いまの日本人でナウシカの名を知らない人はすくないだろう。宮崎駿のアニメ映画『風の谷のナウシカ』の主人公。
世界を焼き尽くす破壊兵器をもちいた戦争後、空気は汚れ巨大化した昆虫たちが跋扈する世界。人々はなおいがみあい、争いを止めることができない。そして争いにより環境をさらに悪化させてしまう。そうしたなか、人と人が争うのをやめ、自然と共生する道をさぐる・・・。
ナウシカの出自はふるく、古代ギリシアのホメロスによる『オデュッセイア』である(ナウシカではなく、ナウシカアと表記される。)。スケリア島の王女。難破漂流してきたオデュッセウスを救いもてなし、船を用意して彼を故郷イタケ-へと送り出す。別れ際、国に帰っても自分のことを思い出して欲しいと告げる・・・。
『風の谷のナウシカ』の主人公の名はなぜナウシカなのだろうか。ほんとうの主人公はオームに象徴される自然であり、彼女はオームをもてなし自然を救うという意味だろうか。
いまもジョイスの『ユリシーズ』に取り組んでいる。参考書の助けを借りつつ、難解かつ長文な本文を読むのでなかなか進まない。『オデュッセイア』を神話的背景とする『ユリシーズ』にもナウシカアの挿話は当然でてくる。
古代の英雄が主人公であった『オデュッセイア』と異なり、現代のスケベなおっさんが主人公である『ユリシーズ』。そこでは、ナウシカアの目されるガーティもかなり下世話である。このブログで紹介することも憚られる。20世紀初頭発禁処分を受けたのも、この記述が問題とされたためである。
スケベなおっさんはブルーム。『オデュッセイア』の主人公であるオデュッセウスがトロイア戦争を闘うなど好戦的であったのに対し、平和主義者である。
当時アイルランドはイギリス帝国主義の軛のもとであえいでいた。アイルランドではそこからの独立をめざし、民族主義が熱くなり、文芸の分野でも国粋主義的な風潮がたかまっていた。
運動はイギリスの帝国主義からの独立という目的をもっていたけれども、他方ではユダヤ人など外国人を排斥する側面ももっていた。運動というものの危うさを示している。ブルームはそれらの運動とも一線を画し、徹底的な平和主義の立場である。
われわれ凡人はニュースや日々の出来事につどつど怒りを覚え、われを忘れてしまいそうになる。しかしいまこそ、ナウシカのことを思い出さなければならないと思う。
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