2021年9月8日水曜日

法律相談はむずかしい


  弁護士の仕事のうちで、弁護士になりたてのころは反対尋問などがむずかしく感じる。しかし、さいきんはほんとうにむずかしいのは法律相談だと思う。

きのう、ある相談があった。おなじ相談者のかた、かつ、おなじ事案で3度目だ。なぜか。まず、紛争内容が不確実で不確定である。

ある土地を複数の人間で共有している事案だ。共有地の処分は全員一致が必要なので、自分だけでは決められない。

なかには亡くなっている人も複数いて、相続関係が整理されていない。さらに、全員が相続放棄をしている当事者もいる。相続財産管理人の選任が必要である。それには手間と費用がかかる。

つぎに土地の価格であるが、ある当事者からある価格が示されている。しかし、インターネットで近隣の価格を調べると、その4倍くらいはしそうである。

またこの土地のうえには解体が必要な建物が建っていて、所有者が別である。そしてこちらも相続が発生している。建物の中には亡くなった方の家財が存在している。どうも水害にも遭ったらしい。建物の解体や家財の処分が必要だが、その費用がはっきりしない。

やむをえず変数は変数として説明するのであるが、変数のままではなかなか理解しづらい。土地の価格も上ものの処分価格も両方とも変数だからなおさらだ。

物件の価格がそれなりであれば、方針選択はそれほどむずかしくない。しかし損得微妙だと、とてもむずかしい。費用を払って弁護士に依頼する事案かどうか、さらに微妙である。

民法は紛争解決のルールを定めている。トランプのルールのようなものである。遺産分割協議などで、主として長男がこのルールに納得されないことがある。しかし、民法は何百人という国会議員が決めたものなので、いち裁判官、いち弁護士が変えられるものではない。

もちろんすべての当事者が納得すれば、そのようなルールにしたがう必要はない。しかし一人でも反対者がいれば、民法のルールどおりに解決することになる。そのアンパイヤが裁判官である。

共有物に関する紛争解決ルールは、共有物分割請求をおこなうか、持分を放棄するかである。持分の放棄は、この紛争から早期に離脱するよい手段である。しかし、損得の勘定がわからなければ決められない。

などなど説明して、すっぱり理解されるかたはすくない。こちらの説明が終わったとたん、いちばん最初の質問をされることがすくなくない。30分の説明が無駄だったということが分かる。

細かな点まで正確で丁寧な説明がよいかどうかはケース・バイ・ケースだ。細かな説明の理解が難しければ、ざっくり説明するしかない。それでざっくり説明してみた。するとやはり、またいちばん最初の質問をされた。う~ん。

法律相談のむすびは対応方針について選択肢を示すことになる。作戦Aと作戦Bだ。作戦Aだと道のりは長いけれども比較的安全。作戦Bだと近道だけれどもデコボコしている。どちらにしますか。

これもなかなか決められない。かくて3度目の法律相談とあいなったのである。しかし、紛争は動かすことだけが対応方針ではない。経過観察する、もっとざっくりいえば放置することにより事態が好転することもある。

本件は放置していたことにより、他の当事者がいろいろと動いてくれ、問題状況が見えやすく改善された。なので、最初の相談のときよりは問題は簡単にわかりやすくなっていた。

しかしやはりきょうも決めきれない。よし、もう少し事態が見えやすく改善されるまで、もうしばらく様子を見ましょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿