2021年4月26日月曜日

遊行柳(4)


同行がトミーであるせいか、謙虚に学べと口うるさく繰り返してしまい、最後には老馬にまで学べとまで言ってしまいました。これがほんとうの老馬心、もとい老婆心でしょうか。

さて芭蕉が学ぼうとする諸先輩のうち最上の先輩は西行です。かれは武士出身で法師となり歌人であったばかりか、なにより旅人だったからです。おくのほそ道の有名な冒頭にも、西行を筆頭とする古人へのリスペクトはあきらかです。

月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして、旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり・・。

その西行もしばし立ち寄ったという遊行柳。昔の人の申し置きしは、鳥羽の院の北面、佐藤兵衛憲清出家し、西行と聞こえし歌人、この国に下りたまひしが、頃は水無月半ばなるに、この川岸の木の下に、しばし立ち寄りたまひつつ、一首を詠じたまひしなり(能『遊行柳』)。

 道の辺に清水流るる柳かげ しばしとてこそ立ちどまりつれ

これを受けて、おくのほそ道の遊行柳の段。

清水流るるの柳は、蘆野の里にありて、田の畔に残る。この所の郡主戸部某の「この柳見せばや」など、をりをりにのたまひ聞こえたまふを、いづくのほどにやと思ひしを、今日この柳の陰にこそ立ち寄りはべりつれ。

そして、一句を詠じたまひしなり

 田一枚植ゑて立ち去る柳かな

西行の立ちどまりつれをひきつぎ、立ち去って物語を完成させる芭蕉なのでした。

さあ、これでみちのくへの旅の準備は万全です。鏡のまえで装備の点検をする必要もありません。いざ出陣、もといいざ出発。

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