2021年4月23日金曜日

遊行柳(2) 夢幻の世界へ


『遊行柳』の冒頭、遊行上人と柳の老人のやり取りはこうなっています。

柳の老人・・まづ先年遊行のおん下向の時も、古道とて昔の街道をおん通り候ひしなり、されば昔の道を教へ申さんとて、はるばるこれまで参りたり

遊行上人・・不思議やなさてはさきの遊行も、この道ならぬ古道を通りしことのありしよのう

柳の老人・・昔はこの道なくして、あれに見えたる一叢の、森のこなたの川岸を、お通りありし街道なり、そのうへ朽木の柳とて名木あり・・

このやり取りを読むと、『千と千尋の神隠し』の冒頭の場面を思い浮かべてしまいます。千尋は両親とともに引越先のニュータウンへ向かう途中、森の中の奇妙なトンネルから不思議な世界に迷い込んでしまう。「トンネルの向こうは不思議の街でした」というアレです。

そう思って、那須野の段の最初をもう一度読んでみると、こうなっています。

・・野中を行く。そこに野飼ひの馬あり。草刈る男に嘆き寄れば、野夫といへどもさすがに情け知らぬにはあらず。「いかがすべきや。されどもこの野は縦横に分かれて、うひうひしき旅人の道踏みたがへん、あやしうはべれば、この馬とどまる所にて馬を返しためへ」と貸しはべりぬ。・・やがて人里に至れば、価を鞍壺に結び付けて馬を返しぬ。

芭蕉はなにも語っていませんが、那須野の段の冒頭は『遊行柳』の冒頭の場面が踏まえられているのではないでしょうか。そして、われわれを夢幻の世界へ誘っているのではないでしょうか。

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