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2023年12月7日木曜日

マジカルミステリーツアー(2)

 

 翌朝目が覚めた。深夜に目覚めることもなく、うなされることもなく、座敷わらしに会うこともなく、神隠しにあうこともなく。朝の光のなか、さっそく一風呂浴びた。さっぱりした。贅沢。食堂はやはり一人。昨夜の嵐はややおさまっている。

鳴子御殿湯駅まで歩いてJR陸羽東線に乗る。鳴子温泉駅で下車。鳴子峡まで歩くが、紅葉はまだまだ(10月上旬ゆえ)。

駅に戻り、陸羽東線を東へ向かう。途中、堺田という駅がある。駅をおりれば芭蕉が泊まった封人の家がある。

 ・・・やうやう(あれ?パソコンが固まって動かなくなった。しばらくして回復。)として関を越す。大山を登って日すでに暮れければ、封人の家を見かけて宿りを求む。三日風雨荒れて、よしなき山中に逗留す。

 蚤虱馬の尿する枕もと(のみしらみうまのばりするまくらもと)

さらにJRでいくと赤倉温泉駅がある。そこからおくのほそ道の旅の最大の難所、山刀伐峠(なたぎりとうげ)をめざす。名前だけでも恐ろしい。

時間の関係で、登山口までタクシーを利用し、そこから峠まで往復する計画だった。10分ほどしてずんぐりした体格の青年の運転するタクシーがやってきた。おくのほそ道の記述が頭をよぎる。

 あるじのいはく、これより出羽の国に大山を隔てて、道定かならざれば、道しるべの人を頼みて越ゆべきよしを申す。「さらば」といひて人を頼みはべれば、究きょうの若者、反脇指(そりわきざし)を横たへ、樫の杖を携へて、われわれが先に立ちて行く。

青年運転手によると、山刀伐峠は登山口から峠までを往復しても悪くないが、やはり尾花沢まで抜けたほうがいいという。しかもタクシー代は登山口までの往復料金にまけてくれるという。

青年の好意に甘えて、そうすることにした。登山口ではスマホで写メを撮ってくれた。そうしていると、驟雨がやってきた。

クマがでるという。運転手はクマ脅しの道具を貸してくれた。残念ながら、おくのほそ道の旅のように、道案内まではしてくれないらしい。

おくのほそ道の記述にたがわず、深山幽谷、樹齢数百年と思われるブナの美林がつづいていた。そこを九十九折りに登っていく。深閑としている。かすかな異音にクマではないかと怯える。他に誰も人はいない。

・・・あるじのいふにたがわず、高山森々として一鳥声聞かず、木の下闇茂り合ひて夜行くがごとし。

ようよう峠についた。やはり人はいない。東屋のほか、子持ち杉、子持ち地蔵尊が祭られている。温泉街で買った弁当、それとミカンを食す。鳴子温泉で買ったのに、ミカンは熊本県産である。くまモンのマークがついている。

食べ物のにおいにクマが寄ってくるといけないので、そそくさと食べ終わる。一服することもなく、尾花沢(最上)側へ降りていく。・・・そろそろ山の中腹かと思うころ、驚いて跳ね飛んだ。人生で最長不倒距離を跳んだ。

なんと、300キロはあろうかという成獣のクマが昼寝していた。クマが寝るのであれば、うつ伏せであろうが、仰向けに寝ていた。まるでくまモンのイラストのよう。死んでいたのかもしれない。慌てて逃げ出したので、生死の確認はできなかった。

転がるようにして坂を駆け下りた。タクシーとの待合せ場所についた。ひゃーたすかった。芭蕉の記述以上に怖い思いをした。ふうー。

・・・雲端につちふる心地して、篠の中踏み分け踏み分け、水を渡り、岩に躓いて、肌に冷たき汗を流して、最上の庄に出づ。かの案内せし男のいふやう、「この道必ず不用のことあり。恙なう送りまいゐらせて、仕合はせしたり」と、喜びて別れぬ。後に聞きてさえ、胸とどろくのみなり。

あのクマは山の神だったのだろうか。この日、カメラの不具合で写真は一枚も撮れていなかった。登山口で青年運転手が撮ってくれた写メだけが手もとに残った。なんと、芭蕉の句を入れ、写真立てに入れてプレゼントしてくれた。

それにしても息もとまりそうな、不思議な体験だった。

2021年11月2日火曜日

位山登山記(2)ー世界は美しいものに満ちている


 







 スキー場のゲレンデトップからひと登りで、なだらかな山道に。広葉樹がおおく、あかるい山だ。名前とちがい、くらい山ではない。神々しくも、気持ちがいい。

クマの爪痕とおぼしき、木を削った跡があった。ひょえー。クマがいるということは豊かな森であるしるしである。でもあわてて熊鈴をつける。

山中にはところどころ巨石があった。『君の名は。』のモデルとされるゆえんである。右側から巨石群林道が合流してくる地点に、その名も天の岩戸があった。いまにもアマテラス大神があらわれそうだ。

山頂ちかくに北西方面がひらけた展望広場があった。ダケカンバが絶妙な角度で傾いている。コローの画のような美しい構図だ。そして霊峰・白山が輝いている。

山頂付近は、サラサドウダンの群生地にもなっている。花期は6月だそうだ。可愛い花がいっぱいついて、きっと美しいだろう。

蒼空には彩雲。見ている間に、消えてしまった。なにかのメッセ―ジのようだった。世界は美しいものに満ちている。またよいことがありますように。

2021年10月4日月曜日

白神岳登山記

 



 あこがれていた白神岳(1235m)に登った。山の名がとにかくかっこいい。白山やモンブランに比べ神装備である。

青森県と秋田県にまたがる白神山地の盟主。以前、事務所旅行で山麓を散策したことがあり、いつかは登頂したいと思っていた。

世界遺産。南の屋久島とともに日本で初めて登録された。屋久島は麓の亜熱帯から山頂部の高山帯まで植生の豊さが、白神山地はどこまでも広がるブナ林にみられる手つかずの自然が評価された。

ここより北に弘前の岩木山、さらに北には北海道の山々があるが、辺境感という点ではここが一番かもしれない。

最寄りはその名も白神岳登山口という駅。五能線のほぼ中央にある。五能とは青森県の五所川原と秋田県の能代の頭文字。同駅の近くには、手頃な宿泊施設が見当たらない。

能代にルートインがあったので、そこに前泊することにした。夜7時に駅におりたつと、駅前は真っ暗、ホテルまでは歩いて25分もあった。翌日の買い出しのため、コンビニまでさらに10分歩く必要があった。

翌朝4時30分起床、5時43分の始発に乗った。朝夕だけ4便ほどが走るローカル線だ。遅刻するとつぎは7時34分、待ち時間が半端ない。というか、この日の山行を断念せざるを得ない。ドアの開閉はボタン操作が必要、2両編成。なんと他に客はおらず貸切だった。

能代は晴れていたが北のほうがくは雨雲が蝟集していた。北から寒気が南下しているためだ。天気予報ではしだいに回復に向かうとのことだった。

列車が進むにつれ、白神山地が右手から迫ってきて、線路は日本海沿いに押しやられた。日本海の荒波が磯にうちよせ、車内まで潮騒が響いている。再雇用なのか運転手のせなかが小さく見える。

途中、サルに注意などの看板がでている。クマ除けの鈴は持参したが、サルの襲来までは予期していなかった。

白神岳登山口駅で降りる。6時39分。むろんぼくだけだ。やはり磯にちかく、波がうちつけてくる音がときおり聞こえる。とっても風情のある駅だ。標高ほぼ0メートル。

ここから山頂までの往復。標高差1235メートル、コースタイムは8時間35分。帰りの電車は15時19分発の予定。コースタイムどおりに歩いてギリギリの時間だ。これに遅れると、その次は19時58分までない。本日の宿まで行きつくことができなくなる。

線路と国道をわたると、登山口までのびる林道にとりつく。登山口までは40分の林道歩きだ。ツリガネニンジンがところどころに咲いている。

林道の終点、駐車場に着いた。車が5台だけ駐まっている。きょう山に入るのは10名前後か。みなもう出発したようだ。

歩き出すと雨が降ってきた。しばらくは傘でしのぐ。男性1名とすれ違う。さらに激しくふってきたのでレインウェアをはおる。天気予報ははずれた。帰りまでずっと雨はつづいた。

しばらく行くと登山口。ここから本格的な登山道がはじまる。すぐのところに神のごときブナの樹があった。40分で二股分岐だ。夫婦が休んでいた。

文字どおり、右の谷筋と左の尾根筋の2コースにわかれる。谷筋は徒渉が3度あり、木の橋や石を跳んで渡らなければならない。雨に濡れて危険と判断し、尾根筋をピストンすることにした。

しかしきつい。ステイホームのせいか、体力が落ちている。コースタイム8時間35分の道のりを歩ききるこができるか不安になる。雨も降っているし、途中でなんどか断念しようかと思った。

90分ガマンして登ると、マテ山分岐。ようやく尾根上にたどりついた。そこからは道はなだらかとなり、どこまでもブナの原生林がひろがっている。残念ながら、雨々、ガスガスだが。

ブナはスギやヒノキと異なり、曲がりやすく建築材として役にたたない。橅という漢字は役に立たないことからきている。しかし、保水力がたかく森のダムといわれる。雨のブナ林ではそれがよく分かる。

尾根上を90分行くと大峰分岐。山頂から発する稜線だ。左は有名な十二湖方面、右が山頂方面だ。雨はなお降り続く。20分ほどで山頂だ。途中、おじさんとすれ違う。きょう4人目だ。天気予報はずれましたな、おじさんもボヤいている。

山頂付近には避難小屋とトイレがある。避難小屋には3人ほどが雨をしのいでいた。名古屋から来たらしい。これで7人。山頂で証拠写真を撮り、休憩なしで下山を開始する。

最初にすれ違った男性とすぐのところで会う。ぼくが木陰で道をゆずろうと待っていたのに気づかず、ぎょっとされる。猟銃をもっていたら、撃たれたかもしれない。きょうは人が少ないという。地元のかただ。

大峰分岐までに若い男性とすれ違う。これで8人。大峰分岐をくだりはじめると先ほどの夫婦。こちらはカウント済み。あと登山口付近で男性とすれ違った。結局、この日お会いしたのは以上9人だった。

雨のおかげで雄大な景色は観ることができなかったが、静かな山旅を楽しむことができた。むしろ寂しいくらいだ。一部をのぞき、期待したほど紅葉は進んでいなかった。紅葉までもう1、2週間ほどかな。

最後にすれ違った男性は「下のほうにクマがいましたよ。」と注意してくれた。人が少なければ、クマと出会う確率が高くなる。注意しながら下ったが、クマの姿は見えなかった。ほっ。

帰りの車窓、日本海が日を受けてキラキラ輝いていた。なるほど、このあたりは真西に日本海があり、そこへ夕日が沈む。芭蕉も感動するはずだ。