2011年2月3日木曜日
今さらジロー(3)
日本百名山の一つ、北アルプスの鷲羽岳に源を発し
黒部川は一路北へ日本海をめざします。
川が削った黒部峡谷はV字谷となり
日本の秘境100選のひとつです。
途中、雲ノ平、薬師岳を迂回して黒部湖・黒四ダムに至ります。
その難工事は「黒部の太陽」として、小学校の教科書に載っていました。
立山・黒部アルペンルートがここを東西に横断し
みどころの一つですから訪れたことがあるという方もおおいでしょう。
黒部ダムからさらに西に剣、東に鹿島槍、五竜、白馬などの山塊を削って
富山湾のほうへ下ると、欅平、黒薙温泉をへて宇奈月温泉にいたります。
昭和のはじめ、この温泉場で熱いたたかいがくりひろげられ
大審院(当時の最高裁)判決が形成されました(宇奈月温泉事件)。
民法判例百選のはじめに紹介されている判例であるため
3日ぼうずの法学部生でも一度は読んだことがあるものです。
宇奈月温泉は7.5Km上流にある黒薙温泉から
引湯管を使いお湯を引いていました(いまもそう)。
引湯管は黒部峡谷の急傾斜地につくられていたところ
2坪だけ利用権を得ていない他人の土地を横切っていました。
その土地の所有者が引湯管の持ち主に、土地を高額で買い取るか
所有権に基づく妨害排除として引湯管の撤去等を求めた事件。
これに対し、大審院は
①所有権が侵害されてもこれによる損失がいうに足りないほど軽微
②撤去することが著しく困難で莫大な費用を要するような場合
③不当な利益を獲得する目的で、その除去を求めるのは
権利の濫用にほかならないと判示しました。
その妥当な結論に誰もが「うなづき」ました。
この結論を導いた法律論が権利の濫用の法理です。
戦後の民法改正のとき、権利の濫用はこれを許さない。
と明記されました(民法1条3項)。
法を適用する裁判所が判例という形で法を形成し
法をつくる国会が後追いした例です。
とはいっても、民法は基本的には権利の行使を擁護する法律ですから
権利の濫用が認められることはきわめて例外的とされています。
司法修習生時代、研修所の民事裁判のK教官が
「権利の濫用を言い出したらそちらの当事者の負けだ」
と断言されていました。
そうはいっても弁護士たるもの
権利の濫用を主張せざるをえないこともあります。
K教官はしばらく福岡地裁で部総括(部長)判事をされていましたが
もちろん、その時でさえも。
(つづきはまた明日)
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