2021年4月18日日曜日

谷川選手が新天地へ!

(注)今回の記事はやや長いです。興味のない方は、※※※までお読みください。って興味ない人は最初から読まないか。じゃあ、気が向いたら最後まで読んでください。

 

 

谷川選手の移籍が決まりましたね!

 

えっ、知らない!?

阪神タイガースの谷川昌希投手が日本ハムファイターズに金銭トレードで移籍する話です。

地元の筑陽学園高校出身、東農大、九州三菱自動車を経て、2017年ドラフト5位で入団した右投右打の投手です。

 

阪神ファンの私はもちろん名前は知っていましたが、今回のトレード報道で初めて筑陽学園高校出身だったことを知りました。

中継ぎ投手の層が厚い阪神では今シーズンは活躍の場に恵まれませんでしたが、新天地でも頑張ってもらいたいですね!

 

※※※

 

ところで、金銭トレードですが、これ、なんでオッケーなんでしょうか。

 

普通の会社では、労働者を他の会社から金銭で買う、なんてできませんよね。

例えば、ちくし(株)に雇用される労働者富永を、Darvish(有)に金銭トレードしようとしても、富永の同意なしにはできません。

 

労使の合意原則(労働契約法3条1項)があるうえ、ちくし(株)が優位な立場を利用してDarish(有)に移籍する労働者富永の給料をピンハネするおそれがあるためです。

そのため、普通の会社では、金銭トレードなるものは、違法な労働者供給(職業安定法44条)として許されないものと考えられます。

 

では、プロ野球選手の場合はどうでしょうか。

 

選手と球団との契約は、日本プロフェッショナル野球協約に基づき、統一契約書による選手契約とされています(協約第44条本文)。

選手はプロ野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行い(統一契約書第2条)、球団は選手に対して参稼報酬を支払います(同第3条)。

統一契約書の条項は、選手と球団の個別合意では変更できず(協約第47条)、協約の規定に違反する特約条項は無効とされます(協約第48条)。


要するに、選手は仕事として野球をし、球団は選手にお金を払う、という契約を12球団が統一様式で行っているということです。

 

この統一契約書の中に、次のような条文があります。

 

第21条(契約の譲渡) 選手は球団が選手契約による球団の権利義務譲渡のため、日本プロフェッショナル野球協約に従い本契約を参稼期間中および契約保留期間中、日本プロフェッショナル野球組織に属するいずれかの球団へ譲渡できることを承諾する。

 

金銭トレードはこの統一契約書第21条を根拠として行われている、ということです。

 

それでは、なぜ統一契約書第21条は労働者供給として職業安定法44条に違反しないのでしょうか。

この疑問に言及している文献等は、見つけられませんでしたので、以下は私見になります。

 

2つの考え方があると思われます。

①選手は「労働者」にあたらない。有償準委任契約の受任者である(準委任契約説)。

②トレードは「労働者供給」にあたらない。転籍(出向の一種)である(雇用契約・転籍説)。

 

まず、選手契約の法的性質を考える必要があります。

選手契約は、選手が仕事として野球をし、球団が選手にお金を払う、というサービス提供(役務提供)型の契約です。

 

民法の典型契約には、サービス提供(役務提供)型の契約が4種類あります。

 

雇用、請負、委任(準委任)、寄託です。

 

雇用は、イメージのとおり、労働者が労働に従事し、使用者が報酬(賃金、給料)を与える契約です。

請負は、建築のように、ある仕事を完成することに対して報酬を支払う契約です。

委任(準委任)は、事務の委託等を内容とする契約で、医師や弁護士などが典型です。

寄託は、物を保管してもらう契約になります。身近なもので言えば、預金契約は、金銭消費寄託契約という寄託契約の一種になります。

 

この中で、選手契約に近いもの、と考えると、まず物を預かるわけではないので寄託は違います。また、「優勝したら」とか「ホームラン30本打ったら」などの仕事の完成に対して報酬を払っている、というのもやや違うため、請負もはずれます(インセンティブ報酬等はあるのかもしれませんが)。

 

そうすると、雇用か委任(準委任)か、ということになります。

 

ここで、プロ野球選手の法的立場について考察した裁判例があります。

東京地決平成16年9月3日(裁判所ウェブサイト:908D342DDA372721492570DE00063F3 (courts.go.jp))です。

 

これは、近鉄がオリックスに営業譲渡して、選手会がストライキに突入したときの事案で、選手会が団体交渉を求める地位にあることの確認等を求めた仮処分事件になります。


東京地裁は、プロ野球選手が労働組合法上の「労働者」にあたることを肯定し、近鉄からオリックスへ営業譲渡されることに伴う選手の移籍を「解雇」や「転籍」という言葉を用いて議論しています。このことは、抗告審である東京高裁でも同様でした(東京高決平成16年9月6日、同9月8日)。

 

「どんな特徴いうてたんか言うてみてよ~。」

「東京地裁は『労働者』って言うてたんよ。」

「ほんならもう『労働契約』で決まりやないの~。」

とミルクボーイみたいなやりとりになると、

「でもな~」

になるんですよ。

 

この裁判例で肯定されたのは労働組合法上の「労働者」性なのですが、一般に、労働組合法上の「労働者」は労働基準法上の「労働者」よりも広く解されています。

つまり、労働組合法上の「労働者」にあたるとしても労働基準法上の「労働者」にあたるとは限らない、ということです。

 

実際、税法上も、プロ野球選手の所得は給与所得ではなく事業所得とされているようですし、プロ野球選手がサラリーマンと言われると違和感があります。

「球団社長、昨日の試合、ナイターで延長戦だったので残業代ください。」

みたいな話も、違和感ありまくりです。

もし、雇用契約だと理解するならば、金銭トレードは、出向の一種である転籍、と理解するのが自然な気がします。

ただ、半沢直樹の影響か、出向と理解すると、「片道きっぷの島流しじゃ~」というイメージになり、新天地に送り出される谷川がかわいそうです(注:世の中には活躍されている出向社員の方々も大勢おられます)。

 

そういうわけで、自説としては、選手契約は有償準委任契約であると理解したいと思います。

金銭トレードについては、契約上の地位の移転に対する包括的な事前承諾条項とでも理解するのでしょうか。

興味のある方は調べてみてください。

 

なお、Darvish(有)は実在しない架空の有限会社であり、ダルビッシュ有投手とは一切関係ありません。


 

富永


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