2021年9月2日木曜日

『お気の毒な弁護士』


  わが事務所でいま読まれている本があります。『お気の毒な弁護士』山浦善樹著(弘文堂)です。地域に根ざす弁護士としてのわが事務所の理念と共通するところから、座右の書となりました。事務所報の夏版に書きましたので、そのことはそちらに譲りたいと思います。事務所ホームページ「ちくし法律事務所のニュース」欄をご覧ください。

きょうは別の話題。わが事務所は研修生を受け入れています。研修生には2種類あって、司法試験に合格したあとの人と合格する前の人です。前者は司法修習生、後者はロースクール生です。この研修のことを弁護実務修習とかエクスターン・シップとか呼びます。

むかしは司法修習生に希少価値があり、その受け入れは一つの名誉職でした。それで先輩弁護士はみな、すすんで引き受けていたと思います。司法試験改革により合格者が数倍に増えた結果、修習生の価値もインフレにより下落してしまい、最近は引き受け手も減ったやに聞きます。

そうなった後もしばらく司法修習生を引き受けていました。司法修習生とのおつきあいは利害を超えて、将来の法曹界をになってくれる人材を育てる一助となる、いわば社会貢献的な意味があると思うからです。

しかしなぜか、当職のところには予備(司法試験のバイパス)試験に合格、東京の4大法律事務所(地域事務所とは対極的なあり方)に「就職」がすでに決まり、骨休めに福岡修習を希望しましたみたいな人がつぎつぎとやってきました。そのような状況がつづいたため、社会貢献的な意義も感じられず、引き受けをお断りしました。

最近、それじゃいかんなと思い直し、ロースクール生だけは受け入れることにしました。それで今週月曜から金曜まで1人来られているわけです。

月曜日、かれが来てすぐに、上記書籍を読むよう勧めました。・・・しかし、木曜の今日まで、それが読まれている形跡はありません。残念です。

この問題は実務修習で何を学ぶかという点と関わってきます。本人が実務の枝葉を学びたいというのであれば、いたしかたありません。でも、枝葉は弁護士になれば毎日学ぶことができ、1週間もすれば同じ体験ができます。

むしろいまの時期は、何のために法曹になりたいのか、誰のために仕事をしたいのか、どのような法曹を目指すのかという理念やビジョンを練るほうがよいと思うのです。自動車でいえばエンジンの性能をアップして馬力を高めるということです。エアコン、ステレオや車内の装飾などは、あとからでもどうとでもなります。

むろんそのようなことは実務修習でなくとも大学の図書館でもできるとの意見もありましょう。しかし35年間弁護士をやってきた自分に教えられることがあるとすれば、そこが一番かなとも思うのです。あるいは、自分では教えられないとしても、教えられる本を教えることはできるように思うのです。

でもそこは彼の人生の選択ですし、価値観の問題でもありましょう。なので本人の選択にゆだねるしかありません。まことに残念。

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