2022年1月21日金曜日

『芭蕉の風景】


  ひさしぶりにジュンク堂の仮店舗をぶらぶらしていたら、『芭蕉の風景 上・下』(小澤實著・ウェッジ刊)が目につき、購入した。アマゾン読書では得られない醍醐味だ。

小澤氏は昭和31年長野県生まれの俳人。新幹線によく乗る人はご存じだろうが、ウェッジは新幹線に乗るようなビジネスパーソンむけの月間誌を発行している会社だ。

芭蕉が訪れた地を小澤氏が訪問して解説・体験し、結びに句を披露するという内容。旅心をくすぐる記事として「月刊ウェッジ」に連載されていたのだろう。それをまとめたような本だ。

上巻は紀行文『野ざらし紀行』『笈の小文』『更科紀行』などに関するもの。下巻は『おくのほそ道』などに関するものだ。

『おくのほそ道』について、おなじ行程を旅してみたという趣旨の本は複数ある。なかでも、俳人が書いた文書だけに、この本は読ませどころが多い。

それよりこの本がよいのは上巻。いままで『野ざらし紀行』『笈の小文』『更科紀行』ゆかりの地を歩いたというものは読んだことがなかったので、とても面白かった。

『野ざらし紀行』も『笈の小文』も江戸をでて、途中箱根・富士のことに触れていきなり名古屋辺のことだったりする。芭蕉が伊賀出身であることや、名古屋辺にお弟子さんがたくさんいたことが影響していよう。

おなじ旅程をたどるといっても、むずかしい。曽良のような几帳面な同行者がいて正確な旅日記を残していれば、それに依拠することもできよう。しかし同行者はいるものの、そのような記録は残されていない。

『野ざらし紀行』や『笈の小文』の旅程をたどってみたという本に出会ったことがなかったのは以上のような理由だろう。

この本はそれをどう克服したか。紀行文のほうから攻めずに代表句のほうから攻めて克服している。ときどきの代表句を紹介する、そしてそれにゆかりの地を訪ね、自分の紀行文としてまとめる。ある程度分量がたまったところで、これこれの代表句は『野ざらし紀行』のときのものだ、『笈の小文』のときのものだとまとめるという手法である。

なるほど、これなら旅程をぜんぶたどる必要はない。それでいて、やはり『野ざらし紀行』や『笈の小文』の旅程をたどったような気になれる。

芭蕉に興味がなくとも、名古屋、伊勢、伊賀上野、長谷寺、吉野、高野山、和歌浦、奈良、葛城山、当麻寺、東大寺二月堂、唐招提寺、大津、関ヶ原(不破の関)、大垣、桑名、熱田神社、須磨、明石など関西・中部の観光地や寺院がたくさんでてくる。もちろん雪月花も。楽しく美しい一冊。ぜひご一読を。

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