2021年12月1日水曜日

ある損害賠償被請求事件


  いよいよ師走。マスコミは毎日、オミクロン株の小ネタの報道に忙しい。徒にこれら報道に振り回されず、われわれの人生を破壊されないよう行動するしかあるまい。

 きのうにひきつづき、ある損害賠償被請求事件。といっても、実態はやはり遺産分割事件。被相続人である祖母の遺産を使い込んだだろうと主張して、甥(祖母の長男の子)が叔母(祖母の次女)にたいし損害賠償を請求した事案である。

むかしはこのタイプの紛争はおおくはなかった。しかし、高齢化がすすみ、被相続人が認知症などで生前に財産管理能力を失う事例が増えた。そのため、財産管理能力を失った後の支出が違法な使い込みではないかとして争われるようになったのである。

わが事務所は地域事務所であるので、請求する側から依頼を受けることもあるし、請求される側から依頼を受けることもある。ケース・バイ・ケースであるが、まず一定期間の財産管理の事実を認めるかどうかが大きい。

裁判所の対応も当初、裁判官によって異なる印象であった。最近は、請求する側に厳しくなりつつあるように思う。それはそうだ。これは立証責任が請求する側にあるという原則の帰結である。またそうでないと、被相続人の老後のめんどうをみた人がバカを見ることになる。

本件でもそうだ。叔母が祖母のめんどうをみていた。生前、甥は何らのめんどうもみていなかった。ところが祖母が亡くなったあと突然、甥は祖母思いの孫に変身し、学生時代に祖母から電話できいた断片情報を拡大解釈してはじめたのである。

甥は埼玉県に在住していたことから、さいたま地方裁判所に訴えられた。おおむねオンラインで対応できたが、証人尋問の際は緊急事態宣言下、同地裁まで出張しなければならなかった。

このとき、叔母本人と証人とは福岡地裁に出張し、ビデオ尋問方式がとられた。結果的に、代理人の弁護士がコロナに感染するのはやむを得ないけれども、当事者が感染するのは困るという形になった。いまではよい思い出だが、当時は命がけの思いだった。

裁判所から何度か和解勧告がなされた。が、甥側はこれを拒否。その結果、こちらの勝訴判決がなされた(遺産が一部残るかたちになったので、その部分の不当利得返還請求、実質的な遺産分割請求は認められた。)。

甥は納得せず、東京高等裁判所に控訴。高裁からは細かい求釈明を受け、これに対応した。さすが東京高裁である。隅々まで目を光らせているという感じ。

結果は、ほぼ控訴棄却。当方のほぼ全面勝訴である。「ほぼ」とあるのは、先の細かい支出を指摘され、一審より数万円の増額となったから。

双方とも上告せず、東京高判は確定した。これで解決かと思いきや、相手方から不満をぶちまけた感じの手紙が届いた。困ったものだ。法治国家における裁判制度のことが分かっていない。しばらくは様子をみるしかあるまい。

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