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2013年2月27日水曜日

沈黙の町で





『沈黙の町で』(朝日新聞出版)
奥田英朗さんの新作。

『噂の女』が出てから
さほど経っていない。

よくこんなに書けるものだ。
筆力がすごい。

いつもながら,個々人ではなく
地域社会そのものが書かれている。


朝日新聞に連載していたものを
単行本にしたもの。

新聞小説だけあって
冒頭からぐいぐいひきこまれる。


高校生男子の死体が
校内で発見された。

容疑者として
4人の遊び仲間が浮上する。

警察,検察の捜査がすすむなか
真相は?

物語はなかほどから
意外な展開をみせはじめる。


高校生の殺人(傷害致死を含む。)事件の付添人を
3度ほどつとめたことがある。

ひとたび死体が発見されると
住民全体が不安と怒りにとらわれてしまう。

地域社会には
非常な重圧がかかる。

この重圧が地域社会をいつもと違う雰囲気でつつみ
人々の判断を狂わせがちだ。

むかし西部劇で共同体の敵にリンチをおこない
裁判を経ないで死刑にしたりする場面があった。

たとえは適切でないかもしれないが
あんな感じだ。

だからいつまでも犯人がつかまらないと
怒りの矛先が捜査機関に向くことになる。

捜査機関としてはとにかく犯人を検挙して
有罪にもちこむ必要がでてくる。

これがまたえん罪を
うむ温床になってしまう。

もうそれは個々の人の冷静な判断を
蹂躙するほど強烈なものだ。


奥田さんの著作は
いつもほんとうにリアリティを感じる。

本作も人々の動きが
いずれも説得的だ。

しかし社会を突き動かす異常なエネルギーについては
かなり押さえた筆致になっている。

ノンフィクションなえん罪小説ではなく
文芸的な作品にするために必要な修正だったのだろう。

2013年2月14日木曜日

最近の振り込め詐欺






30年弱ほど前
司法修習を受けた。

司法試験合格後
弁護士になるまでの2年間だ。

最初の4か月と最後の4か月は
東京・湯島にあった司法研修所での研修。

その間の16か月間は
現場で研修する実務修習。

民事裁判,刑事裁判,検察修習,弁護修習が
各4か月ずつ。

司法試験の合格者が500人の時代で
わりとゆったりした研修期間だった。


検察修習時代には
犯罪の手口の講習も受けた。

たとえば
スリ。

ふつうに財布をとったのでは
簡単にバレてしまう。

そこでどうするかだけれども
目くらましを使う。

ドンと肩をぶつけるだけでも
人間の注意をそちらにひきつけることができる。

フランスの地下鉄で財布をすられたが
あまりにあざやかでしばらく気づかなかった。


人間心理は
意外ともろい。

すこし揺さぶられるだけで
ふだんと違う対応をしてしまう。

脅したり,すかしたり
あなただけに儲け話をもちかけたり。

すると,ふだんは冷静なのに
急に視野がせばまり,まわりが見えなくなってしまう。


振り込め詐欺も
たくみに,人間心理の弱いところをついてくる。

子どもが事故にあった!
エッチなインターネットサイトをみた!

きょうかぎり,あなたかぎりの,儲け話!
などなど。


最近の振り込め詐欺は
手が込んでいる。

劇場型というものだ。
ま,ひと芝居うつ,というぐらいだから。

登場人物は複数だ。
わるい人間役とよい人間役が交互に電話をかけてくる。

わるい役のやつが脅したりすかしたりしたあと
よい役のやつが親身になって話を聴いたりする。

道具立てもとても複雑だ。
預金だとか株だとか,わかりやすい商品はつかわない。

外貨だとか新株引受権だとか
しろうとにはむずかしげな商品がつかわれる。

会社も複数で
A,B,C,D…。

Aは倒産して,BとCが合併して
Dがその業務を引き継いで…。


こう複雑になると
法律相談もやっかいだ。

全部詐欺ですよ!
と説明するも,信じてもらえない。

わるい役はそうだろうけれども
よい役の人がそんな人のはずはない,とか。

B,C,Dはそうかもしれないが
A社はたしかに存在していました,とか。

詐欺師より信じてもらえないとは
不徳の致すところだ。