2021年6月28日月曜日

心にかかる松島の月ー「月がきれいですね」


  ・・・まづなつかしく立ち寄るほどに、月、海に映りて、昼の眺めまた改む。江上に帰りて宿を求むれば、窓を開き二階を作りて、風雲の中に旅寝するこそ、あやしきまで妙なる心地はせらるれ。

この月は、おくのほそ道の冒頭、「松島の月まづ心にかかりて」とあった月です。当初からの旅の目的であり、芭蕉一行はその目的を果たしたわけです。

芭蕉の紀行文には他に「野ざらし紀行」「鹿島詣」「笈の小文」「更科紀行」があります。このうち「鹿島詣」「更科紀行」も月見を目的にする旅です。5つの紀行文のうち3つが月見が目的だったわけです。月見の旅がよほど好きだったのでしょうね。

こういう旅の目的は日本独自ではないかという人がいます。しょんべん小僧、人魚姫、マーライオンを見に行く旅はあっても、しょんべん小僧広場で月を見たいという感性は欧米人にはないのではないかというのです。

俳句をつくるときに、一物仕立てと取り合わせという2つの方法があります。前者は一つの季語に集中して作る方法で、後者は他のものと取り合わせて作る方法です。

鹿島の月、更科の月、松島の月は、それぞれの名所と月との取り合わせです。松島だけでも十分に美しいのだけれども、それに月を取り合わせるとさらに数倍美しい効果をうみます。

三大季語として、雪(冬)、月(秋)、花(春)といわれます。ぼくはこのうち雪と花には超シビれますが、月はあまりピンとこないほうです。みなさんはどうですか。

一つには、むかしは陰暦だったということがあるかもしれません。朔日の新月にはじまり、3日の三日月、6~8日目ころに上限の月、14、15日目に望月(満月)、21、22日目ころに下限の月、そして朔日の新月。それが28日周期で毎月繰り替えされる。そうなると、やはり月の動き、見え方がとても気にならざるをえません。

芭蕉が月見を好きだった理由は、ここら辺にありそうです。月は太古から月でありながら常に変化し無常。不易流行を体現しているからです。

筑紫野市でも二日市温泉・天拝公園で観月会がもよおされています。天拝山に月の取り合わせだけでも美しいですが、女性の浴衣姿との取り合わせは、数十倍の効果をうみますね。これなら月オンチのぼくでもピンときます。

ところで観月会で女性に「月がきれいですね」というのは、勇気が必要であると知っていましたか。

夏目漱石が英語の教師をしていたとき、I love you.を教え子が私は愛すと訳したところ、漱石は「日本人はそんなことは言いません。月がきれいですね。とでも訳しておきなさい。」と言ったとか。さすが。

※漱石は新婚旅行で二日市温泉を訪れています。きっと月がきれいだねと言ったことでしょう。

 温泉のまちや踊ると見えてさんざめく 漱石

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