世界遺産。南の屋久島とともに日本で初めて登録された。屋久島は麓の亜熱帯から山頂部の高山帯まで植生の豊さが、白神山地はどこまでも広がるブナ林にみられる手つかずの自然が評価された。
ここより北に弘前の岩木山、さらに北には北海道の山々があるが、辺境感という点ではここが一番かもしれない。
最寄りはその名も白神岳登山口という駅。五能線のほぼ中央にある。五能とは青森県の五所川原と秋田県の能代の頭文字。同駅の近くには、手頃な宿泊施設が見当たらない。
能代にルートインがあったので、そこに前泊することにした。夜7時に駅におりたつと、駅前は真っ暗、ホテルまでは歩いて25分もあった。翌日の買い出しのため、コンビニまでさらに10分歩く必要があった。
翌朝4時30分起床、5時43分の始発に乗った。朝夕だけ4便ほどが走るローカル線だ。遅刻するとつぎは7時34分、待ち時間が半端ない。というか、この日の山行を断念せざるを得ない。ドアの開閉はボタン操作が必要、2両編成。なんと他に客はおらず貸切だった。
能代は晴れていたが北のほうがくは雨雲が蝟集していた。北から寒気が南下しているためだ。天気予報ではしだいに回復に向かうとのことだった。
列車が進むにつれ、白神山地が右手から迫ってきて、線路は日本海沿いに押しやられた。日本海の荒波が磯にうちよせ、車内まで潮騒が響いている。再雇用なのか運転手のせなかが小さく見える。
途中、サルに注意などの看板がでている。クマ除けの鈴は持参したが、サルの襲来までは予期していなかった。
白神岳登山口駅で降りる。6時39分。むろんぼくだけだ。やはり磯にちかく、波がうちつけてくる音がときおり聞こえる。とっても風情のある駅だ。標高ほぼ0メートル。
ここから山頂までの往復。標高差1235メートル、コースタイムは8時間35分。帰りの電車は15時19分発の予定。コースタイムどおりに歩いてギリギリの時間だ。これに遅れると、その次は19時58分までない。本日の宿まで行きつくことができなくなる。
線路と国道をわたると、登山口までのびる林道にとりつく。登山口までは40分の林道歩きだ。ツリガネニンジンがところどころに咲いている。
林道の終点、駐車場に着いた。車が5台だけ駐まっている。きょう山に入るのは10名前後か。みなもう出発したようだ。
歩き出すと雨が降ってきた。しばらくは傘でしのぐ。男性1名とすれ違う。さらに激しくふってきたのでレインウェアをはおる。天気予報ははずれた。帰りまでずっと雨はつづいた。
しばらく行くと登山口。ここから本格的な登山道がはじまる。すぐのところに神のごときブナの樹があった。40分で二股分岐だ。夫婦が休んでいた。
文字どおり、右の谷筋と左の尾根筋の2コースにわかれる。谷筋は徒渉が3度あり、木の橋や石を跳んで渡らなければならない。雨に濡れて危険と判断し、尾根筋をピストンすることにした。
しかしきつい。ステイホームのせいか、体力が落ちている。コースタイム8時間35分の道のりを歩ききるこができるか不安になる。雨も降っているし、途中でなんどか断念しようかと思った。
90分ガマンして登ると、マテ山分岐。ようやく尾根上にたどりついた。そこからは道はなだらかとなり、どこまでもブナの原生林がひろがっている。残念ながら、雨々、ガスガスだが。
ブナはスギやヒノキと異なり、曲がりやすく建築材として役にたたない。橅という漢字は役に立たないことからきている。しかし、保水力がたかく森のダムといわれる。雨のブナ林ではそれがよく分かる。
尾根上を90分行くと大峰分岐。山頂から発する稜線だ。左は有名な十二湖方面、右が山頂方面だ。雨はなお降り続く。20分ほどで山頂だ。途中、おじさんとすれ違う。きょう4人目だ。天気予報はずれましたな、おじさんもボヤいている。
山頂付近には避難小屋とトイレがある。避難小屋には3人ほどが雨をしのいでいた。名古屋から来たらしい。これで7人。山頂で証拠写真を撮り、休憩なしで下山を開始する。
最初にすれ違った男性とすぐのところで会う。ぼくが木陰で道をゆずろうと待っていたのに気づかず、ぎょっとされる。猟銃をもっていたら、撃たれたかもしれない。きょうは人が少ないという。地元のかただ。
大峰分岐までに若い男性とすれ違う。これで8人。大峰分岐をくだりはじめると先ほどの夫婦。こちらはカウント済み。あと登山口付近で男性とすれ違った。結局、この日お会いしたのは以上9人だった。
雨のおかげで雄大な景色は観ることができなかったが、静かな山旅を楽しむことができた。むしろ寂しいくらいだ。一部をのぞき、期待したほど紅葉は進んでいなかった。紅葉までもう1、2週間ほどかな。
最後にすれ違った男性は「下のほうにクマがいましたよ。」と注意してくれた。人が少なければ、クマと出会う確率が高くなる。注意しながら下ったが、クマの姿は見えなかった。ほっ。
帰りの車窓、日本海が日を受けてキラキラ輝いていた。なるほど、このあたりは真西に日本海があり、そこへ夕日が沈む。芭蕉も感動するはずだ。
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