2012年12月18日火曜日
できれば,幸せになりたいじゃないですか
奥田英朗の『噂の女』
伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』。
どちらも
楽しく読みました。
どちらも短編集のような
中編のような。
雑誌に発表してきた短編をまとめたら
中編になったような。
赤レンジャー,黄レンジャー,青レンジャー…
メンバーがそろったら,戦隊になったような。
合体ロボになったような。
そんなつくり。
もちろん,登場人物をおなじにしたり
伏線をはったりして,つないではある。
でも,ひとつひとつのコマが
独立して楽しめるようになっている。
もともと雑誌に掲載されているので
当然なのであるが。
こんな作品にしあげるばあい
最初から全体の構想があるのかないのか。
気になる
ところである。
弁護士の書面のつくり方も
2派に分かれている。
稲村のばあい,全体の構想を頭のなかで練り
それをざっと書いていく感じである。
ボクのばあい,材料を書いていくなかで編集しながら
全体の構想が立ち上がってくる感じだ。
この違いは頭のつくりにもよるが
ワープロ世代か否かも関係していると思う。
稲村の修行時代は
和文タイプのころだ。
一度タイプを打って,気にいらないところを
書きなおすなどということはできない。
最初から
完成をめざさなければならない。
ボクが弁護士になったのは
1986年,昭和61年。
単漢変換(漢字を一個づつ変換・確定する方法)
ながら,ワープロが発売されたころだ。
ご存知のとおり
ワープロは訂正がいつでも可能だ。
最初のころは,ワープロも
清書する器械だった。
ボクが秘書に訂正を依頼すると
稲村から叱られたものだ。
かれの頭では,ワープロも
和文タイプとおなじなのであった。
ワープロで文章を作成するばあい
頭のなかで完成させておく必要はなくなった。
思いついた材料を
とりあえず打ちこんでいく。
材料を関連する論点ごとに
まとめていく。
まとまりのブロックについて
論理的に前後関係をつけていく。
すると最後には,ふしぎふしぎ
ちゃんと論旨の一貫した文章ができあがる。
これはいわば
ワープロ式KJ法である。
KJ法は,川喜田(K)二郎(J)さんが
データをまとめるために考案した手法。
データをカードに記入し,グループごとにまとめて
論文等にまとめていく方法だ。
いちいちカードをつくるわけではないが
入力したデータをまとめていく方法がワープロ式だ。
ボクらのばあい,最初からワープロに甘えてきたので
これ以外の文章作成は難しい。
というわけで
合体ロボット小説を書く方法が気になる。
先生がた,どんちなんです?
と,問いたい。
ともあれ,奥田さんはいかにも奥田さんぽい
伊坂さんはいかにも伊坂さんぽい。
奥田さんはリアルなようでいて
最後は小説っぽい。
伊坂さんは小説っぽく書いていきながら
ちゃんと人間が描かれている。
奥田さんは,声高ではないが
人間っていいという読後感が残る。
伊坂さんは,行間から声高に
人間っていい!と聞こえてくる感じだ。
「俺も楽観的には考えていません。
…
だって,未来のことはその時にならないと
分からないんだし,人生は一度きりですからね。
できれば,幸せになりたいじゃないですか」
(『残り全部バケーション』「タキオン作戦」の岡田)
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