2013年5月10日金曜日
『黄金の騎士団』
(オオカメノキの花
花言葉 黙っていても通じる私の心)
知りあいのなかには
先に結末を読むという人が何人かいる。
サスペンスだろうが一般だろうが
おかまいなしに結末を読む。
そうしないと
落ち着いて本など読めないというのだ。
これは作者泣かせな
読者たちであろう。
小説にかぎらず,芝居やなんかもいかに視聴者を
ハラハラドキドキさせるかが勝負だから。
最後にカタルシスが訪れることにより
あ~面白かったとなるのであろう。
それが
だいなしである。
しかし,面白かった作品を
2度読むということはある。
この場合は,結末が知れているわけだけれど
やはり面白い。
結末が知れていることは
必ずしも作品を楽しむ障害にはならないわけだ。
そういえば昔の映画は
先に結末を知って,そこに至る筋を観ることがあった。
昔の映画館は,いまのように入れ替え制ではなく
途中入場もできるし,何度でも同じ作品を観てもよかったから。
(昔の映画館はかくて,細切れの時間でも
映画を楽しむことができた。いまはそうはいかない。)
たしかに
それでも面白かった。
こういう観方の面白さは
伏線がよくわかることだ。
最初から順に観ていくと
結構,伏線を見逃しているものだから。
さて,話を戻して
結末を先に読みたい人泣かせな小説である。
井上ひさしさんの
『黄金の騎士団』(講談社)。
未完。
井上ひさしさんの遺作のひとつ。
結末を先に読もうにも
結末がない。
だからつまらないかというと
逆で,だから面白い。
結末は自分であれこれ
想像するしかない。
それか,漱石の『明暗』のように
われこそはと思う方,続きを書いてください。
なるほど,そうだよね
となるのか
え~っ,それちょっとちがうのでは?
となるのか
それもまた
面白いでしょう。
天国の井上さんも
よろこばれると思います。
2012年12月18日火曜日
できれば,幸せになりたいじゃないですか
奥田英朗の『噂の女』
伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』。
どちらも
楽しく読みました。
どちらも短編集のような
中編のような。
雑誌に発表してきた短編をまとめたら
中編になったような。
赤レンジャー,黄レンジャー,青レンジャー…
メンバーがそろったら,戦隊になったような。
合体ロボになったような。
そんなつくり。
もちろん,登場人物をおなじにしたり
伏線をはったりして,つないではある。
でも,ひとつひとつのコマが
独立して楽しめるようになっている。
もともと雑誌に掲載されているので
当然なのであるが。
こんな作品にしあげるばあい
最初から全体の構想があるのかないのか。
気になる
ところである。
弁護士の書面のつくり方も
2派に分かれている。
稲村のばあい,全体の構想を頭のなかで練り
それをざっと書いていく感じである。
ボクのばあい,材料を書いていくなかで編集しながら
全体の構想が立ち上がってくる感じだ。
この違いは頭のつくりにもよるが
ワープロ世代か否かも関係していると思う。
稲村の修行時代は
和文タイプのころだ。
一度タイプを打って,気にいらないところを
書きなおすなどということはできない。
最初から
完成をめざさなければならない。
ボクが弁護士になったのは
1986年,昭和61年。
単漢変換(漢字を一個づつ変換・確定する方法)
ながら,ワープロが発売されたころだ。
ご存知のとおり
ワープロは訂正がいつでも可能だ。
最初のころは,ワープロも
清書する器械だった。
ボクが秘書に訂正を依頼すると
稲村から叱られたものだ。
かれの頭では,ワープロも
和文タイプとおなじなのであった。
ワープロで文章を作成するばあい
頭のなかで完成させておく必要はなくなった。
思いついた材料を
とりあえず打ちこんでいく。
材料を関連する論点ごとに
まとめていく。
まとまりのブロックについて
論理的に前後関係をつけていく。
すると最後には,ふしぎふしぎ
ちゃんと論旨の一貫した文章ができあがる。
これはいわば
ワープロ式KJ法である。
KJ法は,川喜田(K)二郎(J)さんが
データをまとめるために考案した手法。
データをカードに記入し,グループごとにまとめて
論文等にまとめていく方法だ。
いちいちカードをつくるわけではないが
入力したデータをまとめていく方法がワープロ式だ。
ボクらのばあい,最初からワープロに甘えてきたので
これ以外の文章作成は難しい。
というわけで
合体ロボット小説を書く方法が気になる。
先生がた,どんちなんです?
と,問いたい。
ともあれ,奥田さんはいかにも奥田さんぽい
伊坂さんはいかにも伊坂さんぽい。
奥田さんはリアルなようでいて
最後は小説っぽい。
伊坂さんは小説っぽく書いていきながら
ちゃんと人間が描かれている。
奥田さんは,声高ではないが
人間っていいという読後感が残る。
伊坂さんは,行間から声高に
人間っていい!と聞こえてくる感じだ。
「俺も楽観的には考えていません。
…
だって,未来のことはその時にならないと
分からないんだし,人生は一度きりですからね。
できれば,幸せになりたいじゃないですか」
(『残り全部バケーション』「タキオン作戦」の岡田)
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