ちくし句会では、トミーが苦吟しているようです。でも心配ありません。芭蕉だってそう簡単に作句していたわけではないのです。おくのほそ道の旅の第1の目的は、なんといっても俳句の詠み方(蕉風)の革新でしょう。
しかし、そのほかの目的も言われています。公儀隠密として仙台藩の実情を探るなどという説もあります(あとで触れます。)。源義経と主従、それと義経に助太刀して滅びた奥州藤原氏の鎮魂が目的だったという考えもあります。
旅の前半の目的には、やはり義経らの鎮魂も含まれていたのではないでしょうか。旅のクライマックスが平泉であるほか、そこに至るまでにあちこち伏線がはられているからです。屋島の戦いについては、黒羽のところですでに触れました。
ところでぼくが好きな映画を2つあげるとしたら、デビット・リーン監督作品の『アラビアのロレンス』と『ドクトル・ジバゴ』です。どちらも大きな時代の流れに翻弄されながらも奮闘する主人公たちの生きざまに魅了されます。
義経主従の悲劇との関係では、なかでも『アラビアのロレンス』を思い浮かべてしまいます。実在のイギリス軍将校、ロレンスの栄光と挫折を描いた映画です。
オスマン帝国が衰退するなか、その旧領だったバルカン半島の支配をめぐってドイツとロシアの利害が対立。それが引きがねとなって、同盟国側と協商国側の2大陣営に分かれ、第一次世界大戦となりました。
ロレンスの母国イギリスは協商国側であったところ、オスマントルコが同盟国側で参戦したことから、両国は敵対することになります。
他方、アラビア半島のアラブ人たちはオスマン帝国に支配されていたことから、その独立を求めてオスマン帝国と戦います。
敵の敵は味方というわけで、イギリスはアラブを軍事的に支援します。ただし、英仏は戦後におけるアラビア支配を目論んでいるので、その支援は限定的(お主も悪ようのう~)。
そうしたなか、ロレンスはそれまでバラバラで弱体だったアラブ軍をまとめ、彼らを引き連れて少人数で戦略拠点アカバを奇襲して攻略。以後次々と軍事的成功をおさめ、アラブの英雄に。ついには、英軍に先んじて、首都ダマスカスを攻め落としてしまいます。
そうした人間ドラマが砂漠の自然を背景に、美しい映像、壮大なスケールで描かれていて感動的です。
ところが、そのころには戦後処理をめぐり英仏とアラブ側の政治的駆引きがはじまっています。イギリス人でありながらアラブの英雄であるロレンスの存在は、どちらの陣営からも邪魔になってしまいます。そこでひとり故国に返されることに・・・。
軍事的天才でありながら政治音痴なため、戦中は英雄にまつりあげられながら戦後は邪魔者として排除されていく。栄光と挫折、明と暗の物語である点がロレンスと義経に共通しています。
「判官びいき」という言葉があります。庶民はむかしから、冷徹な政治家・頼朝よりやんちゃな義経のほうを「贔屓(ひいき)」にしてきたんですねぇ。芭蕉もその一人でした。
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