コロナ禍のなか、裁判所の手続きの80%くらいはオンラインになった。さいたま地裁、横浜家裁、東京高裁、大分家裁、福岡地裁小倉支部など遠方の事件はもちろん、福岡地家裁本庁の事件もほとんどオンラインでやっている。家裁は電話、地裁はチームス、弁護団会議などはズームという会議用アプリを利用している。
このような面談によらない手続きは難しいと従来考えられていた。しかし、やってみるとそうでもなかった。
メラビアンの法則というのがある。一般的な面談の場面におけるコミュニケーションの情報量を100とした場合に、電話だけだと45%になってしまうというのだ。コミュニケーションの場では、言葉でのやりとりのほか、身振り・手振りで伝えている部分が大きいということだ。
そもそも、われわれの仕事はコミュニケーションが難しい。5つくらい前提をおいて、それらが充たされたら勝てますよと言ったりする。顧客は前提を忘れて、「勝てますよ」という結論しか覚えていない。
三段論法で結論が導かれるわけだが、小前提となる事実認定は、相手のもっている証拠しだいであるし、裁判官と認識が一致するともかぎらない。そのようなことが顧客に伝わらないことが多いのだ。
面談で伝えるのが難しい話をオンラインでやるとなれば、さらに難しくなることは必至だ。
裁判所は国の役所の一つであるから、従来からIT化を推進しようと考えていた。しかしなかなか進まなかった。法曹界が保守的ということもあったかもしれないが、法律の世界のコミュニケーションの複雑性がその推進を阻害していたのである。
しかしコロナ禍となり、人流を抑制するとなれば、オンライン化は避けられない。こうして半強制的にやらされてみると、意外とやれるというのが法曹人の共通認識となりつつある。弁護士と一般人という局面ではなく、法律家と法律家という局面であれば、ミス・コミュニケーションが少ないのだ。
かくてオンライン化により、われわれの業務は利便性を増した。しかし困ったこともある。従来、仕事時間の半分くらいは裁判所に出かけていた。が、いまでは裁判所に出かける割合は従来の20%くらいだから、ほとんど事務所にいることになる。
われわれも息抜きがしにくいが、事務局(秘書さん)はもっとたいへんだ。ただでさえ、コロナ禍のなか、メンタルヘルスの維持に腐心していると思う。そこへもってきて弁護士が事務所にずっといるのであるから、さぞかし息が詰まるだろう。
わが事務所のレイアウトはワンフロア方式である。他の事務所では、社長室方式といって、弁護士が個室をもってそこに閉じこもっている例もある。わが事務所でもそうしたいという意見がでたこともある。しかし、そうしなかった。
なぜか。弁護士と事務局、弁護士どうしの情報共有やコミュニケーションのしやすさという点からみて、ワンフロア方式のほうがすぐれていると判断したためだ。そういうレイアウトの副反応もあり、さぞかし事務局は息が詰まるだろう。
だよね?と訊いてみた。(Y弁護士が、横から「そんなこと訊いたって、正直に答えられるはずないでしょう。」などとツッコミをいれてきたが)みな苦笑しながら頷いている。やはりそうか。
どうしたらよいだろう?弁護士スペースと事務局スペースの間に、遮蔽板を置くというのはどうだろう?いまはやりのアクリル板ではどうだろうか?というと、事務局はみな首を振っている。だよね。それじゃ意味がない。
でも木製のパーティションにしてしまうと、遮蔽が強すぎて、こちらから事務局の様子がまったく分からなくなってしまう。
それじゃ、細いすき間を入れて垣間見る方式はどうだろう?源氏物語の世界ふうに。それだと、のぞきでしょう!事務局に叱られてしまった。あはは。
もともと人間関係の距離感の難しさをいうのに「ヤマアラシのジレンマ」というのがある。2匹のヤマアラシがいました。寒いので互いに近寄ると相手のトゲが刺さって痛い。離れると寒い。適切な距離感が難しい。
かくてわが事務所も、弁護士と事務局の間の適切な距離感を求めて模索がつづくのであった・・・。
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