2021年11月17日水曜日

理想か現実か(2)『誰がために鐘は鳴る』


  きのうの『スタートレック・ヴォイジャー』のプロットは、駅馬車をはじめ、西部劇のプロットとおなじだ。もっといえば、ベトナム戦争、イラク戦争やアフガン戦争ともおなじかも。

ちょうどおなじころ、ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』(上・下)(高見浩訳・新潮文庫)を読み終えた。40年ぶりの再読だ。

若いころは戦争スペクタクル、戦場恋愛ドラマとして読んだのだと思う。それが『日はまた昇る』より理解しやすかった理由だろう。

しかし、再読してみて、困難な課題を遂行する際の、不安、責任、孤独をよく描いていると感じた。こちらも年齢を重ねて、困難な課題をなんどか遂行し、これらの状況や感情をよく理解できるようになったからだろう。

ヘミングウェイじしん、共和国軍に加勢した経験とその際の義憤に基づくためか、簡潔を旨とする文体からすると、やや冗長なところがみられた。

(以下、ネタバレ)

舞台は、スペイン内戦。主人公ロバート・ジョーダンはアメリカ人。国際旅団義勇兵として共和国軍に荷担している。そして共和国軍の攻勢の一環として、敵の増援路にあたる山中に架かる橋を爆破するよう命じられる。敵はフランコ率いるファシスト軍である。

ここでも共和的価値観と全体主義的価値観の対立・抗争になっている。ボーグ集合体とたたかうヴォイジャーとおなじだ。ただし、当時の国内・国際情勢を反映して、複雑な構図となっている。

フランコ軍を支援しているのは、ファシズム国家であるドイツ、イタリアなど。こちらは分かりやすい。しかし、共和国軍を支援しているのは、20年まえに革命をなしとげたソビエト。共産勢力の伸張をおそれた英仏は共和国への支援をためらっている。

橋の爆破を遂行するため、ジョーダンは地元の山岳ゲリラたちの助けを借りる。そのなかには、ジョーダンと恋におちるマリアもいた。物語はジョーダンがゲリラたちと合流し、橋を爆破するまでの4日間のことである。

フランコ軍は、ドイツなどの援助により、多数の航空機をはじめ、戦車など機動力・戦力が圧倒している。対するジョーダンたちは貧弱な装備にくわえ、圧倒的な敵勢力をまえにした裏切りが生じたりして、死を覚悟せざるを得ない状況である。

ジョーダンは裏切り者をだしながらも、マリアとの愛を深め、ゲリラたちと家族のような気持ちの結びつきを強める。その結果ここでも、全体主義とのたたかいという大義と家族のようなゲリラたちとの犠牲という両立しがたい価値の選択に直面する。ヴォイジャーのジェインウェイ艦長が、宇宙平和とクルーたちの命との相克に悩んだように。

人間の弱さはゲリラ内部だけではなく、軍の主導部内にも蔓延していて、こちらの攻勢の情報は敵に筒抜けである。ファシスト軍は、こちらの攻勢を手ぐすねをひいて待ち構えている。味方の攻勢の失敗は明らかである。敵陣深くに潜入しているジョーダンには、誰よりそのことが分かる。それが分かりつつも、ジョーダンは作戦を実行する。

誰がために(弔)鐘は鳴る?タイトルの問いが重く響く。

浜崎あゆみのMが頭のなかをリフレインしていた(笑)。

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