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2026年4月8日水曜日

【刑事事件・コラム】量刑の傾向② 「建造物侵入又は住居侵入、及び窃盗既遂1件、前科なし」

 【相談例】

 大学生の息子が、SNSで闇バイトに手を出し、店舗に侵入して売上金を盗み、逮捕されてしまいました。刑務所に行くことになるのでしょうか。


【解説】

 集積された裁判例によって示される犯罪類型ごとの一定の量刑傾向は、直ちに法規範性を帯びるものではないが、量刑を決定するに当たって、その目安とされるという意義をもっている(最小判平成26年7月24日・刑集68巻6号925頁)。

 【相談例】は、建造物侵入、窃盗既遂1件という事案である。第一東京弁護士会発行の「量刑調査報告集Ⅳ」及び「量刑調査報告集Ⅴ」で、「建造物侵入又は住居侵入、及び窃盗既遂1件、前科なし」を条件として得られる量刑分布は、令和4年法律第67号による改正前の刑法下での懲役刑で、懲役1年から2年10月に分布し、ピークは懲役1年6月というものである。そのうち、懲役2年10月の1件を除き、懲役1年の2件、懲役1年4月の3件、懲役1年6月の19件、懲役2年6月の1件のすべてで執行猶予となっている。



※現在は、拘禁刑に改正されている。


富永

2023年6月20日火曜日

笈の小文(5)源氏物語か平家物語か

 


 『笈の小文』と秋の関係について、もう一つの考えは『笈の小文』には秋の景を描ききれなかったということが考えられる。

それは弟子の乙州が芭蕉の死後、『笈の小文』と『更科紀行』をセットで出版したことにあらわれている。

『笈の小文』の旅と『更科紀行』の旅は、実際には同じ旅。すなわち江戸を出発し、故郷の伊賀で年を越し、流刑中の杜国と関西の歌枕を旅し(京都で別れ)、さらに名古屋から木曾谷を経て信州更科で月見をして江戸に帰るという旅である。

旅行記であれば、一つのストーリーで完結したはず。しかし創作を含む紀行なので、芭蕉のなかで迷いがあったのではなかろうか。最後まで迷いは解決せず、未定稿のまま残されたのではなかろうか。

その迷いは、『更科紀行』を合体した構成にするのか、分離した構成にするのか。合体させれば、冬、春、夏ときた『笈の小文』の旅は秋で完結することになる。しかし、そうすることを憚らせる事情があった。

『笈の小文』は単なる四季の旅の記録ではない。愛する杜国との逃避行の旅の記録でもある。伊良湖岬で出会い、伊勢で合流した二人は、吉野の桜を愛で、関西の歌枕を尋ね、須磨・明石を経て、京都で別れる。

むかしある少年Aの付添人をしたことがあった。成人と異なり、少年には試験観察という中間処分がある。そのまま最終処分をすれば少年院送致になるのだが、がんばれば立ち直れるのではないかという少年用の処分。

試験観察には家庭でおこなうものだけでなく、家裁が委託した仕事先でおこなうもの(補導委託)がある。少年Aは筑後地区で仕事を提供する補導委託先に半年ほど預けられた。

ところが、しばらくして彼は補導委託先から逃げ、当職のもとを訪ねてきた。もう18時を過ぎていた。追い返すわけにもいかない。家庭裁判所(当直)にはその旨一報を入れた。

とりあえずその日は近くのホテルのツインの部屋を借りて、ふたりして宿泊した。そして翌朝、家裁にあらためて連絡した。

家裁では大騒動に発展していた。ま、非行少年が逃亡したわけだから、逃亡罪という犯罪である。当職も下手をすると、その援助罪が成立する可能性があった。家裁からはきつくお叱りを受けた。

流刑中の杜国と芭蕉の旅を読むと、いつもこの事件のことを思い出す。芭蕉たちは、つかまれば大罪を問われる覚悟をしていただろう。愛の逃避行である。

関西各地の歌枕を旅した芭蕉たちは須磨までやってきた。目の前は明石海峡を経て淡路島。明石海峡は須磨と明石を左右に分けている。いわく。

 淡路島手にとるやうに見えて、すま・あかしの海右左にわかる。呉楚東南の詠もかゝる所にや。物しれる人の見侍らば、さまゞの境にもおもひなぞらふるべし。

呉楚東南の詠とは、むかし漢詩でならった杜甫の「登岳陽楼」である。いわく。

 昔聞く洞庭水、今上岳陽楼、呉楚東南折、乾坤日夜浮

芭蕉たちは、地形的に、大きな岐路に立っていた。文学的にも岐路に立っていた。源氏物語路線か平家物語路線かである。

源氏物語では罪を得た源氏は須磨で流寓したのち、明石で罪をあかして都へ帰っていく。平家物語では、平家の公達や女房たちの多くはここで滅亡してしまう。

芭蕉は、実際の旅でも、『笈の小文』の筆のうえでも、ここで迷ったのではなかろうか。そのすえ、平家物語の滅亡のイメージが優勢となり、杜国と分かれる決心をすることになったと思われる。

2022年4月21日木曜日

ある刑事事件


  ある刑事事件をひきうけた。他県に在住する先輩弁護士の紹介である。近時裁判のオンライン化が進み、民事であれば他県でも受任することができないではない。でも刑事となるとやはり現場でないとできない。

罪名は暴行罪。酔余の犯行である。本件被疑者は犯行のことを覚えていない。飲み過ぎて記憶がなくなるということは日常的に経験したり、聞いたりすることだろう。

しかし、刑事事件ではこの弁解は許されていない。否認と同視される。ほんとうに記憶がなくなったのか、記憶があるにもかかわらずなくなったふりをしているのか、外形的に判断できないからである。

朝、警察官に起こされて、飲み屋を出たところまでしか覚えていない被疑者・被告人はよくいる。しかし、飲み屋から確保地点まで防犯カメラの映像をつなげて飲酒運転を立証されることになる。本件でも、被害者の証言のほか、防犯カメラの映像など証拠はそろっていた。

将来はアップルウォッチが進化し、犯行当時の記憶がないことが証明できるようになるかもしれない。しかしそれで刑事責任能力がなくなるわけではない。刑事責任能力がなくなるには心神喪失まで証明できなければならない。刑事責任能力の有無と記憶の有無とは別問題である。

さて弁護人の仕事は一般に、テレビでやっているほど華々しいものではない。被害者に対し被疑者・被告人に代わって謝罪し、被害弁償の努力をすることがほとんどである。

謝罪や被害弁償の努力、その結果としての被害感情の沈静化は情状に影響する。本来は、被疑者・被告人が行うのが望ましい。

しかし、被害者は、事件を思い出したくない、あるいは、再被害にあうことを恐れているなどの理由で、被疑者・被告人に会いたくないことが多い。被疑者・被告人の身柄が拘束されていることもある。そのため、弁護人が代わって行うことになる。

殺人事件で、県南にある遺族のお宅を伺い、お線香をあげさせていただいたこともあった。遺族のかたはよくぞ了承していただいたと思う。被告人にはお金がなく、焼香しか手立てがなかった。

性犯罪の謝罪や被害弁償はさらに難しい。弁護人だから謝罪しなくてもよいと言っていただくこともある。でも弁護士の立場や役割が理解できない方もいる。

被害者が複数だとなおさらだ。関係者にお願いしても、全員が納得するような金策ができたためしはない。足りない分は頭をさげるしかない。

本件でもなんとか示談に応じていただいた。被害感情はおさまらなかったようだが、堪忍していただいた。担当刑事から電話があり、事件終了を告げられた。紹介者である先輩にもその旨報告することができた。

※ほかに書きたいことはあるが、事案の性質からこれ以上書くことは差し控えたい。

2021年3月9日火曜日

産地直送!!

 


被疑者国選弁護人に選任されて接見へ。


勾留されている方のご家族が遠方におられ、かつ電話番号が分かりません。

身体拘束をする理由も必要も話を聞く限りなく、違法・不当な逮捕・勾留です。身元引受人としてご家族に早く連絡がとりたい。

でも電話番号が分からない。さあ困りました。どうしようか・・・。


ええい、悩むくらいなら会いに行ってしまえと、休日返上で急遽県外まで出張。無事、身元引受人にお会いでき、釈放された後の身元を引き受けると書面を書いてもらいました。


「連絡先の分からない相手に連絡をとる方法」を福岡県弁護士会の多くの先輩や同期に知恵を求めた結果、移動中も多くのアドバイスをもらいました。ありがたい限りです。


さて、こちらが急ぎでテンパったのが伝わったのでしょうか。やりとりしていた同期の弁護士から

「こういうときの国選(弁護人)の交通費ってどうなるの?」

という趣旨の質問が、


「国産ってどうなるの?」


と誤変換されて送られてきました。


まあ、日本生まれ日本育ちですので、国産弁護人といわれても間違いではないですが。


クローン弁護士とかが将来登場することに備えて、今のうちから、


「国産弁護人富永悠太(遺伝子組換えでない)」とでも書いた名刺を作っておこうかなあ。


富永

2015年10月5日月曜日

期待していたのは。。。

地域奉仕のいっかんとして
F中学校の職場体験授業に協力したことがあった。

中学生のころからいろいろな職業に触れ
将来の進路を明確にするという趣旨だ。

消防署や店舗などいろいろな業種の人が集まった。そのなかで
法律事務所を希望した子たち6人のめんどうをみることになった。

事務所で座学をしても分かりにくいので
法廷傍聴をしてもらうことにした。

地域の民生委員の先生たちなどを法廷傍聴にお連れすることがある。
いちばんの悩みは,博多座のように前もって演目がはっきりしないことだ。

いつ分かるかというと当日,法廷の前の掲示板を見るまでわからない。
そこに10時~貸金請求事件,原告○○,被告△△などと書いてある

こちらの気持ちとしては,できればわかりやすい事件を傍聴してもらいたい。
長くつづいている事件のうちの1期日だと,なんとことやら分からない。

そこで集合時間の15分前くらいに裁判所へ行き
裁判所のなかを行ったり来たりしながら手ごろな事件を探し回ることになる。

民事事件より刑事事件のほうがわかりやすい。民事は
「訴状のとおり陳述します。」などと書面中心だから。

刑事事件の場合,起訴状を朗読したりして
被告人だけでなく傍聴人にも事件の内容がわかりやすい。

なかでも,自動車運転過失致傷事件や覚せい剤事件は手ごろだ。
1時間のうちに最初から結審までぜんぶやることが多いから。

その日も,自動車運転過失致傷事件を選んだ。
中学生にも分かりやすく,勉強になるであろうことを期待した。

中学生たちと傍聴席につくと,被告人は男性だったけれども
裁判官も,検察官も,弁護人もみな女性であった。

中学生のうち3人は女子だったので
彼女たちにも励みになるなぁとにんまりした。

ぼくが中学生を6人連れて法廷に入っていったのだから
裁判官たちにも当然状況はのみこめたはずである。

中学生にもわかる,わかりやすい法廷
ぼくはそれを期待した。

ところがである。
審理が進むにつれ,たいへんな事態に。

自動車事故の原因は,抽象的にいえば前方不注視だった。しかし
その実態は,助手席の女性が運転手の男性にいかがわしい・・(以下省略)。

中学生たちが傍聴しているわけだから,法律家たちは
いかがわしい話をさらりと流すやり方もあったはず。

だが,検察官も,弁護人も,裁判官もいかがわしい内容について
微に入り細を穿ち,何度も何度も,尋問を繰り返したのである。

傍聴人を意識してであろう
これでもかこれでもかの大サービスだった。

でも中学生なんだから
そういうことを期待したわけじゃないんだよね。

そういうわけで
とんだ法廷傍聴になったのでした。