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2022年5月13日金曜日

それもまた小さな人権回復


  ある傷害被疑事件を受任している。関係者は主に加害者と被害者の2人である。被疑者は自白し、事実関係を争ってはいない。

刑事手続は起訴を境に、捜査段階と公判段階に分かれる。捜査段階では被疑者(容疑者)、公判段階では被告人と呼ばれる。

逮捕・勾留されるかどうかにより、在宅事件と身柄事件に分かれる。事案の重さ、罪証隠滅の可能性、逃亡の可能性により、逮捕・勾留されることになる。

捜査段階では警察の留置場、公判段階では拘置所に勾留されるのが一般的だ。本件では福岡市内の警察署に勾留されている。

逮捕・勾留は重大な人権制約であるので期間制限がある。逮捕は最大72時間、勾留は1回10日間、1度まで延長できる。つまり、最大23日間の身柄拘束を受ける。

身柄拘束は重大な人権制約であるから、勾留を許すかどうか裁判官が審査することになっている。いわゆる令状主義である。これは憲法の定める重要な人権である。しかし長らく裁判所の審査は形式的で、捜査機関が逮捕・勾留を請求すれば、裁判官はこれを丸のみしてきた。

しかし近時、勾留要件を厳格に解する動きもみられる。本件では勾留延長請求がなされ、裁判官はこれを丸のみして、10日間の延長を認めた。

23日間というのはマックスの期間であり、必ずそれだけの期間を勾留しなければならないというものではない。関係者2人だけの傷害事件で2勾留も必要かは大いに疑問である。被疑者の職場では大いに支障が生じている。

勾留延長決定も裁判の一つであるから、異議申立をすることができる。準抗告という。午前中は破産債権者集会、午後は同友会の総会であったが、昼間、事務所に戻り、いそいで起案して提出した。

その結果、3日減らし、7日の延長に変更された。ささやかだけれども、被疑者の人権を回復することができた。 

2021年3月9日火曜日

産地直送!!

 


被疑者国選弁護人に選任されて接見へ。


勾留されている方のご家族が遠方におられ、かつ電話番号が分かりません。

身体拘束をする理由も必要も話を聞く限りなく、違法・不当な逮捕・勾留です。身元引受人としてご家族に早く連絡がとりたい。

でも電話番号が分からない。さあ困りました。どうしようか・・・。


ええい、悩むくらいなら会いに行ってしまえと、休日返上で急遽県外まで出張。無事、身元引受人にお会いでき、釈放された後の身元を引き受けると書面を書いてもらいました。


「連絡先の分からない相手に連絡をとる方法」を福岡県弁護士会の多くの先輩や同期に知恵を求めた結果、移動中も多くのアドバイスをもらいました。ありがたい限りです。


さて、こちらが急ぎでテンパったのが伝わったのでしょうか。やりとりしていた同期の弁護士から

「こういうときの国選(弁護人)の交通費ってどうなるの?」

という趣旨の質問が、


「国産ってどうなるの?」


と誤変換されて送られてきました。


まあ、日本生まれ日本育ちですので、国産弁護人といわれても間違いではないですが。


クローン弁護士とかが将来登場することに備えて、今のうちから、


「国産弁護人富永悠太(遺伝子組換えでない)」とでも書いた名刺を作っておこうかなあ。


富永

2018年12月21日金曜日

住居侵入,窃盗未遂事件(2つの刑事事件報告②)


(西穂高岳独標から望む八ヶ岳赤岳からのご来光)

 住居侵入,窃盗未遂事件が終了しました。

 最初は当番弁護士として呼ばれました。博多臨港警察署です。珍しい。あまり行かないところです。

 法テラス窓口の人が女性ですと言ってましたが,面会すると男性でした。たしかにどちらでもありうる名前でした。

 逮捕段階。翌日には送検され,裁判所の決定で勾留になりました。勾留されると,被疑者国選弁護人としての対応になります。

 検察官と協議し,被害者と示談協議することになりました。
 初犯ですし,窃盗は未遂事件なので,被害者が納得すれば,起訴されないと見込まれました。

 被疑者に謝罪文を書いてもらい,被害者に送り,家族には金策をお願いしました。

 被害者と協議しましたが,捜査では未遂かもしれないが,被害はあると言われ,難航しました。被疑者による被害かもしれません,被疑者以外の者による被害者かもしれません。

 勾留は最初が10日で,あと10日だけ延長できることになっています。できれば最初の10日以内に示談をしたかったのですが,勾留延長になってしまいました。

 結局,示談はできませんでしたが,延長4日目に釈放になりました。国選弁護人としての仕事は終了です。

 民事の賠償問題がのこり,すっきりしないものの,刑事事件としては終了になります。
 あとは被疑者の更生を願うばかりです。

2018年11月19日月曜日

盗撮事件(2つの刑事事件報告①)


         (九重山から由布・鶴見岳)

 あまり積極的にしているわけではないのですが,ふつうの弁護士程度には刑事事件も手がけています。

 ふつうの弁護士は民事専門です。刑事事件は国選事件がほとんど。あとは顧問先の従業員の交通違反や少年事件など,特別の関係がある場合にかぎられるのではないでしょうか。というのも,やはりお金がないので犯罪を犯してしまうというのが一般的ですから。

 よくお客さんたちから,なんで悪い人の弁護をするのか訊かれます。このように評判が悪いので,刑事事件を好きでやっている弁護士はすくないのではないでしょうか。

 でも,刑事弁護制度は,人類の多年にわたる知恵だというほかありません。むかしは刑事弁護制度がなく,一方的な取調べを受け,無実なのに処罰される人が多かったと思われます。近代的な刑事弁護制度は,そのようなことをなくそうとしてつくられたものです。個々的にみれば首をひねりたくなるケースがあっても全体としてみれば,われわれ市民の自由がそれによって守られているのです。

 さいきん,刑事事件が2つ終了したので報告します。

 ひとつは盗撮事件です。電車内で女性のスカートのなかを写真撮影したとされる事件です。

 盗撮は,刑法には載っていません。福岡県の迷惑防止条例という条例で禁止されています。単純にはいえませんが,国会の定める法律で処罰するほどではない比較的軽い犯罪について条例で規制されています。盗撮について条例の定める刑の重さは6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。

 相談にきたときには事件直後で在宅捜査だったのですが,翌朝には逮捕され,身柄事件になりました。そして新聞に名前がでてしまいました。裁判所で有罪が確定するまえに,警察が記者に情報をもらしているのです。これにより,依頼者は仕事を失ってしまいました。一種の私刑です。

 逮捕は最大3日間の身柄拘束です。その後は,裁判所の審理を経て,10日間の勾留手続となります。10日間の勾留で足りなければ,もう10日間だけ捜査することが許されます。

 勾留請求の際に,裁判所に対して勾留する必要がない旨の意見書を提出しました。勾留の要件は,①逃亡のおそれと②証拠隠滅のおそれです。なにもしないのに懲罰的な理由で勾留という自由剥奪をすることはできません(実際には,ときどき見かけます。)。

 本件被疑者は,家族と生活し,定職につき,まじめに働いていました。初犯ですし,有罪となっても罰金刑が予想されます。そのような状況で逃げたりすることは考えられません。

 盗撮の証拠としては,撮影につかったスマートフォン,そのデータ,自宅パソコン内のデータです。これらはすべて警察が押さえています。被疑者は被害者の住所,名前などを知りません。だから,隠滅しようにも隠滅できる証拠もありません。被疑者はそれまで任意の取調べに素直に応じていました。

 こういう状況ですから,勾留の必要はないはずだ。というのが意見書の趣旨です。

 この意見書がでていたためか,検察官は勾留請求をおこなわず,被疑者はすぐに釈放されました。

 処罰は20万円の罰金でした。

 被疑者は心から反省し,2度とやらないと挨拶にこられました。どの被疑者のいうことも信頼できるというわけではないのですが,この方の反省は本物だと思いました。立ち直りを期待したいと思います。

2012年3月7日水曜日

言霊の力 by.刑事事件にも取り組む福岡の弁護士



 例の寝言の研究をおこなった
 先月のパートナー会議でのこと(2月24日)。

 受任事件の一覧表をみながら,事務局Aさんが
 「さいきん,刑事事件がありませねぇ。」とぽつり。

 「ちょっと,待ったぁ,その一言!」
 と止めましたが,時すでに遅し。

 こういう一言が言霊のちからで
 刑事事件を呼んでしまいます。

 民事事件と異なり刑事事件,特に身柄事件は
 逮捕・勾留されていることから時間制限があります。

 また事務所まで来ていただいて打合せできませんから
 警察の留置場や少年鑑別所などに面会に行く必要があります。

 民事はお金の問題ですが
 刑事は自由が問題となります。

 さらに刑事事件は被害者がおられて
 謝罪や被害弁償も課題です。

 これらのことから
 刑事事件は一般的に気がおもいのです。

 そうしたなか,パートナー会議の翌25日は
 当番弁護士の担当でした。

 2件電話がかかってきました。1件は例の
 『ドラゴン・タトゥーの女』の最中にかかってきたやつです。

 2件とも受任することになったうえ
 翌26日にはもう1件,私選で受任することになりました。

 覚せい剤事件,道路交通法違反(酒気帯び)・窃盗の成人事件と
 道路交通法違反(共同危険行為)の少年事件です。

 筑紫野署,博多署と
 少年鑑別所。

 『ドラゴン・タトゥーの女』の最中にかかってきたやつは
 覚せい剤事件で否認していました。

 否認の理由は,自分で使用するつもりはなく
 他人から知らないうちに使用されたというものです。

 覚せい剤使用事案の場合
 尿の検査をして覚せい剤反応が出たことが前提となります。

 なので,無罪を主張するときは
 知らないうちにとか,無理にとかいう否認になります。

 おおくの否認はあまり説得力がないのが実情ですが
 本件は前後の事情からして真実と思われました。

 捜査機関としては,覚せい剤使用について故意があった旨の
 自白を獲得しようとしていました。

 こういう場合,弁護人としてできることは
 実はあまりおおくありません。やれることは

 面会回数を適宜増やして,事実と異なる自白をしないよう
 被疑者を励ますことに尽きます。

 結局は被疑者の言葉が
 捜査官の心をとらえることができるかどうかです。

 弁護人にできるのは
 それを信じて励ますことだけです。

 無実の罪に泣くことになるのかと心配しつつ面会をしていたところ
 先日,無事釈放されました。

 ひと安心。
 もう2件あります…。

                 ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳

2012年1月17日火曜日

「運命の人」 by.山歩きの好きな福岡の弁護士



 日曜は、NHK大河ドラマ「平清盛」のあと
 TBS系で日曜劇場「運命の人」をやっていました。

 「運命の人」というタイトルからすると
 月9・青春ラブストーリーのようですが違います。

 「白い巨塔」「華麗なる一族」「沈まぬ太陽」などと
 おなじく山崎豊子さんの同名小説(文藝春秋)が原作なので。

 ほかの山﨑作品とおなじく
 実話がもとになっています。

 (以下、多少ネタバレあり)

 「西山事件ー外務省秘密電文漏洩事件」と呼ばれ
 憲法の教科書や、判例百選に紹介されている重大事件。

 1971(昭和46)年6月17日に調印された沖縄返還協定
 その裏でかわされた日米の密約問題をめぐるものです。

 モックン(本木雅弘さん)演じる主人公の政治部の記者
 ・弓成亮太は西山太吉さんという人。

 北九州出身で毎日新聞の記者でした。
 つまり、毎朝新聞社というのは毎日新聞社のことです。

 真木よう子さんが演じる外務審議官付き事務官
 ・三木昭子は判例百選では「H事務官」という方です。

 その他、政治家、外務省の官僚、読売新聞の記者など
 すべての登場人物が実在の人物と比定できます。

 フィクションではないと思って観ると
 やはり凄みがあります。

 (中略)
 その結果、

 刑事事件となり、H事務官は100条1項の守秘義務違反容疑
 西山記者は111条の秘密漏示そそのかし容疑で逮捕・起訴されました。

 国会公務員法100条1項はこう定めています。
 「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」

 同111条はこうです。
 「…行為を…そそのかし…た者は、それぞれ各本条の刑に処する。」

 西山記者の取材活動は
 この「そそのかし」行為にあたるのかどうか?

 憲法判例としては、国家秘密と取材の自由の相克が論点となり
 1978(昭和53)年5月31日最高裁判決が出ています。

 ふたりの運命はどうなるんでしょうね?

             ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳