Aの遺産は不動産(自宅と貸家)と預貯金。遺言書があれば別だが、一般的には、BとCの実印を捺した遺産分割協議書と各自の印鑑証明が必要である。それがなければ不動産の名義変更はできないし、預貯金の払戻しもできない。
本件ではBから依頼を受けた。Cはもう20年以上行方不明。まずはCの住民票の所在地を調査する。関西のある都市Dにある集合住宅にあることが分かった。その住所宛に手紙(内容証明郵便)を出すと、集合住宅の管理者から戻されてきた。つまり、Cは住民票上の住所に住んでいないということだ。
このような場合どうするか。民法は不在者財産管理人という制度を用意している(25条1項)。
Dを管轄する家庭裁判所に対し、Cの不在者財産管理人を選任するよう申し立てた。家庭裁判所も、Cが不在者であるかどうか独自の調査を行ったようだ。かなり時間が経ったので、何度か裁判所に問い合わせると、詳細は教えてくれないが、それらしきことを説明してくれた。
実は、その過程で、あるトラブルが発生した。詳細は例によって守秘義務により説明できない。あれこれ想像してくだされ。
調査の結果、不在者であると認められた。不在者財産管理人として、D地区で開業しているE弁護士が選任された。E弁護士だからといって、いー弁護士とは限らないが、事案の性質上、クセのないよい先生だった。
管理人の費用は行方不明者のCに負担させることができない。やむなくBに負担していただくことになる。つまり、相続人のなかに行方不明者がいると、2人分の弁護士費用がかかるということだ。
あとはE弁護士との間で遺産分割協議書を取り交わした。行方不明者と遺産分割協議を行う場合、帰来時清算型の遺産分割をすることがある。家庭裁判所と協議したが、それが許されるのは遺産の取得分が100万円以下のときに限られるという。本件では使えない。
やむなく、Bが全遺産を取得し、その代償金として、遺産の半分に相当する額をE弁護士の預り口宛に振込送金するという内容の遺産分割とした。
先ごろ、不動産の名義変更の登記、預貯金の払戻しと代償金の送金も終え、本依頼事件は無事終結した。
あと残るのは、不在者財産管理人が預かっている上記代償金の行方である。この点についても、民法は失踪宣告という制度を用意している(30条1項)。
不在者の生死が7年間明らかでいないときは、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができる。その宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされる(31条)。
いつからこの7年を数え始めるのかという問題がある。Cはもう20年以上行方不明なわけだから、すでに7年を経過しているといえなくもない。しかし、これは認められていない。本件ではD地区に住民票があり、職権消除されていないことから分かるように、最近まで生きていたことが判明している。
必須ではないが、一般に、失踪を裏付ける資料として、警察に行方不明者届を提出しなければならない。本件でもその手続を行った。あとは7年間の経過を待つほかない。
なお、行方不明者との離婚、行方不明者に対する不動産登記手続請求などについては、ケース・バイ・ケースであるが、公示送達や欠席判決制度を利用することができる。これらの点はまた別の機会に。
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