時間を午前8時から正午まで、午後1時から午後5時までとし、従業員であるXらは、①午前の始業時刻前に更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、②午前ないし午後の始業時刻前に副資材や消耗品等の受出しをし、また、午前の始業時刻前に散水を行い、③午後の終業時刻後に作業場から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等の離脱を行っていた。①ないし③の時間は、労働時間として認められるだろうか。


【解説】

 労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事務所内で行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外で行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当する。

 【事例】では、①作業服及び保護具等の装着、②副資材や消耗品等の受出しや散水、③作業服及び保護具等の離脱が所定労働時間外で行うこととされていたが、判例①は、作業服のほか所定の保護具、工具等の装着を義務付けられ、これを怠ると懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映され賃金の減収にもつながる場合があること等を指摘して、①ないし③のいずれも労働時間に該当すると判断した。

 朝礼、体操、終礼も出席が義務付けられ、明示又は黙示の業務上の指示によるものであれば同様である。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁(事例)

■高等裁判所

②大阪高判平成13年6月28日・労判811号5頁(京都銀行事件)

■地方裁判所

③東京地判平成24年8月28日・労判1058号5頁(アクティリンク事件)

④横浜地判令和2年6月25日・判時2491号83頁(アートコーポレーションほか事件)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①岡口基一『要件事実マニュアル第4巻 消費者保護・過払金・行政・労働(第7版)』(2024、ぎょうせい)707頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

①渡辺輝人『最新テーマ別[実践]労働法実務5 残業代の法律実務』(2024、旬報社)73~74頁


富永

2026年4月15日水曜日

【不動産・かわら版】消化器の適切な設置方法は?

 


 延床免責150㎡以上の共同住宅には、消火器具の設置義務があります。床面から高さ1.5m以内、通行や避難に支障がなく、使うときには容易なように設置する必要があります。もっとも、直置きやボックス格納などの具体的な設置方法までは法令上の定めはなく、設置者に委ねられています。


 では、設置した消化器が第三者にイタズラされた場合、共同住宅の占有者・所有者が責任を負うことはあるのでしょうか。


 裁判例では、共同住宅の通路部分に、プラスチック製の保管台の上に壁にそって裸のまま消化器を立て掛けて設置していたケースで、何者かによって消化器が投下されるというイタズラにより隣家の屋根などが破損した事案において、消化器は「作動され易いが、イタズラされ難い」要請に合致した設置方法がとられるべきであるとして、工作物の保存の瑕疵を認め、共同住宅を所有する不動産会社に賠償を命じたものがあります(大阪地判平成6年8月19日)。


 消化器の適切な設置方法は?


 お困りの場合は、お気軽にご相談ください。


富永

2026年4月14日火曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認② 背信行為(民法921条3号)

 【事例】

 洋品店経営者であるXは、Aに対し、各種洋品を売ったり、修繕を行ったりし、これらの売掛代金と修理代金の残額は、合計139万5008円となっていた。Aは、平成9年7月2日に死亡したところ、相続人は、夫、父、母であるYの3人であった。Aは、同月15日、家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、同月22日に受理された。

 ところが、Yは、Aの住居であったマンションから、平成9年11月頃、Aのスーツ等や毛皮のコート三着とカシミア製のコート三着等を持ち帰った。これらの多くは新品同様のものであった。

 そこで、Xは、Yの行為は背信行為として法定単純承認の事由にあたると主張して、Yに対し、Aに対する残代金債権のうち、Yの相続分6分の1である23万2501円を請求した。Yの相続放棄は認められないのだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、相続放棄申述の受理審判に当たっては、法定単純承認事由の有無等に関する実質的要件については、その不充足が極めて明らかな場合に限り審理の対象とすべきと考えられている(裁判例①、②)。

 つまり、相続放棄の申述が受理されたからといって、相続放棄が有効であるとは、必ずしもいえない。

 相続放棄の申述が受理された後であっても、①隠匿、②私に消費すること、③悪意で財産目録中に記載しないこと等の背信行為があれば、相続放棄の効力は認めらない。

 「隠匿」とは、相続債権者から相続財産の所在を不明にすることである。相続人間で遺品を分配する形見分けは含まれないが、所在不明にした相続財産の範囲や量、財産的価値等を考慮し、判断されている。

 【事例】では、Yが持ち帰った遺品の中には新品同様の洋服や毛皮が含まれていたこと、持ち帰った洋服は遺品のほとんどすべてであり相当な量があったこと等を考慮して、「隠匿」にあたると判断された結果、Yの相続放棄は有効と認められず、Xの請求が認められた。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①仙台高決平成元年9月1日・家月42巻1号108頁

②福岡高決平成2年9月25日・判タ742号159頁

■地方裁判所

③東京地判平成12年3月21日・家月53巻9号45頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版』(2023、有斐閣)627~633頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)237~239頁、272~274頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月13日月曜日

【労働問題・コラム】就業規則の規範的効力② 有利性原則

 【事例】

 株式会社Yの就業規則には、有給休暇の日数を1年ごとに10日間付与すると規定されている。ところが、Xの雇用契約書をみると、1年ごとに15日間付与すると記載されている。Xが実際に取得する有給休暇の日数は何日なのだろうか。


【解説】

 就業規則の最低基準効は、就業規則の定める基準に達しない労働条件を定める労働契約に対するものであり、逆に、就業規則の定める基準以上の労働条件を定めた労働契約は、この効力を受けず有効である(労契法7条ただし書)。

 したがって、【事例】のように、有給休暇の日数について、就業規則は1年ごとに10日間の付与と規定し、雇用契約書に15日間の付与と記載されている場合、Xには1年ごとに15日間の有休休暇が付与されることになる。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

①水町勇一郎『詳解 労働法(初版)』(2019、東京大学出版会)180頁

■弁護士・その他


富永

2026年4月11日土曜日

【不動産・かわら版】転貸OKなら民泊もOK?

 


★ 民泊利用で大迷惑? ★


 所有する戸建て住宅をサブリースのような形で転貸借。使用目的は「住居」。転貸は承諾する契約だった。


 しばらくして、近隣住民から騒音やゴミ出し方法などの苦情が殺到。どうやら転借人が勝手に民泊をしているよう。


 「転貸OKなんだから、民泊もOKでしょ?」と開き直る賃借人。

 契約解除して退去を求めることはできますか?


 いわゆる民泊法上、「生活」の本拠を宿泊「事業」に使うのが民泊。転貸OK、つまり居住用の又貸しがOKならば、民泊もOKだ、という言い分はとおるのでしょうか。


 裁判例(東京地判平成31年4月25日)は、特定人の住居使用と不特定人の宿泊使用とでは、使う人の意識等の面から、使い方に差異が生じるのは避けがたいなどと判示。


 「転貸OKなら民泊OK」という主張は認めませんでした。


 とはいえ、薄氷は踏みたくない。転貸をあらかじめ承諾する契約をするなら、「居住」使用目的を明確に定義する、民泊使用を禁止事項にあげておくなどの対策が可能です。


 お困りの際は、お気軽にご相談ください。


富永

2026年4月10日金曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認① 相続財産の処分(民法921条1号)

 【事例】

 被相続人Aは、平成10年4月27日に死亡した。相続人である妻B、長男C、二男Dのうち、AとはB及びCが同居していた。Aは生前、勤務先が倒産した際に保証債務の返還を求められていたことがあるが、昭和62年頃に返済したのを最後に請求はきておらず、Aの債務は完済したと考えていた。

 Aが死亡し、Bらが葬儀を行い、香典として144万円を受領した。また、A名義で預入金額300万円の郵便貯金があった。Bは、平成10年5月27日にその郵便貯金を解約したが、その解約金は302万4825円であった(香典とあわせると446万4825円)。

 Bらは、これらから、Aの葬儀費用等として273万5045円を支出したほか、同年6月に仏壇を92万7150円で購入したうえ、Bの希望で墓石を127万0500円で購入した。これらの合計が493万2695円となるところ、香典とAの郵便貯金の解約金を充て、不足分46万円余りはBらが負担した。

 その後、平成13年10月になって、信用保証協会から、被相続人A宛てに求償金合計5941万8010円の請求書が届き、A名義の多額の債務が残っていたことを知った。

 Bらは、Aの相続放棄をすることができるだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、亡くなった直後は、死亡届、通夜・葬儀の準備・実施、その他各種手続等に追われ、被相続人の負債に気付かないまま、被相続人の預貯金を解約する等、相続財産を処分してしまうことは少なくない。

 民法は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号本文)を法定単純承認の事由とする。つまり、相続財産を処分してしまうと、相続の単純承認をしたとみなされてしまい、相続放棄ができなくなる。

 民法921条1号の「処分」とは、財産の現状・性質を変える行為をいい、法律上の行為のみならず、事実上の行為を含む(家屋の取壊し等)。

 単純承認とみなされる法律上の処分には、貯金の解約、債権の取立て、不動産・動産・その他財産権の譲渡等が含まれる。

 他方、葬儀費用については、被相続人の貯金を解約し、葬儀費用にした場合に、単純承認とみなされる処分に当たらないとした裁判例がある(裁判例①、事例)。



【発展】※専門職向け

 上記裁判例は、相続放棄申述を却下した原審を取り消した即時抗告審の判断である。「相続放棄の申述の受理は、家庭裁判所が後見的立場から行う公証的性質を有する準裁判行為であって、申述を受理したとしても、相続放棄が有効であることを確定するものではない。相続放棄等の効力は、後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。」とも判示しており、葬儀費用に充てさえすれば許されると安易に考えることには注意が必要である。


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①大阪高決平成14年7月3日・家月55巻1号82頁(事例)

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)615~624頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)234~239頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月9日木曜日

【労働問題・コラム】就業規則の規範的効力① 最低基準効

 【事例1】朝日火災海上保険事件

 株式会社Yの就業規則には、退職時の本俸月額に支給率を乗じた額を退職金として支給する規定がある。Xらは、労使交渉の末、本俸引上額を退職金算定に入れないことを条件に、株式会社Yとの間で、賃上げに口頭で合意した。なお、就業規則は改定されていない。この場合、Xらは、賃上げ後の退職時本俸月額を基準とした退職金の請求ができるだろうか。

【事例2】野本商店事件

 株式会社Yの就業規則には、定期昇給は年2回定められた昇給率、賞与は年2回それぞれ基本給の半月分、1か月分と規定されている。あるときから業績が悪化し、就業規則とおりの定期昇給と賞与支給が行われなくなっている。従業員Xは、就業規則とおりの定期昇給を前提とした賃金請求や賞与請求ができるだろうか。


【解説】

 就業規則が定める労働条件は、法令または労働協約に反しない限り(労基法92条1項)、事業場の労働条件の最低基準として労働契約の内容を強行的・直律的に規律する(労契法12条前段・後段)。就業規則の「最低基準効」と称される。

 【事例1】において、Xが賃上げ後の退職時の本俸月額を退職金算定の基礎として計算した退職金の支払を請求した場合、請求は認められるだろうか。本俸引上額を退職金算定の基礎に入れないことを条件に賃上げの合意をしているのだから、請求は認められないようにも思える(実際、判例①は、退職金請求を認めた原審に対し、退職金算定の基礎に算入しない旨の黙示の合意が成立するとの主張の当否を原審が判断していないとして、破棄差戻しにしている。)。しかしながら、就業規則が改定されていない以上、最低基準効はなお有効なものとして存在している。そのため、就業規則の規定に基づくXの請求は認められる。

 【事例2】において、就業規則の最低基準効から、昇給した場合の差額賃金及び賞与の支払請求が認められることは、分かりやすい。ところが、裁判例②は、「昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことを暗黙のうちに承認していた、すなわち、黙示の承諾をしていた」として、請求を棄却するという判断をしており、学説(①)から批判されている。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判平成6年1月31日・労判648号12頁(事例1)

■高等裁判所

■地方裁判所

②東京地判平成9年3月25日・労判718号44頁(事例2)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

①水町勇一郎『詳解 労働法(初版)』(2019、東京大学出版会)179~180頁

②菅野和夫『労働法(第12版)』(2019、弘文堂)218~219頁

■弁護士・その他


富永

2026年4月8日水曜日

【刑事事件・コラム】量刑の傾向② 「建造物侵入又は住居侵入、及び窃盗既遂1件、前科なし」

 【相談例】

 大学生の息子が、SNSで闇バイトに手を出し、店舗に侵入して売上金を盗み、逮捕されてしまいました。刑務所に行くことになるのでしょうか。


【解説】

 集積された裁判例によって示される犯罪類型ごとの一定の量刑傾向は、直ちに法規範性を帯びるものではないが、量刑を決定するに当たって、その目安とされるという意義をもっている(最小判平成26年7月24日・刑集68巻6号925頁)。

 【相談例】は、建造物侵入、窃盗既遂1件という事案である。第一東京弁護士会発行の「量刑調査報告集Ⅳ」及び「量刑調査報告集Ⅴ」で、「建造物侵入又は住居侵入、及び窃盗既遂1件、前科なし」を条件として得られる量刑分布は、令和4年法律第67号による改正前の刑法下での懲役刑で、懲役1年から2年10月に分布し、ピークは懲役1年6月というものである。そのうち、懲役2年10月の1件を除き、懲役1年の2件、懲役1年4月の3件、懲役1年6月の19件、懲役2年6月の1件のすべてで執行猶予となっている。



※現在は、拘禁刑に改正されている。


富永

2026年4月7日火曜日

【不動産・かわら版】雨漏り歴の説明義務は?

 


★ そんな話、聞いてない!? ★


 中古マンションの仲介。買主とともに複数回物件を内覧し、無事、売買契約が成立。


 ところが、引渡し1か月後に雨漏りが発生。どうやら、過去に雨漏り歴があったことを売主が隠して、物件報告書に「現在まで雨漏りを発見していない。」と記載していたよう。


 「虚偽説明だ!賠償しろ!」と息巻く買主。


 そんな話、聞いてない!?

 仲介業者の責任やいかに...


 不動産売買にあたって物件の情報収集は各当事者の自己責任といえど、信義則上の義務として、取引相手に対する説明義務が課される場合があります。


 物件報告書に雨漏り歴の虚偽記載をした売主の責任は当然。問題は仲介業者の責任です。売主の虚偽説明を知らなかったとしても、一応の調査すら尽くしていない場合には、仲介契約上の債務不履行責任を負う場合があります。


 裁判例(東京地判令和2年2月26日)では、マンションの管理組合に対して、修繕履歴や管理組合の総会議事録の開示を求める等の一応の調査を尽くした点を評価して、仲介業者を免責しています。


 では、どの程度の調査を尽くせばよいのか?

 漏れなく説明しますので、お気軽にご相談くださいませ。


富永

2026年4月6日月曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について② 相続開始後の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、同月12日以降、4回に渡り、A名義の普通預金口座から、合計259万6000円を出金し、同出金に伴う手数料合計432円が同口座から支払われた。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始後の払戻し

⑴ 分割の対象となる遺産の範囲-預貯金債権

 現在は、預貯金債権について、不可分債権であり、遺産分割の対象となるとされている(判例②~④)。

 そのため、原則として、遺産分割の前には、共同相続人全員の同意を得なければ、預貯金の払戻しをすることができない。 

⑵ 単独の権利行使による払戻し

 各相続人は、預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし各金融機関ごとに150万円が上限)を、単独で払い戻すことができる。払い戻した分については、当該相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされる(民法909条の2)。

 払戻しがされたものは、すでに分割済みのものとなり、遺産分割の対象とはならない。もっとも、これを遺産分割の対象に含めることを相続人全員で合意することもできる(判例①)。

⑶ ⑵以外の払戻し

 金融機関が相続の開始を知った場合、金融機関は預貯金口座を閉鎖し、払戻しができなくなるが、金融機関が相続開始を知るまでの間は、被相続人以外の者による預貯金の払戻しがされる余地がある。

 遺産である預貯金債権が、遺産分割前に払い戻されると、預貯金債権そのものは遺産分割の対象から逸出する。これに代わる無断払戻者に対する損害賠償請求権や不当利得返還請求権を相続財産の代償財産ということはできるが、これらは可分債権であるから、原則として遺産分割の対象とならない。民事訴訟による解決となる。

 無断払戻者以外の相続人の同意が得られれば、その財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなし、それを当該払戻しをした相続人に取得させる(民法906条の2)。

3 事例について

 被相続人Aの死後に出金された金額等は、合計259万6432円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する129万8216円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和54年2月22日・集民126号129頁

②最小判平成22年10月8日・民集64巻7号1719頁

③最大決平成28年12月19日・民集70巻8号2121頁

④最小判平成29年4月6日・集民255号129頁

■高等裁判所

■地方裁判所

⑤東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)398~408頁、497~514頁

■裁判官・元裁判官

②井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)239~240頁

③岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』451~452頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~80頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 -裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)169~170頁、188~195頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)163~172頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永