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2013年4月2日火曜日

ガソリン生活






『ガソリン生活』(朝日新聞出版)
伊坂幸太郎さんの新作。

望月家の自家用車である緑のデミオが
いわゆる狂言回し。

「狂言回し」って
わかります?


修習生がいれば
ききたいところ。

でも3月いっぱいで
異動していっちゃったので訊けません。


先日も若い弁護士たちと
「どうきん」をめぐって一騒動。

そこに「にゅうきん」と勘違いするやからもいて
大騒動になりました。

「同衾」。
知っていますか?


さて,「狂言回し」は
物語の進行役のことです。

『シャーロック・ホームズ』でいえば
ワトソンくん。

『ビブリア古書堂の事件手帖』でいえば
五浦大輔くん(テレビではAKIRAさん)。

ドラえもんでいえば
のびたくん,みたいな。

主人公が自作自演してもいいようなもんですが
鼻についたり,読者がしんどかったりします。

そこで主人公とは別に
物語の進行役がいたほうが楽です。

講演会や集会などでも
講演者とは別に司会・進行役がいますよね。


お笑いの世界でも
ピンとコンビがあります。

ピンは全部じぶんでやらなければならないので
ややしんどい。

この点,コンビのばあいは
片方が進行役をやればいいので,みていて安心。

ふつうはボケのほうがメインの芸で
つっこみ役のほうが進行役ですね。


さて『ガソリン生活』は
自動車が狂言回しというところが進機軸。

これがなかなか
いいですね。

自動車どうしの会話で
主人公たちが知らない事実を知ったり。

主人公たちが車外で会話したために
重要な事実を自動車=読者が知り得なかったり。

われわれ読者を最後まで飽きさせないで
ぐいぐいひっぱっていくための狂言回しとして最適です。

自動車どうしの会話もおとぼけがきいていて
楽しい。

ご一読を
どうぞ。


写真は
ハナズオウ(花蘇芳)。

柳川は
旧戸島家住宅にて。

花言葉は
高貴,質素,豊かな生涯。

ユダがこの木で首を吊ったという伝説から
ユダの木とも呼ばれ,それに関係する花言葉もあります。


2012年12月18日火曜日

できれば,幸せになりたいじゃないですか





奥田英朗の『噂の女』
伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』。

どちらも
楽しく読みました。


どちらも短編集のような
中編のような。

雑誌に発表してきた短編をまとめたら
中編になったような。

赤レンジャー,黄レンジャー,青レンジャー…
メンバーがそろったら,戦隊になったような。

合体ロボになったような。
そんなつくり。

もちろん,登場人物をおなじにしたり
伏線をはったりして,つないではある。

でも,ひとつひとつのコマが
独立して楽しめるようになっている。

もともと雑誌に掲載されているので
当然なのであるが。

こんな作品にしあげるばあい
最初から全体の構想があるのかないのか。

気になる
ところである。


弁護士の書面のつくり方も
2派に分かれている。

稲村のばあい,全体の構想を頭のなかで練り
それをざっと書いていく感じである。

ボクのばあい,材料を書いていくなかで編集しながら
全体の構想が立ち上がってくる感じだ。


この違いは頭のつくりにもよるが
ワープロ世代か否かも関係していると思う。

稲村の修行時代は
和文タイプのころだ。

一度タイプを打って,気にいらないところを
書きなおすなどということはできない。

最初から
完成をめざさなければならない。

ボクが弁護士になったのは
1986年,昭和61年。

単漢変換(漢字を一個づつ変換・確定する方法)
ながら,ワープロが発売されたころだ。

ご存知のとおり
ワープロは訂正がいつでも可能だ。

最初のころは,ワープロも
清書する器械だった。

ボクが秘書に訂正を依頼すると
稲村から叱られたものだ。

かれの頭では,ワープロも
和文タイプとおなじなのであった。


ワープロで文章を作成するばあい
頭のなかで完成させておく必要はなくなった。

思いついた材料を
とりあえず打ちこんでいく。

材料を関連する論点ごとに
まとめていく。

まとまりのブロックについて
論理的に前後関係をつけていく。

すると最後には,ふしぎふしぎ
ちゃんと論旨の一貫した文章ができあがる。

これはいわば
ワープロ式KJ法である。


KJ法は,川喜田(K)二郎(J)さんが
データをまとめるために考案した手法。

データをカードに記入し,グループごとにまとめて
論文等にまとめていく方法だ。

いちいちカードをつくるわけではないが
入力したデータをまとめていく方法がワープロ式だ。

ボクらのばあい,最初からワープロに甘えてきたので
これ以外の文章作成は難しい。


というわけで
合体ロボット小説を書く方法が気になる。

先生がた,どんちなんです?
と,問いたい。


ともあれ,奥田さんはいかにも奥田さんぽい
伊坂さんはいかにも伊坂さんぽい。

奥田さんはリアルなようでいて
最後は小説っぽい。

伊坂さんは小説っぽく書いていきながら
ちゃんと人間が描かれている。

奥田さんは,声高ではないが
人間っていいという読後感が残る。

伊坂さんは,行間から声高に
人間っていい!と聞こえてくる感じだ。


「俺も楽観的には考えていません。


だって,未来のことはその時にならないと
分からないんだし,人生は一度きりですからね。

できれば,幸せになりたいじゃないですか」
(『残り全部バケーション』「タキオン作戦」の岡田)

2012年12月6日木曜日

『神去なあなあ夜話』





きのうジュンク堂にいったら
驚いた。

奥田英朗,伊坂幸太郎,吉田修一,村上龍ら
各氏の新刊(単行本)が平積みにされていた。

いずれ劣らぬ
好きな作家ばかり。

そのまえにも三浦しをんの新作を買い
読み始めたばかりなのに。

うれしい悲鳴をあげつつ,とりあえず
奥田さんと伊坂さんの新刊を買ってきた。


本の世界にも
クリスマス商戦なるものがあるのだろうか。

映画や音楽ではあったが
本ではなかったような気がする。

ま,12月はだれしも財布のひもがゆるむし
プレゼント月間であることも関係しているのだろうか。

ボクとしては夏枯れ期間をおかないで
みなで話あって出版をならしてほしいと思う。

1月は三浦さん,2月は奥田さん,3月は伊坂さん
…という具合に。

そのほうが
年中楽しめる。


さて,三浦さんの新刊は
『神去なあなあ夜話』(徳間書店)。

題名からあきらかなとおり
『神去なあなあ日常』のつづき。

 
 
 平野勇気,18歳。
 
 高校を出たらフリーターになるつもりが

 
 三重県の山奥・神去村で
 
 なぜか林業をすることに。

 
 なれない林業に悪戦苦闘するうち,いつしか
 なあなあな生活スタイルになじんでいく…。

という話でしたが,期待にたがわず『夜話』でも
それがなあなあとつながっていくのでした。


ちがいといえば,『日常』に対する『夜話』だけあって
セクシー感(広い意味。誤解なく)が加味されていることだろうか。

縦糸に,学校の先生・直紀さんとの
かたつむりの歩みのような遅々とした恋の進展。

横糸に,神去村の創世神話,山の神,ご先祖さまたちの霊
など神秘的・非日常的な世界との交歓が描かれている。

前者は三浦ワールドではめずらしくないが
後者はあれ?

これまで
こんなこと書いてたっけ?


山の神は山にのぼればどこにでもおわすが
その名もオオヤマツミさん。

オオヤマツミというのは,大山の神
大いなる山の神という意味で,そのまんまである。

日本神話(古事記,日本書紀)にでてくる
由緒ただしき神さまだ。


オオヤマツミは
木の花咲くや姫(コノハナサクヤビメ)の父。

彼女は天孫降臨したニニギの妻だから
天孫の義父にあたることになる。

オオヤマツミはコノハナサクヤヒメだけでなく
磐長姫(イワナガヒメ)も妻に差し出した。

ところが,イワナガヒメがブ○だったことから
ニニギは受けとりを拒否。

そのため,天孫の寿命が
磐のようにではなく,花のように短くなったという。


イワナガヒメがブ○だったという神話
神去村では,いまもいきいきと生きている。

実際,これをめぐって
村人が騒動をひきおこす。

ブ○と伏せ字にしておかなければならない理由は
読めばわかります。

ご一読ください。
(つづく)

2010年10月21日木曜日

 マリアビートル



 伊坂幸太郎さんの最新作「マリアビートル」。
 「グラスホッパー」の姉妹編。

 昔の小説に出ていた人物に新たな小説で出逢うと
 旧知に会ったような気が。
 作品どうしがリンクしている、それだけでワクワクします(恩田陸さんとかも)。
 本歌(本家)はバルザックでしょうか?

 「マリアビートル」でも、「グラスホッパー」の登場人物たちに再会できます。
 虫つながり、虫仲間というところ。

 伊坂さんはあいかわらず毒があります。
 殺し屋多数に「どうして人を殺しちゃいけないんですか?」と問う中学生(王子)。

 「どうして人を殺しちゃいけないんですか?」
 中学生の問いに、大人はみなうまく答えられない。

 「そんなのあたりまえだ。」
 そう、私なら答えます。

 これまでに殺した側、殺された側の依頼を受ける機会がありました。
 どちらの側に関与するばあいでも、ほんとうにいやなものです。

 殺した側の国選事件(初めての殺人事件弁護)。
 ご遺族の許しがえられ、ご焼香させていただきました。
 筑後地方のある町までバスに揺られていきました。
 ご遺族はなにも言われませんでしたが、そのことが心に迫りました。

 殺した側の起訴前弁護。
 男女の三角関係がもつれた事件。
 事件の原因となった葛藤は解消されておらず揺さぶられました。

 殺した側の少年事件。
 少年の心の闇の深さ、理解しがたさに無力感。
 
 殺した側の弁護も気がおもいところ、殺された側の代理人はさらに気がおもい。
 それまでの表層的な人間関係が破られ、真の姿が立ち現れてしまいます。

 …

 さいしょ、マリアビートルの意味を知りませんでした。
 ビートルズの「レットイットビー」にあらわれるマリアさまのことか?
 そうおもいつつ読みすすみました。

 じっさい、真莉亜も登場。
 words of wisdomは話してくれませんが。
 
 この小説を読んで、マリアビートルとはテントウムシのことと知りました。
 ナナホシテントウこと七尾(Maria's Beatle)が困難に遭遇するたびに
 新幹線車内を右往左往するさまは
 テントウムシが植物のくきを行ったりきたりするようすにそっくり。
 
 テントウムシには、植物をずんずん登っていって行き止まると
 ぱっと羽をひろげて飛びたつ習性も。
 追いつめられ窮地に立たされた人間が
 ふだんは隠された力をはっきして光さす方へ飛躍する。

 「マリアビートル」は、そうした自由(光)へ飛翔するイメージを強く喚起させます。
 (登場人物たちの毒と影は、この光をきわだたせるための仕掛けでしょう。)

 困難な情況にあるかたがたが
 words of wisdomにめぐりあうこと
 あるいは、人間の隠された自己治癒力をはっきされること
 それらをとおして光さすほうへ歩んでいただきたい
 そう切に願います。