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2013年2月27日水曜日

沈黙の町で





『沈黙の町で』(朝日新聞出版)
奥田英朗さんの新作。

『噂の女』が出てから
さほど経っていない。

よくこんなに書けるものだ。
筆力がすごい。

いつもながら,個々人ではなく
地域社会そのものが書かれている。


朝日新聞に連載していたものを
単行本にしたもの。

新聞小説だけあって
冒頭からぐいぐいひきこまれる。


高校生男子の死体が
校内で発見された。

容疑者として
4人の遊び仲間が浮上する。

警察,検察の捜査がすすむなか
真相は?

物語はなかほどから
意外な展開をみせはじめる。


高校生の殺人(傷害致死を含む。)事件の付添人を
3度ほどつとめたことがある。

ひとたび死体が発見されると
住民全体が不安と怒りにとらわれてしまう。

地域社会には
非常な重圧がかかる。

この重圧が地域社会をいつもと違う雰囲気でつつみ
人々の判断を狂わせがちだ。

むかし西部劇で共同体の敵にリンチをおこない
裁判を経ないで死刑にしたりする場面があった。

たとえは適切でないかもしれないが
あんな感じだ。

だからいつまでも犯人がつかまらないと
怒りの矛先が捜査機関に向くことになる。

捜査機関としてはとにかく犯人を検挙して
有罪にもちこむ必要がでてくる。

これがまたえん罪を
うむ温床になってしまう。

もうそれは個々の人の冷静な判断を
蹂躙するほど強烈なものだ。


奥田さんの著作は
いつもほんとうにリアリティを感じる。

本作も人々の動きが
いずれも説得的だ。

しかし社会を突き動かす異常なエネルギーについては
かなり押さえた筆致になっている。

ノンフィクションなえん罪小説ではなく
文芸的な作品にするために必要な修正だったのだろう。

2012年12月18日火曜日

できれば,幸せになりたいじゃないですか





奥田英朗の『噂の女』
伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』。

どちらも
楽しく読みました。


どちらも短編集のような
中編のような。

雑誌に発表してきた短編をまとめたら
中編になったような。

赤レンジャー,黄レンジャー,青レンジャー…
メンバーがそろったら,戦隊になったような。

合体ロボになったような。
そんなつくり。

もちろん,登場人物をおなじにしたり
伏線をはったりして,つないではある。

でも,ひとつひとつのコマが
独立して楽しめるようになっている。

もともと雑誌に掲載されているので
当然なのであるが。

こんな作品にしあげるばあい
最初から全体の構想があるのかないのか。

気になる
ところである。


弁護士の書面のつくり方も
2派に分かれている。

稲村のばあい,全体の構想を頭のなかで練り
それをざっと書いていく感じである。

ボクのばあい,材料を書いていくなかで編集しながら
全体の構想が立ち上がってくる感じだ。


この違いは頭のつくりにもよるが
ワープロ世代か否かも関係していると思う。

稲村の修行時代は
和文タイプのころだ。

一度タイプを打って,気にいらないところを
書きなおすなどということはできない。

最初から
完成をめざさなければならない。

ボクが弁護士になったのは
1986年,昭和61年。

単漢変換(漢字を一個づつ変換・確定する方法)
ながら,ワープロが発売されたころだ。

ご存知のとおり
ワープロは訂正がいつでも可能だ。

最初のころは,ワープロも
清書する器械だった。

ボクが秘書に訂正を依頼すると
稲村から叱られたものだ。

かれの頭では,ワープロも
和文タイプとおなじなのであった。


ワープロで文章を作成するばあい
頭のなかで完成させておく必要はなくなった。

思いついた材料を
とりあえず打ちこんでいく。

材料を関連する論点ごとに
まとめていく。

まとまりのブロックについて
論理的に前後関係をつけていく。

すると最後には,ふしぎふしぎ
ちゃんと論旨の一貫した文章ができあがる。

これはいわば
ワープロ式KJ法である。


KJ法は,川喜田(K)二郎(J)さんが
データをまとめるために考案した手法。

データをカードに記入し,グループごとにまとめて
論文等にまとめていく方法だ。

いちいちカードをつくるわけではないが
入力したデータをまとめていく方法がワープロ式だ。

ボクらのばあい,最初からワープロに甘えてきたので
これ以外の文章作成は難しい。


というわけで
合体ロボット小説を書く方法が気になる。

先生がた,どんちなんです?
と,問いたい。


ともあれ,奥田さんはいかにも奥田さんぽい
伊坂さんはいかにも伊坂さんぽい。

奥田さんはリアルなようでいて
最後は小説っぽい。

伊坂さんは小説っぽく書いていきながら
ちゃんと人間が描かれている。

奥田さんは,声高ではないが
人間っていいという読後感が残る。

伊坂さんは,行間から声高に
人間っていい!と聞こえてくる感じだ。


「俺も楽観的には考えていません。


だって,未来のことはその時にならないと
分からないんだし,人生は一度きりですからね。

できれば,幸せになりたいじゃないですか」
(『残り全部バケーション』「タキオン作戦」の岡田)