2021年5月1日土曜日

【ノリノリ憲法判例の天邪鬼談義②】最高裁、除斥の壁を打ち破る

 

先月26日、B型肝炎訴訟の最高裁判決がありましたね。

除斥期間の起算点について、画期的な判決でした。

090269_hanrei.pdf (courts.go.jp)


当事務所では井上弁護士が弁護団に所属していますので、喜びもひとしおです。

井上先生、ブログ書きませんか。書かないですよね。じゃあ代わりに書いておきますね。


長いので、B型肝炎訴訟の説明等は※※※以下に書いておきます。


除斥期間というのは、この期間内に損害賠償請求をしないと権利が当然に消滅しますよ、と法律で定められた期間のことです。

今回の判決で、最高裁は、すでに除斥期間を経過していると判断した福岡高裁の判決を破棄して差戻しました。

被害救済に向けての大きな前進です。


さらにすごいのは、三浦守裁判長が以下のような補足意見を書いたことです。

「極めて長期にわたる感染被害の実情に鑑みると、上告人らと同様の状況にある特定B型肝炎ウイルス感染者の問題も含め、迅速かつ全体的な解決を図るため、国において、関係者と必要な協議を行うなどして、感染被害者等の救済に当たる国の責務が適切に果たされることを期待するものである。」

要するに、この裁判の原告だけの話じゃないぞ、と国に釘を刺したわけです。かなり踏み込んだ補足意見だと思います。


以下に、詳しめに説明を書きますが、私は弁護団には所属していませんので、先に、このブログの過去の記事から補足意見を引いておきましょう。

あ、井上先生、追加の補足意見(ブログ更新)もお待ちしていますよ。

「ちくし法律事務所」の日常: 【B型肝炎訴訟-①】B型肝炎訴訟を支援する会 (chikushi-lo.jp)

「ちくし法律事務所」の日常: 【B型肝炎訴訟-②】東京運動 (chikushi-lo.jp)

「ちくし法律事務所」の日常: 【B型肝炎訴訟-③】九州和解協議期日 (chikushi-lo.jp)


富永


※※※


B型肝炎訴訟とは、昭和60年代初頭まで行われていた集団予防接種を乳幼児期に受けた際、注射器を連続使用したため、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染した方が、国に対して損害賠償請求をするものです。


平成元年から裁判が始まり、平成18年に最高裁で国の責任が確定しました。

033231_hanrei.pdf (courts.go.jp)

その後、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法が制定され、基本合意に基づき国と和解した方に給付金が支給される仕組みになっています。

厚生労働省「B型肝炎訴訟の手引き」より


B型肝炎ウイルスに乳幼児期に感染すると、

①免疫寛容期(無症候性キャリアが長期間続く)

②免疫応答期(活動性肝炎となる)

③低増殖期(肝炎が沈静化し、非活動性キャリアとなる)

④寛解期(臨床的寛解、つまり疾患リスクが事実上消失した状態となる)

という経過となります。


誤解をおそれずに(正確性<分かりやすさ)書くと、

感染→①しばらく無症状→②肝炎発症→③症状おさまる→④事実上治る

ということだと思います。


平成18年の判決では、除斥期間の起算点は②だよ、と言っていました。

もっとも、③となった症例の10~20%は、長期間経過した後にB型肝炎ウイルスが再増殖して②に戻るのだそうです。

②発症→③おさまる→②’再発

ということですね。


除斥期間は20年ですから、今回問題となったのは、②からは20年経過しているが、②’からは20年経過する前に訴えを提起した、という場合です。


除斥期間を経過しているかどうか、は基本合意に基づいて国と和解して給付金を受ける場合にも影響します。

特措法によれば、除斥期間前の提訴であれば給付金が1250万円、除斥期間後の提訴であれば給付金が150万円か300万円のようです。


だからこそ、三浦裁判長も国に釘を刺したわけですね。

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