2011年2月10日木曜日

 ピツァとベルリーニとプロセルピナ



 だいぶ脱線しましたが、そもそもの謎はピツァの食べ分け場面でした。

  僕がよく行くピツァ・ハウスに彼女をつれていって生ビールとアンチョビの
  ピツァを注文した。僕はそれほど腹が減っていなかったので十二ピースの
  うち四つだけを食べ、残りを緑が全部食べた。

                 (村上春樹「ノルウェイの森」第九章)

 緑が残りを全部食べたのは、お腹が減っていたからでしょうか
 それとも、ほかになにか意味があるのでしょうか?という謎でした。

 僕にとって最高の書物はジョン・アップダイクの「ケンタウロス」だった
 ならば、ピツァの話もギリシャ神話をベースにしているはず…。

 ローマを観光すると教会、泉・噴水に彫刻がおおいことにきづきます。
 一番有名な泉は「ローマの休日」に出てきた「トレヴィの泉」でしょう。 
 
 最近では、①バルベリーニ広場の「トリトーネ」や
 ②ナヴォーナ広場の「四大河の噴水」の彫刻が有名でしょうか?

 教会彫刻だと、③サンタ・マリア・デル・ポポロ教会の「ハバククと天使」
 ④サンタ・マリア・デラ・ヴィットリア教会の「聖女テレサの法悦」。

 こうなると、知らないなぁという人も多いはず。①~④の共通点は
 「天使と悪魔」に出てきたベルニーニの彫刻作品だということです。

 ベルニーニ(1598~1680)は、バロックの時期を代表する彫刻家で
 江戸時代はじめの狩野探幽(1602~74)らと同時代人です。

 「天使と悪魔」には出てきませんでしたが、おなじベルニーニの作品に
 「プロセルピナの略奪」があります。

 バルベリーニ広場から北にいくとボルゲーゼ公園があり
 そのなかにある国立ボルゲーゼ美術館で見ることができます。

 冥界の王プルートが一目ぼれした女神の娘プロセルピナを連れ去ろうとする
 瞬間を彫刻化したものです。

 ギリシャ・ローマ神話は前に書いたとおり親分のゼウス(ジュピター)から
 肉食系なので略奪愛の話がいっぱいです。

 よく似た作品に「アポロとダフネ」があります。ダフネが月桂樹に変身する
 瞬間を彫刻化したもので、腕が枝葉になりつつところが印象的です。

 ベルニーニが日本人であれば、在原業平による藤原高子の略奪愛をテーマに
 彫刻をつくったかもしれません。

 略奪されたプロセルピナは、ギリシャ神話ではペルセポネー
 その母は豊饒神「母なる大地」のデメテルです(トレヴィの泉の左像)。

 母デメテルはゼウスに抗議するも、取りあってもらえなかったため激怒し
 オリュンポスを去って身を隠し、大地に実りをもたらすのをやめます。

 このエピソードはアマテラスがスサノオの乱暴に激怒し
 天岩戸に隠れてしまった話とよく似ています。

 ゼウスはハーデス(プルート)にペルセポネーを解放するように伝え
 ハーデスはこれに応じる形でペルセポネーを解放します。

 その際、ペルセポネーはハーデスが差し出したザクロの実12粒のうち
 4粒を空腹から食べてしまったのです。

 冥界の食べ物を食べた者は、冥界に属するという神々の取り決めがあり
 ペルセポネーは1年12月のうち4月を冥界で暮らすようになりました。

 デメテルは娘が冥界にいる時期だけ地上に実りをもたらすのを中止
 これが冬という季節の始まりなのです。

 くだんのピツァを食べ分けるシーンは、このギリシャ神話を踏まえ
 緑がその名前のとおり地上に実りをもたらす存在であることを
 示唆しているわけです(たぶん)。

 宮崎アニメ「千と千尋の神かくし」のなかではトンネルのむこうで
 両親が神々の料理を食べ、豚になってしまいます。

 食事をすると、ただ単に空腹をいやすという以上の
 浅からぬ意味が生じるようです。

 高校生のときのデートで彼女の手作りのサンドイッチを食べたときのことは
 今でも鮮明に覚えています。
 

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