2010年12月26日日曜日

 わたし巡りの旅

 

 
 僕が渡し人であることから
 「ノルウェイの森」は、渡しをめぐる旅物語
 にもなっています。

 いわばヒーリング・パワースポットめぐりの旅
 いざ、ご招待。

 渡しは、境界、海峡、水際、水の上、水の中、流れの中
 時・季節、朝夕、赤・緑の色、明暗、光と闇、狂気、生死などにも
 境はあり、渡しがあります。

 誕生日、卒業、就職祝いなどの通過儀礼も
 通路のひとつです。

 舟、電車などの乗り物や、橋などの通路も渡しを行き来するうえで必要
 地図、旅、海賊、鳥、「かもめ」・猫、昆虫などのほか
 ぬかるみ、流れ、変化、腐るなども渡しの縁語でしょう。

 そうだとすると、飛行機のスチュワーデス、外交官、旅行代理店の女性
 などはみな渡し人であるワタナベの一族であるはずです。

 彼岸が異界のほか、深層心理や精神世界を含むことから
 本・書店、音楽・楽器、火・マッチ・煙草、酒、手紙、人間の体のほか
 私(わたし)自身も乗り物や通路になります。

 読みは黄泉に通じるとか。

 森は異界のメタファー
 木樵女である緑の木を切る技はこの意味の森をなくす行為でしょう。

 異界を行き来するとは、死と再生を繰り返すこと
 セックスもこの意味で、異界を行き来する行為です。

 「…するとね、体中がひやっと冷たくなったの。
 まるで氷水につけられたみたいに。…私このまま死んじゃうのかしら…

 …するとね、だんだん体にあたたかみが戻ってきたの。…」(11章)

 直子と縁の深いワインは死の縁語
 緑と縁の深い卵、春などは再生の縁語。

 ドイツは、ただハンブルグがあるところかもしれませんが
 ハツミさんが自死したときに長沢さんがドイツにいたことから
 やはり意味はあり、東西の境、あるいは森の縁語ということでしょうか?

 ハンブルクは、エルベ川の支流・アルスター川の河口にある港湾都市
 数多くの運河がながれており

 町の景観の特色のひとつが運河にかかる橋で
 アムステルダムとヴェネツィアをあわせたよりも多くの橋が。

 主人公がハンブルグで造船技術を学び、就職が決まっていたところ
 「魔の山」に上ることになったこととの関連は見のがせません。

 ボーイング747、ぶ厚い雨雲をくぐり抜けて降下、ハンブルグ空港
 整備工、BMW、自動車などは縁語。

 野井戸、ビリヤード台なども、落ち込む方法による渡し
 キズキは自動車のなかで自死しています。

 寮の僕の部屋が死体安置所のようであったこと
 突撃隊が地図づくりを志望していることは先に紹介しました。

 長沢さんが志望している外交官も外国との渡しにかかわる仕事
 彼とは対岸の彼女に想いをよせるギャツビー好きという共通点が。 

 僕が直子とはじめて歩き・緑の高校のあった四谷も
 緑の父が入院していたお茶の水も神田川を渡る橋があります。

 小林書店のある大塚はちょっと違いますが
 僕は水仙をもっていき「大塚駅の前の水辺でつんできたんだ」と言い
 水にまつわる贈り物をし、冗談を言っています。 

 京都の外れは古来、異界との境であるほか
 「阿美寮」のあたりに修験の霊山があることは前に書きました。

 父が死んだのち、緑は奈良と青森へ
 奈良については別の機会に述べました。青森についてはのちに。
  
 吉祥寺は古くから安養寺・光専寺・蓮乗寺・月窓寺という4軒の寺が集まる
 寺町であることによるものでしょうか。

 直子が死んだのち、僕は山陰の海岸、鳥取か兵庫の北海岸を西へ西へと
 旅します。

 これは、黄泉の国が島根県~鳥取県あたりにあるとされていることと
 関連しているのでしょうか。

 物語の最後に、レイコさんは旭川へ行きます
 なぜ、旭川に行ったのでしょうか?
 これは難問です。
 
 レイコさんは旭川について
 「作り損ねた落とし穴みたいなところ」と評しています。

 旭川の人たちはひどい侮辱だと憤慨しているでしょうが
 レイコさんが結局、落とし穴に落ちなくて済んだことを
 言っていることは間違いないでしょう。

 それにしてもなぜ旭川?

 第1に、旭ののぼる川=渡しということで
 文字が明日の希望を表現しているのかも。
 
 第2に、地形的なもの。
 旭川は、北海道のほぼ中央の上川盆地の中心部に位置し
 石狩川、忠別川、美瑛川、牛朱別川など大小130の河川が流れ
 740あまりの橋が架かっているそうです。

 この地形は、冒頭のハンブルグとよく似ています。

 第3は、村上さんが好きだから。

 「羊をめぐる冒険」でも
 「我々は旭川で列車を乗り継ぎ、北に向って塩狩峠を越えた。」
 とあります。

 第4は、旭川出身の三浦綾子さんとの関連。

 三浦さんは、「塩狩峠」や「氷点」を書いています。
 峠は山の上と下の境ですし、氷点は水と氷の境です。
 
 最後の難問
 死期の近い緑の父は僕に対し「切符・緑・頼む・上野駅」と言います。
 これって暗号みたいですが、どういう意味でしょう?
 
 可能性は3つ
 緑の福島行き、青森行きとレイコさんの青森経由・旭川行きです。
 
 緑は子どものころ家出をして福島の伯母のところへ2回行っていますが
 これが父の伝言と関連するとすれば、エレクトラ・コンプレックスの謎とき
 との関連でしょう。が、よくわかりません。

 父が死んだのち、緑は青森の下北半島、竜飛岬などを旅しています
 これは恐山という、日本最強の異界への渡しと関連しているでしょう。

 この旅ののち、緑は元カレをふって僕を選択することに
 この意味で、父の伝言ともっともマッチします。

 直子が死んだのち、レイコさんはあえて青函連絡船に乗って
 旭川に向かいます。

 「僕は飛行機で行った方が速いし楽ですよと勧めたのだが
 レイコさんは汽車で行くと主張した。

 『私、青函連絡船って好きなのよ。空なんか飛びたくないわよ』
 と彼女は行った。それで僕は彼女を上野駅まで送った。」

 これが父の伝言とどう関係するかは、長くなりそうなので
 別の機会に。

 以上、日本全国ヒーリング・パワースポット巡り
 すこしは癒されましたでしょうか?
 

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