2012年12月7日金曜日

物語のつながりとかさなり





三浦さんの『神去なあなあ夜話』は
村の創世神話からはじまり

これまでそこに生きてきた人たちの息づかいが
めんめんとつながっている物語。

それら神話や物語によると
神去山の神はオオヤマツミ。

そのブ○でないほうの娘が
木の花咲くや姫。

木の花咲くや姫は
天孫ニニギの妻。

村の人々はそれら神々を
いまもなお畏れ敬っているのだ。


木の花さくや姫ときいて
おや,とおもう?

さいきん出てきた。
どこだったっけ?

そう,芭蕉が『おくのほそ道』で
室の八島明神を訪ねた段。


 同行の曽良いはく,室の八島の神は
 木の花咲くや姫の神と申して,富士一体なり。

 無戸の室に入って焼きたまふ,誓いのなかに
 火々出見(ホオリ)の尊生まれたまひし。

 これにより
 室の八島と申す。


木の花咲くや姫は
富士山の神さま(浅間神)とされる。

室の八島明神の神さまは
やはりこの姫だというのだ。


芭蕉らが江戸を出るとき
富士の峰がかすかに見えていた。

室の八島(栃木県)で
曽良の解説を聞いた芭蕉の脳裏には

富士のイメージのつながり
があったろう。


コノハナサクヤ姫はニニギと結ばれて
たった一夜で懐妊してしまった。

ために,ニニギに疑いをかけられ
これをはらす必要に迫られた。

そこで出口のない(無戸の)部屋に入り
火をかけた。

言っていることが嘘なら焼け死ぬし
ほんとうであればそうならない。

むかしは近代的な裁判制度がないので
こんな形で真否を占ったわけです。

結果,姫はみごとに生還
証言の真実性が証明されたのだった。

すなわち
懐妊した子はニニギの子。

火のなかから生まれたのは3子で
うち2人は有名な海幸・山幸だ。

この神話上のエピソードから
室の八島(竈のこと)と呼ばれているわけ。


と,曽良が芭蕉に解説した。
さらに

 また煙をよみならはしはべるも
 このいはれなり。

と,うんちくを語る。
これは藤原実方の歌を指す。

  いかでかは 思ひありとも 知らすべき
              室の八島の 煙ならでは

コノハナサクヤ姫が室に火をかけた
エピソードを踏まえている。


また,このしろという魚を禁ず
というしきたりもあるという。

このしろを焼くと人体を焼くような悪臭がすることから
姫のエピソードを踏まえ,食を禁じられているのだとか。

江戸時代のことゆえ
「この城を喰う」というダジャレと関連も指摘されている。


芭蕉は江戸出立時の富士のイメージを再起しつつ
神話からこんにちまでの物語のつらなりを記す。

そのうえで
縁起の旨,世に伝ふこともはべりし,と結ぶ。


神去山の神さまはオオヤマツミで
姫の父だから,さらにえらい話だ。

三浦さんも,オオヤマツミから現代にいたる
神去村の物語のつらなりを語っている。

そうとすれば,ふたつの作品は
共通の構造をもっているわけだ(強引か?)。


三浦さんの父は三重県出身で
立正大学教授の三浦祐之氏。

『口語訳 古事記』(2002年)
がベストセラーになっている。

神去村の物語に父娘の物語の層も
隠れているのでせう。

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