2021年9月29日水曜日

妄想旅行

 

 ヘミングウェイにいくまえに昨日のつづき。向田さんは「旅も恋も、そのときも楽しいが、反芻はもっと楽しいのである。」という。

さらに言えば、旅は計画しているときも楽しい。それは科学的にも実証されている。

さいきん、アメリカでは、幸せになるためにどうすればよいのか?を科学的・実証的に明らかにしている。その方法は医薬品の有効性を明らかにするのと同じ。大規模比較試験である。

1000人のボランティアを集める。みなにその時点における幸福度を採点してもらう。そして平均値を求める。仮に63点だったとしよう。

人間だから、幸福度が高い人もいれば低い人もいる、たまたま宝くじに当たったばかりの人もいれば外れたばかりの人もいる。でも1000人の平均値をとれば、そのような個性や偶発性は解消されてしまう。それが大人数を集める目的だ。

その1000人を無作為に500人ずつAグループとBグループに分ける。Aグループはいままでどおり生活してもらう。Bグループには、幸福度が上がりそうな何かをしてもらう。たとえば「寝る前に般若心経を1回唱える」。それを1か月間繰り返してもらう。

1か月後、再度みなさんに自分の幸福度を採点してもらう。仮にAグループの平均が64点、Bグループの平均が70点だったとしよう。ここから「寝る前に般若心経を1回唱える」とそうでない場合と比較して幸せになれるという結果が導かれる(統計学的に6点差が有意であれば)。

こうして幸せになる方法がいろいろと実証されている。たとえば、①楽しいことを思い浮かべて常に笑顔でいるとか、②毎日軽く運動をするとか、③たっぷりと睡眠をとるとか、④家族や友だちと時間を共有するとか。

考えてみれば、ほとんど昔から言われてきたことだ。そりゃそうだ。幸せかどうかは実験しなくったって、自分で感じることができる。それを科学的に証明してみないと気がすまないのは、アメリカ人らしいプラグマチックな精神のなせる技なのだろう。

そういう方法のなかに、①日光を浴びてウォーキングするとか、②モノより経験を買うとか、③旅行の計画をたてるとか(計画は架空でもかまわない)いうのもある。

たしかに旅行を計画するのは楽しい。ガイドブックを読み込む、DVDを観る、インターネットでリサーチする、地図や時刻表で場所や時間を確かめる、宿や交通機関を予約する、限られた時間にできるだけ楽しいことを詰め込む、相互に調整する。どれをとってもワクワクする。

かくて向田さんの名言にさらに付言したい。「旅も恋も、そのときも楽しいが、反芻はもっと楽しい」「さらにいえば、計画もまた楽しい」「旅も恋も、そのとき、反芻、そして計画の3たび楽しい」。

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