2022年3月24日木曜日

ある家明け事件ー左の頬を打たれたら


 7年前は山梨県にある二百名山、御正体山に登っていたようだ。Facebookがそう教えてくれる(写真)。まだ雪山で、ブナだろうか、春待ちげな古木である。

さてきのうは2件、事件が解決した。1件は賃貸マンションの明渡請求事件。賃料の滞納がつづいたため契約解除。裁判所も明渡しを命じた。

しかしこれに応じない。執行官に依頼して明渡しの強制執行を申し立てた。1度目は任意の明渡しを求める督促。それでも明け渡さない。

しかたがないので断行かと思いきや、前日になってあと少しとの連絡。執行官とも連絡を取り合い、裁判所に依頼して月末まで断行を延期してもらう。

その後も連絡が途絶えたり、いろいろあったが、ようやく鍵が返ってきた。鍵の所在は重要である。『ユリシーズ』でも、鍵こそがその塔や屋敷の主であることの象徴となっている。家屋の明渡しにおいても、家財を撤去し、部屋を掃除した上、鍵を戻してはじめて明渡し完了となる。

きのうはさらなるドラマがあった。マンション内部の状況を確認するため、家主の息子さんに立ち会ってもらった。その際、借主とはじめて対面がなされた。

これまでの約束違反、受けた迷惑の数々。普通であれば、暴言、叱責、苦情の連呼は避けられないだろう。しかし家主の息子さんが述べたのは感謝の言葉。「断行しないで任意に明け渡してもらい、ありがとうございます。」

これには驚いた。35年間弁護士をしていて初めての経験だ。右の頬を打たれたら左の頬を差し出せという教えは知っている。しかし実践するのは難しい。

でもやはり教えはすごい。深い知恵にもとづくものと実感した。というのも、感謝の言葉により、その場にいた人みなが幸せな気持ちになったのである。まさに魔法の言葉である。暴言、叱責、苦情の連呼だと、溜飲をさげることはできただろうけれども、嫌な気持ちがしばらく続いたと思う。

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