2021年7月19日月曜日

尿前の関ー馬の尿する枕もと


   南部道遙かに見やりて、岩手の里に泊まる。小黒崎・みづの小島を過ぎて、鳴子の湯より尿前の関にかかりて、出羽の国に越えんとす。この道旅人まれなる所なれば、関守に怪しめられて、やうやうとして関を越す。大山を登って日すでに暮れければ、封人の家を見かけて宿りを求む。三日風雨荒れて、よしなき山中に逗留す。

 蚤虱馬の尿する枕もと(のみしらみうまのばりするまくらもと)

 芭蕉一行は旅のクライマックス平泉で、義経主従の鎮魂を行いました。われわれも落合くんの追悼を行いました。平泉の光を際立たせるため、尿前の関の段は暗転します。例によってさんざんな目にあっています。尿前の関は義経の子が尿をしたことにちなむらしい。

ちかごろの博多弁でバリは超みたいな意味ですが(このラーメン、バリうまーみたいな)、ここでは尿のことです。尿前の関は、しとまえのせきと読みます。

おくのほそ道は構成がしっかりしています。これまでずっと北(岩手県・南部地方)に向かって旅をしてきましたが、平泉を折り返し地点として南に転針します。物語全体も起承転結の承から転に転じます。尿前の関は、太平洋側の奥州(宮城県)と日本海側の出羽(山形県)との境です。おくのほそ道も前半・後半の大きな切れ目です。

俳句は連句の発句を独立させたものです。連句は、いくつつなげるかにより百韻とか三六韻とか種類がありました。三十六韻のものを歌の名手三十六人にちなんで歌仙と呼びます。

連句は懐紙に句を書き連ねていきます。懐紙は二つ折りにして表と裏に書きます。歌仙の場合、懐紙を2枚使い、一枚目を初折り、二枚目を名残の折りと呼びます。初折りの表に6句、裏に12句、名残りの折りの表に12句、裏に6句を書いて、合計36句になります。

おくのほそ道の構成は、この三十六歌仙の形式を俤にしています。白河の関が初折りの表・裏の切れ目、尿前の関が初折りと名残りの切れ目、あと新潟と富山の境ででてくる市振の関が名残りの折りの表・裏の切れ目になります。

そしてそれぞれのセクションについてテーマが決まっています。初折りの表が旅の禊ぎ、その裏が歌枕めぐり、名残りの折りの表が宇宙めぐり、その裏が別れ。これで起承転結です。

不易流行でいえば、歌枕は流行、宇宙は不易です。ここからいよいよ不易の領域に入っていくことになります。

宇宙の領域というだけあって、ここから先、句のテーマが大きく永遠になります。宇宙、太陽、月、銀河。スケールが大きくて、すてきな句だらけです。ワクワクします。

芭蕉が岩手県の平泉を通過したのち、この宇宙の領域に入っていくのはとても興味深いです。岩手の宮沢賢治が描いた銀河鉄道に芭蕉一行も乗り込んだかのようです。

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