2023年4月28日金曜日

六甲山全山縦走(2)と西国三十三所巡礼

 




 六甲山全山縦走2泊3日の2日目の天気予報は雨。そのため、2つのグループと個人に分かれることになった。1は、鵯越から記念碑台まで縦走を続けるグループ、2は、横尾忠則展など美術館めぐりをするグループ、3は、このあたりの西国三十三所を巡礼する者である。ぼくは最後の1人。

兵庫県にも西国三十三所の寺院が5つあり、このうち3つは回れそうだと判断した。コンプリート好きですねと、他のメンバーからからかわれた。

まず目指したのは播州清水寺。京都にも清水寺があるので、区別するため播州をつける。

JR線で三ノ宮から尼崎まで行き、福知山線に乗り換え、相野へ行く。そこからはバスだ。バス便は一日2便しかない。例によって、とても不便だ。バス停で話したおじさんは高砂から来られたらしい。

バスで40分ほど揺られて、山門前に着く(1枚目の写真)。境内はヤマザクラが終わりかけで、シャクナゲやハナズオウなどが色鮮やかに咲いていた。

薬師堂は撮影可となっており、薬師如来ほか十二神将が祀られていた。十二神将の作者は、あのせんとくんを彫像した彫刻家の藪内佐斗司(やぶうちさとし)である。せんとくんと似ている。十二神将は干支をもとに造形されている。2枚目の写真は子(ね)。

次の寺は花山院(3枚目の写真)。ここは三十三所の番外であるが、三十三所めぐりをはじめられた花山院の菩提寺である。

花山院といえば、「大鏡」で騙されて出家させられた天皇である。騙されるというところはあったものの、信仰には厚かったらしい。歴代のなかでも、三十三所の創始者として名を残した。

福知山線を三田まで戻り、そこからはタクシー利用だ。ここもバスが一日2本くらいしかなく、待っていると日が暮れてしまう。雨のせいか、参拝者も2,3人である。途中、左手に有馬富士が美しい山容を見せていた。

3つめの寺は中山寺(4枚目の写真)。福知山線をさらに戻って、ずばり中山寺駅。こちらは歩いて行ける距離である。境内に入ると、多数の人だかり。

なにかというと、西国三十三所草創1300年記念・結願法要が執り行われていた。どうやら、花山院が観音霊場の三十三所をめぐってから1300年の節目の年にあたるようだ。

ところで、前日、鵯越から乗車した神戸電鉄有馬線の車中で、ある女性と話すことができた。

神戸市街は、福岡とちがって坂が多く、かつ急坂で、市街を歩いてきたわれわれはヘロヘロな状態であった。そんな様子を見て声をかけてこられたのだと思う。

その女性はポスティングの仕事をしているという。週6日毎日歩いて、1日3~4万歩にもなるという。雨の日も雪の日も。赤銅色に日焼けした顔が仕事の厳しさを物語る。

そんなポスティングの仕事は、われわれには到底つとまらぬ厳しくつらい仕事に思える。しかし、同人は幸せな毎日であると、明るい笑顔で語った。

そう、仕事がつらいかどうかは、心の持ちよう次第なのだ。

山で修行し、寺で祈願をするわれわれだが、市井にまぎれた菩薩様に悟りを授けられることもある。

2023年4月27日木曜日

六甲山全山縦走(1)と源氏物語、平家物語、笈の小文

 




 この間、顧問会社の社員旅行に招待されて四国・松山、登山グループ怪鳥会の春登山で六甲山全山縦走、薬害肝炎原告団総会で岡山・倉敷に行った。

どれから書いてもよいけれども、写真の利用しやすさから、六甲山全山縦走についてまず書こう。

怪鳥会では、これまで春登山として、山口県の寂地山・十種が峰、熊本県の仰烏帽子・岩宇土山、大分県の由布岳、宮崎県の大崩山などに登ってきた。

ことしは目先をかえて神戸まで遠征し、六甲山を全山縦走することにした。西の須磨から東の宝塚まで、全部で44.6km、コースタイムで14~15時間のコースである。

わが会の実力に照らし、これを3日間にわけて縦走することにした。山上や有馬温泉での宿泊もありえた。が、交通の便が発達していることもあり、三ノ宮あたりのビジネスホテルに2泊した。夜は中華街や神戸牛で英気を養おうというグルメプランでもある。

初日は、朝一番の新幹線で新神戸まで。そこから地下鉄で板宿まで。そこから山陽電鉄で須磨浦公園まで。駅を降りると、すぐに旗振山への登山道である。

須磨といえば、ふるくは在原行平が流された場所。中納言行平は、業平の兄で百人一首にも歌をとられている。

 立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かばいま帰り来む

この故事に着想をえて、紫式部も源氏物語の須磨の段を書いたとか。光源氏もここで謹慎・蟄居した。そして西に転進して明石の地で、再び上げ潮に乗ることになる。

行平の故事はお能の『松風』にもなっている。松風と村雨の姉妹の海女は行平においてけぼりをくうのであるが、それは先の歌のイメージによるものである。

さらに平家物語でも悲劇の舞台となった。須磨の隣は一ノ谷。源平の激戦地だ。戦に敗れた平家の悲劇が伝わる。いまも須磨寺には、敦盛と熊谷直実の像がある。

これら故事は江戸時代の松尾芭蕉も感動させずにはおかなかった。「笈の小文」のラストで、芭蕉は須磨・明石を訪ねている。旗振山の峰続きに鉄拐山がある。芭蕉は平家物語に習って少年を先導にたて、ヒーヒーいいながら登っている。

昭和になってからは新田次郎の『孤高の人』の主人公、加藤文太郎だ。加藤はわれわれと違い、単独行の人である。和田の造船所ちかくの寮を出発し、一日で全山縦走し、その日のうちに寮に帰っていたという。驚くべき脚力だ。

こうした幾重にも積み重なる故事は、われわれが六甲山全山縦走をめざした動機のひとつである。

旗振山からは、西に、明石海峡、明石海峡大橋、淡路島をのぞむことができた。ぼやけているのは、腕のせいではなく曇天のせいだ(1枚目の写真)。

春の山行の楽しいところは、花の時期だということだ。六甲山も花の時期だった。道中、ミツバツツジやアセビが咲き乱れていた(2枚目の写真)。

この日のクライマックスは馬の背という難所。宝満山程度の標高ながら、北アルプスの雰囲気を楽しむことができた(3枚目の写真)。

六甲山はなだらかなようだが、小ピークが連続していて、たいへん。六甲というも、もっとたくさんある。登山道もつづら折りではなく、直登になっていたりして、しんどい。

旗振山のつぎは高倉山、高倉天皇の高倉だろうか?その次は栂尾山、そして横尾山とつづく。

難所は意外なところにあった。コースはときおり住宅街を突っ切ることになる。横尾山を下りて住宅街をつっきっていたら、道をみうしない迷ってしまった。

精神的ダメージを負ったわれわれは、次の高取山まででこの日の登山をあきらめた。高取山からは、東に、神戸市街をのぞむことができた(4枚目の写真)。

そこから降りて、鵯越駅から電車に乗った。鵯越(ひよどりごえ)は、鵯越の逆落としで有名なところだ。詳しくは平家物語をご覧あれ。

                                    (つづく)

2023年4月26日水曜日

賃借人から騒音被害を訴えられた件(和解解決)

 
 賃借人から騒音被害を訴えられた裁判が和解で解決した。

これまで被害者側から依頼を受け、4件ほど解決した経験がある。こんかいは、家主側、つまり「加害者側」から依頼を受けた初のケースである。

騒音被害訴訟として有名なのは、空港や基地、それに新幹線騒音訴訟だろう。自身が経験したのは、工場騒音や鉄道騒音であった。今回は生活騒音である。

場所は賃貸アパート。「被害者」はその住人の一人。騒音被害により、精神を病んだとして損害賠償を請求された。

当方は「加害者側」といっても、直接の加害者ではない。直接の加害者とされるのは他の住人たち。隣の住人が夜間に騒いでうるさい。

家主は賃貸人としてそれを止めさせる義務がある。それを怠っていたのだから、管理懈怠の責任があるという。

騒音被害については、行政法規ではあるが、騒音規制法や自治体の条例が重要である。

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/soushinsyu-top.html

地域、時間帯等により、許容される騒音の大きさ(単位デシベル)が決められている。行政や業者に依頼したり、騒音測定装置を借りてきて自分で測定したりする。本件ではアプリで測定したという。

本来は、測定の仕方、つまり測定する距離などが決められている。本件では、隣人が騒いだことが何度かあり、そのうち1日だけ測定し、何度か規制値を超えているという。

一般に、騒音被害といっても、そのような点の被害では弱い。一定時間継続した被害である必要がある。本件では精神を患ったとされるが、騒音との関係は微妙だ。

地域も問題である。当該物件はJRの線路横にある。賃料も低額である。隣人の騒音以上に鉄道騒音のほうが深刻なはずである。賃料が低額だと隣人被害に悩まされる可能性が高いとの一般論はネット上でも議論されていた。

そしてなぜか、家主だけが被告とされた。隣人たちは訴えの対象となっていない。なぜだろう。最後まで分からなかった。家主にも責任がないとはいえないが、副次的なものだろう。

あとは当方が対応を怠ったとの点であるが、苦情申入れの都度、加害者側の住民に注意を発し、そのことを被害者に報告していた。これらはメールでなされており、すべて立証することができた。

以上のような次第で、家主は1円も支払わないで本件を解決することができた。めでたしめでたし。(自身も騒音被害には弱いので、被害者には同情を禁じ得ないが、ここは家主から依頼を受けた弁護士の立場で。)

2023年4月5日水曜日

トランプ前大統領34の罪で起訴、罪状認否で無罪を主張

 


 今朝の出がけのNHKのニュース。トランプ前大統領が34の罪で起訴され、罪状認否で無罪を主張しているとのこと。

 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230405/k10014028341000.html

この件は、本ブログ3月31日の投稿「トランプ前大統領を起訴 不倫口止め料を巡る疑惑」でも書いた。その際、不倫口止め料を巡る疑惑なるものがなんとことか分からない、日本の刑法でいう証拠隠滅罪もしくは偽証教唆罪のことだろうかと書いた。

 http://blog.chikushi-lo.jp/2023/03/blog-post_31.html

しかし違うようだ。顧問弁護士が支払った口止め料をトランプ氏の会社が弁護士側に返済した際、「弁護士費用」として処理したことが業務記録の改ざんにあたる可能性があるなどと報じている。

これもよく分からない。虚偽文書作成の問題だろうか。少なくとも日本では私文書について虚偽文書作成は犯罪とされていない。会社の文書なので、会社法の刑事罰違反なのだろうか。

経費性のないものを経費として処理したのであれば、脱税の可能性がある。税法違反といってもバカにできない。むかしケビン・コスナー主演で「アンタッチャブル」という映画があった(その前にはドラマも)。実話にもとづき、財務省捜査官がギャングのボスであるアル・カポネを逮捕する姿を描いたものだ。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%96%E3%83%AB_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

本命は密造酒摘発だったが、うまくいかない。そのため搦め手から攻め、脱税容疑で起訴にもちこむのである。本件もひょっとしてそうだろうか。

しかし起訴された34もの罪のなかで、不倫口止め料を支払ったとか、それを「弁護士費用」として処理したことが本件の核心なのだろうか。

罪状認否後、捜査を指揮している検察官はこう述べたとも報じられている。「2016年の大統領選挙に関連する犯罪を隠すため改ざんを行ったということが証拠によって明らかになるだろう」。

ますます意味が分からない。不倫口止め料を巡る疑惑→顧問弁護士が支払った口止め料をトランプ氏の会社が弁護士側に返済した際、「弁護士費用」として処理したことが業務記録の改ざんにあたる可能性がある→2016年の大統領選挙に関連する犯罪を隠すため改ざんを行ったということが証拠によって明らかになる・・・。

何を言っているのか、さっぱり分からない。日本の法廷で、検察官がこのような冒頭陳述を行えば、裁判官から間違いなく叱られるだろう。

問題は当該捜査検事にあるのではないだろう。日本のマスコミの不勉強にあると思われる。米国マスコミが流したニュースを何の裏付けもとらず、何の勉強もしないで、そのまま横流しにしているだけだから、訳がわからないのではなかろうか。

34もの罪で起訴されていることが関係しているのだろうか。いろんな事件の断片を関連を明らかにしないまま報道しているので、訳がわからない可能性もある。

前大統領がポルノ女優と不倫したとか、口止め料を支払ったなどという話は週刊誌ネタとしてはセンセーショナルで面白いかもしれない。しかしNHKが朝から報道するのであれば、それがいかなる罪を構成するのかぐらい勉強して報道してほしいものだ。

2023年4月4日火曜日

雉も鳴かずば撮られまい

 

 大宰府政庁跡あたりを歩いていたら、桜もそろそろ終わりで、桜吹雪が散り敷いていた。すると、ギャギャッという動物園で聞くような鳴き声が。

一瞬、猿かなにかと思ったが、よく考えてキジだと思い当たった。このあたりでキジにであうのは3回目である。出会わないけれども、鳴き声だけ聞こえたことも2度ある。

鳴き声のしたほうへ接近していくと、左手方面から右手方面へキジくんが歩いている。かれもまたお散歩中のようである。

これまでは近づくと逃げてしまっていた。今回は3度目のせいか、ちかくまで寄ってもあまり逃げようとはしなかった。おかげで、かなり近くで写真を撮ることができた。

よく見ると、すごく派手だ。顔面は真っ赤。お面をかぶっているよう。歌舞伎役者も顔負け。デコルテには紫とエメラルドグリーンのチョーカー。胸のあたりはビロードような緑。背中は緑と茶でリズミカルなうろこ模様。そして尻尾が水平にピントのびて美しい。

あいにく吉備団子を持参していなかった。30分もあれば梅が枝餅を買ってこれそうだが、間に合いそうもない。残念ながら、鬼退治の家来にしそこねた。

雉も鳴かずば撃たれまい。あまりよい意味のことわざではない。たとえば、悪代官と越後屋が謀議をしている・・。

 越後屋:お代官さま、最近、神田町の佐平治のやつがわれわれのことをしきりと嗅ぎ回っていますぜ。

 悪代官:心配するな。始末するよう、配下の者にすでに指示しておる。

 越後屋:さすがお代官さま、手回しが早い。それにしても佐平治のやつ、雉も鳴かずば撃たれまいに。

みたいな。わがキジくんも鳴かなければ、写真に撮られることもなかったろう。つまり、キジも鳴かずば撮られまい。

ところで、キジはケーンケーンと鳴くといわれる。しかし、そうは聞こえない。さきに書いたようにギャギャッと聞こえる。動物の鳴き声というか金属音ぽいというか。

どちらでもよいかもしれないが、芭蕉の句があるので、そうもいかない。『笈の小文』に、つぎの句がある。

 ちゝはゝのしきりにこひし雉の声

笈の小文の旅中、杜国とともに高野山を訪ねたときの句。奥の院には戦国武将の墓がたくさんある。松尾家は武家でもはしくれのほうだったらしいが、その墓もあったらしい。

これには本歌がある。

 山鳥のほろほろと鳴く声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ

行基菩薩の詠という。ほろほろでないことは明らかだけれども、ケーンケーンなのか、ギャギャッなのか。句の印象はだいぶ違う。

後者の「鋭く哀切な響き」に芭蕉の父母への愛を感じるべきなのであろう。もちろん雉、雉鳴くは春の季語である。

2023年4月3日月曜日

家庭裁判所の電話保留音楽に脱力させられる

 

 T弁護士はいま、音楽過敏症である。事務所にながれるBGMを聴きながら、「この曲はドリカムの○○や。」などと言っている。

ある日、家庭裁判所の電話の保留音に脱力すると言いだした。たしかに。その点は同感である。♪プァファファファーファファ・・という保留音である。壊れた金管楽器のような音がしている。

ぼくも前からなんじゃこれはと思っていた。裁判所の保留音としては、もうすこし威厳のあるものがよろしかろうと思っていた。

ひっとすると意図的に脱力をねらっているのかもしれない。裁判所に苦情を持ち込む人は少なくなかろう。そうすると、保留音としては覚せい系より脱力系のほうが窓口業務が楽になる。

何の曲だろうと検索してみた。検索ワードは「家庭裁判所×保留×音楽」あたりか。

この問題にはやはり何人かの弁護士が感心をもっていたようである。①裁判所の電話保留音、②裁判所は演歌がお好き、たぶん。③電話の保留音などの表題がヒットした。いずれも法律事務所のブログのようだ。

①は神戸の弁護士。音楽はベートーベンのピアノ・ソナタ「悲愴」第3楽章だという。へ~神戸ではそうなのか。しかし、福岡のは違うだろう。

②は大阪の弁護士。保留音は演歌であるという。しかし、事務員さんはベートーベンと主張して譲らないらしい。

③もまた大阪の弁護士。関西の弁護士はみな音楽過敏症なのだろうか。こちらの話題は裁判所の保留音ではなく、福岡市役所のそれ。以前はチャゲ・アスのアスカの曲だったらしいが、彼が不祥事を起こしたあとはカーペンターズの曲に変更されたという。

ぼくの調査への情熱はここで尽きた。山積みの仕事へと戻っていった。しかし、T弁護士の探究心はそれぐらいのことでは満足しなかったようだ。

翌日、T弁護士があの曲は、ベートーベンの悲愴だという。そんなはずは・・と思いつつ、冷静に考えてみると確かにそうだ。なぜ?きっと、最高裁のお偉方のどなたかの意見なのだろう。

しかし、楽聖の偉大な音楽、しかも「悲愴」と名付けられている曲をあのように脱力系にアレンジしてよいものだろうか。

T弁護士から、うちの保留音は何か知ってますか。追い打ちがかかる。し、知らぬ。誇らしげな笑いを浮かべながらT弁護士が言うことには、カーペンターズの「青春の輝き」らしい。たしかに、そうだ。

調べてみると、76年のリリース。高1のときだ。そういえば、ラジオの深夜番組でよく聴いた。46年の時をへて、いまよみがえる名曲。数ある名曲のなかで、なぜ「青春の輝き」なのか。これにもきっとドラマがあるのだろう。