2021年10月29日金曜日

能郷白山登山記ー猿楽ことはじめ

 







 土曜の朝、大垣の天気は快晴。・・・だったが、天気予報をみていると、福井のほうの山には雨がふると言っている。あれれ。どうしよう。

きょうの目的地である能郷白山(のうごうはくさん)は、1617mの二百名山である。百名山の白山とは別ものだ。

岐阜と福井の県境に位置している。むこう側は福井県の越前大野である。日本百名山の荒島岳や福井恐竜博物館にほどちかい。天気予報どおりであれば、少なくともむこう側は雨だ。

南のほう、御在所岳に目的地を変更する案も頭をかすめたが、当初の計画どおり能郷白山を目指すことにした。

電車の時間まで1時間ほどあったので、朝食後、大垣城まで散歩した。車もすくなく、散歩をするにはよい街だ。散歩をしている人も多い。

目的地までは樽見鉄道を利用する。といっても九州人にはわかるまい。岐阜県は山国だ。山の間を渓谷を削り、大きく3つの川が流れ、それにそって鉄道がはしっている。

東から順に、JR高山本線、長良川鉄道、そして樽見鉄道だ。JR高山本線は飛騨高山を経て富山に至る。詳しくは明日。

長良川鉄道は郡上八幡を経て終点、北濃へ行く。終点の北に、二百名山の大日ヶ岳があり、いちど乗ったことがある。

樽見鉄道は、大垣駅内にホームがあることからもわかるとおり、もとは国鉄で、いまは三セクになっている。かつてはセメント輸送の要だったようだが、トラック輸送に代わられ、存続が危ぶまれている。

そのため、イベント列車などの工夫がこらされ、行も帰りもカラフルな列車だった。車両は一台で、もちろんワンマンカーだ。

大垣駅をでると、さっそく西に伊吹山が美しい姿を現す。他の山が緑におおわれた円錐形であるのに対し、石灰岩がむきだしのカクカクした姿だ。

その北側には山並みが続いている。真北には能郷白山が望めるはずだが、どれかは特定できない。春になれば、最後まで雪が残るらしい。そのころであれば、特定できるだろう。

途中、左手にやはり石灰岩の採掘をしている山があった。かつてセメント輸送をしていたのは、ここからだろうか。

綾部をすぎると、根尾川沿いになる。とても美しい川だ。列車は川をなんども渡って上流をめざす。

神海(こうみ)をすぎると、乗客はぼくだけになった。川幅はせまくなり渓谷になる。鉄橋をわたる間、美しい川が垣間見える。アユ釣りがさかんだそうだ。帰りに、釣りをしている人を見かけた。

終点の樽見に着いた。降りようとすると、運転手がビクっとした。乗客がいるとは思わなかったようだ。廃線が危ぶまれるはずだ。

駅前にタクシーはいない。甘かった。いちおう鉄道の終点駅であるから、タクシーの一台くらいは待っていると思ったのに。電話すると10分ほどお待ちください。が、20分待った。

運転手は若く、以下、運ちゃんと呼ぼう。会話がはずんだ。飛騨だけに林業が盛んなんだそうだが、花粉症に悩まされているそうだ。山頂付近は雪になっているかもしれないと脅された。うひゃ。

困ったことに、登山口まで歩いて1時間ほど手前の地点で降ろされた。林道が荒れて、ロープがはられ、車では入れないそうだ。

しまった。山と渓谷社のガイドブックにしたがい、往復のコースタイム5時間10分でギリギリの計画をたててきた。プラス往復2時間の歩きが入ると、帰りの列車に間にあわない。仕方がない。行けるところまで行って、戻ってこよう。

リサーチ不足だ。100名山のときは、こういうことはなかった。200名山ということで、甘く考えていた。

気もそぞろに歩き出す。雨が降り出した。傘をさす。日が差してきた。暑い。一枚脱ぐ。谷筋にでて、山から北西風が吹きおろしてきた。寒い。一枚着る。この日はずっとこんな感じだった。晴れては曇り、降ってはあがる。天気はめまぐるしく変化した。

かなり近くでシカが鳴く。キュイイイィィィーン。メスを求めるオスの鳴き声だ。とてももの悲しい。奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき。ほんとうにそうだ。

ザックから熊鈴をとりだしてつけた。チリン、チリン。運ちゃんによると、昨日、駅近くの公園でクマが目撃されたそうだ。ニュースでも昨日、窓をあけて車のなかで休憩していたら、クマに襲われたと言っていた。熊鈴をつけると、シカ、カモシカや他の小動物にもあえなくなってしまうが、やむを得ない。

しばらく行くと、林道上に野生のサルが群れていた。熊鈴の効果なし。7,8匹か。親子連れもいる。自然との対峙だ。動物園でお目にかかるのとは違う緊張感がある。連中がその気になって襲ってきたら、大けがは免れまい。

写真を撮っていたら、逃げ出した。ほっ。うち一匹が樹上でこちらを窺っている。さらに近づこうとすると、慌てて逃げ出した。

ギャッ、ギャッ。鳥が鳴いている。ホシガラスのようだ。ホシガラスは高山で見かける。この程度の標高でもいるのか。疑問に思ったが、鳴き声、姿ともそのようだ。

たしかに林道は荒れている。落石がところどころ散らばったままになっている。さらに行くと水流に土をもっていかれて、岩がむき出しになっている。川に削られて、橋が無くなっているところさえある。車が入れないはずだ。

ガイドブックの登山口まで小1時間かかった。ふう。キュイイイィィィーン。またシカが鳴く。人影はない。心細い。

谷川にかけられた心細い橋を渡る。急坂を登る。また急坂を登る。その間、雨が降ったり止んだりする。傘をさしたり閉じたりする。傘にするか、レインウェアにするか、判断が難しい。下手にレインウェアを着ると、内側から汗で濡れてしまう。

急坂を登りきると、小尾根の稜線だ。ようやく1合目。ブナの林が美しい。

さらに登ると、左側からくる本尾根と合流する。2合目だ。標高1000mを超えた。一瞬、前方の峰が白くなる。雪が降ったのであろうか。落ち葉にもよく見ると、白いものがついている。

惜しい。猿がいたあたりで、しぐれていれば、名句を吟じることができたのに。

 初しぐれ猿も小蓑を欲しげなり

老ブナ坂にさしかかると、ブナの幹が太くなる。樹齢をすぎて枯れているのもある。枯れても造形美を感じさせる。しぶい。

登頂はともかく、前山までは行きたかったが、山中で予定していた5時間10分の半分の時間になったので、撤退することとした。リベンジを誓う。

帰り道で、またサルの群れにあった。おなじ群れだろうか。人数というか、サル数がふえている。二匹で遊んでいるのもいる。楽しそうだ。

そういえば、運ちゃんから問題をだされた。なぜ、能郷と呼ばれるのか。

村中に白山神社があり、そこで年1度、能と狂言が奉納される。能が奉納される郷だから、能郷なんだそうだ。4月13日。ちなみに樽見はうすずみ桜も有名。うまくすれば両方みることができる。

能楽のご先祖さまは猿楽だ。能舞台にもそう書いてある。なるほど、お前たちのご先祖さまが、われわれ人間のご先祖さまに、お能を教えてくれたのか。ありがとうよ。

※猿楽ことはじめは、杉田玄白著『蘭学事始』のもじり。言われなくとも分かる?すみません、読者を信じきれなくて。

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