2022年12月12日月曜日

ある建物建築禁止を求める訴え

 

 新築の建物を建てようとしたら、隣地の住人から、日照や通風を妨害することになるから、その建築を禁止するよう求める裁判が提起された。

建物を建てようとしていた建築屋さんから、被告側で本訴の依頼を受けた。建築を予定していたのは木造2階建の一般低層住宅である。

その土地にどのような建物を建てられるかはまず、都市計画法や建築基準法により定められている。憲法上・民法上の所有権は自由な利用を出発点としているが、公共の福祉によりそれが制限される。都市計画法等による規制は、公共の福祉による規制の表れである。

都市計画法は、市街化区域と市街化調整区域に分け、後者の開発を制限している。日本列島が乱開発に湧いたころ、市街地から遠く離れたとこにミニ開発を行い、行政に対しそこまで上下水道を通すよう要求するようなことがあった。行政もこれには困ったので、市街化区域とそうでない区域に分け、市街化区域内でなければ家を建てられないようにした。

市街化区域内でも、利用状況によって、住居専用地域や商業地、工業地域に分けられている。これにより住居は住居、商店は商店、工場は工場で集まり、街に統一感が生まれる。住居専用地域では高い建物や大きな建物の建築が制限されるし、商業地ではより高度な利用をすることができる。

一時、「規制緩和」ということが盛んに言われた。行政のボリュームが減り、公務員の数が減り、公務員全体に対する給料支給が減り、財政が健全化し、国民の自由な領域が増えるのであれば、結構なことではないか。しかし、そうとは限らない。

建築の世界でも規制緩和が行われた。これにより、たとえば、それまで5階建までしか建てられなかったところに8階建が建てられるようになった。近隣の迷惑度は増す。けれども、土地利用の拡大がはかられ、日本経済にとっては追い風となる。

それまで日照権訴訟というのをやっていた。しかし、「規制緩和」後、裁判所は慎重になり、裁判をする件数は減った。

本件の土地は西鉄二日市駅にほどちかい第一種中高層住居専用である。低層だけでなく、中高層住居まで建築可能な地域である。実際、一般住宅のほか、集合住宅、公民館、保育所、区の集会所、マンションなどが建っている。

日照権は日影規制により守られる。同地域では高さ10メートルを超えると、一定の日影規制を受けることになる。しかし、本件建物の高さは最高でも8メートル弱であり、日影規制も受けない。

通風については建築基準法に明文の規制はない。しかし、建ぺい率、容積率により守られることになる。建ぺい率は土地面積に対する建築物一階の面積の割合、容積率は一階に、二階の面積を加算したものの土地面積に対する割合である。土地いっぱいに建物が建てられると風が通らないけれども、その一部にしか建てられなければ、風が通ることになる。

本地域は建ぺい率60パーセント、容積率200パーセントという規制である。建築を予定していた当方の建物は建ぺい率37.27パーセント、容積率74.54パーセントであった。余裕である。

建築基準法をクリアしていることについては、行政から指定を受けた検査機関が検査を行う。クリアしていれば建築確認がなされる。これで行政上の規制はクリアしたことになる。

行政上の規制をクリアすることと民事上の責任を免れることとは一応別論である。行政上の規制をクリアしていても、民事上の不法行為が成立することはありうる。しかし、「規制緩和」後、裁判所はそう判断することに慎重になっている。

以上のとおりであるから、本件建物の建築が隣地の住人に対する不法行為となることはない。そのように答弁した。間もなく、原告は本訴を取り下げ、早々の解決をみることができた。

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