2011年2月15日火曜日
シンボルのハードル
教養選択の政治学のはなしが出たところで余談をもう一つ
政治学の口述試験が落第点だったことを自白しておきます。
20年以上前のはなしで、いまさら司法試験合格の取消し
ということもないと思うので。
(どうしても取り消すというのであれば
時効、除斥で争わなければなりません。できるかな?)
これもいまの司法試験にはなくなった口述試験でのこと
口述試験は択一、論文試験のあとにひかえる口頭試験でした。
法律科目(憲法、民法、刑法、商法、刑事訴訟法)、法律選択(行政法)
そして教養選択の政治学の順にあります。
優秀な成績ながら口述試験が苦手だった、いまは亡きFさんの
体験談と指導のもと、予行練習を重ねました。
択一試験、論文試験は福岡で受験できるのですが
口述試験は東京の受験会場まで出むかなければなりませんでした。
松法会という受験サークルに所属している受験なかまと
渋谷のホテルに宿泊し、3日間くらいの受験期間でした。
いまは高等検察庁の検察官をしているOさんと渋谷の街をジョギング
して気晴らしをしました。
試験部屋に入ると研究者と実務家の試験委員がペアで待ちかまえていて
次々に質問し、これにうまく答えなければなりません。
異常な緊張状態のもとでのコミュニケーション能力が問われます
反対尋問や法廷でのやりとりをする能力をためすのに必要な試験です。
たとえば、刑事訴訟法の口述試験はこうでした。
問:自由心証主義ってなに?
答:証拠の証明力は裁判官の自由な判断力に委ねるという原則です。
問:立証趣旨ってなに?
答:証拠調べを請求する際に、具体的に明示しなければならない
証拠と証明すべき事実との関係のことです。
問:立証趣旨に拘束力を認めるべき?
答:いいえ。立証趣旨に拘束力はないと解します。
問:えーっ、そうなの?(ものすごく不満そうに)
答:(動揺しつつも)はい…。
問:現行刑事訴訟法は当事者主義、それとも職権主義?
答:当事者主義です。(消え入りそうな声で)
問:当事者主義なら、当事者が明示した立証趣旨どおりに
証拠を調べるべきではないの?(意地悪そうに)
答:(改説しようかどうか迷いつつ)いいえ。
問:なぜ、そう考えるの?
答:うーん…
自由心証主義が原則だからです。
問:(にっこり)はい、ごくろうさん。
というわけで、起承転結の質問を5つぐらいクリアすると
ゴールできるというハードル競技みたいな試験でした。
法律科目、法律選択については、合格ラインに達した手応えがあり
最終日の最後、政治学のハードルを残すのみでした。
部屋に入って挨拶するや、最初の質問はこうでした。
問:象徴にはどんなものがある?
答:えー天皇です。(法学部生の答としてはまっとう)
問:ほかには?
答:(うん?ちがったか?)国旗、国歌?
問:ほかには?
答:(これもちがったか?)
ペン?(The pen is mightier than the sword.)
問:ほかには?
答:(えーっと混乱しつつ)ハト、バラ、ユリ…。
口述試験は極度の緊張状態のもとでのコミュニケーション能力をみる
試験なので、会話が中断したらアウトといわれていました。
試験要領に書いてあるわけではなく、都市伝説なみの噂でしたが
否定する根拠もないため15分間、思いつく限りの例を挙げ続けました。
「天使と悪魔」「ダヴィンチ・コード」に出てくる象徴学者のロバート・
ラングドンであれば2時間でも3時間でも例を挙げたでしょう。
が、当時はまだダン・ブラウンもラングドンを創作していません。
私の想像力も枯渇しようかという寸前…
問:「言葉」はそうじゃないの?
答:…あっ、そうですね…。
(ピンとはこなかったものの、とりあえずあわせる)
問:はい、結構です。
あーっ、これで口述試験に落ちた~
と思いました。用意されたハードルを一つも越えられなかったからです。
でも結果は合格(まさかの)。
ハードルが高すぎて、他の受験生も越えられなかったのでしょうか?
それとも、そういう試験だったのでしょうか?
いまから思うと、「言葉」をなりわいとする職業につくにあたり
なかなか含蓄のある試練だったなぁと思う、きょうこのごろです。
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昔昔、受験新報の口述試験復元記事を読んでいましたが、やはりこんな試験で「不合格」と言うのは合理性を欠きますな。それこそ、合理的な疑いあり、です。
返信削除小林さん、こんにちは。
返信削除司法試験の悪口をいっていると、みずからのよって立つ足もとを掘り崩してしまいますので、自粛させていただきます。
いまでは教養選択試験、口述試験もなくなってしまいました。
われわれのころは教養試験があったのでわれわれには教養があるなどと、晴さんはロースクール生に冗談をいっています。
私は表記のような事情で、あまり教養があると公言できないのが残念です。
ではまた。