2011年2月17日木曜日

 「KARA」の自由



 韓国女性グループ「KARA」のメンバーが所属事務所との専属契約の無効
 を求める訴えを起こしたと報じられています。

 正当な利益を受け取っていなかったというのが理由で
 昨年1~6月の報酬はメンバー1人月額約1万円だったとか。

 お尻を突き出して左右に振る“お尻ダンス”で売れたわけですが
 あまりの低報酬に首を左右に振ることになったのでしょうか。

 でも例によって約束は守られなければなりません。
 事務所側の主張は、専属契約を守れということでしょう。

 専属契約の経済的な基礎としては、アイドルを育てるのに相当額の先行投資
 が必要であり、その回収をはかりたいということがありましょう。

 アイドルが売れるか売れないかは分からないわけですから
 そのリスクにみあうリターンも必要でしょう。

 これに対してメンバー側の主張としては
 専属契約が公序良俗に違反するゆえに無効という論拠が一つ考えられます。

 民法90条は、公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為
 は無効とすると定めています。

 「公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)」違反といっても抽象的なので
 権利濫用の法理とおなじ一般条項です。

 つまり、先に紹介した司法研修所の民事裁判教官の言によれば
 これまた言い出したほうの負けです。

 ですが、負けると分かっていても
 闘わなければならないときがあるのです。

 どのような場合が公序良俗に違反するかはケース・バイ・ケースですが
 たとえば以下のような場合がこれにあたるとされています。

 1 人倫・正義に反する行為、犯罪行為
 2 自由を制限する行為
 3 暴利行為
 4 個人の尊厳、人権を侵害する行為
 …

 いずれの項目についても興味深い判例の集積がありますが
 「KARA」との関係でいうと、②自由を制限する行為が問題。

 自由を制限するゆえに公序良俗に反するとの判例は
 芸娼妓契約について積み重ねられています。

 芸娼妓契約は、①親が置屋から金銭を借り(借金契約)、②その返済方法
 として娘を芸娼妓として働かせ、その収入から返済するもの(稼働契約)。

 芸娼妓契約の効力についての判例は、明治のはじめから
 しばしば変転してきました。  

 大正10年の大審院(旧最高裁)は、芸娼妓契約のうち、②の稼働契約に
 ついてだけいちじるしく個人の自由を拘束するから無効だけれども
 ①の借金契約については必ずしも無効にならないとの考えでした。

 日本国憲法は、個人の尊重(13条)、奴隷的拘束および苦役からの自由
 (18条)を保障し、昭和31年に売春防止法が成立しました。

 かくて最高裁は昭和30年、稼働契約と借金契約は不可分の関係にあり
 稼働契約の無効は契約全体の無効をもたらすと判断しました。

 もちろん芸娼妓契約と「KARA」の専属契約を同一視することは飛躍
 があります。

 でも労働の自由などを過度に制限する行為も公序良俗違反となります。
 そう、以前、水嶋ヒロさんの競業避止義務について書いたとおりです。

 総合的に自由制限の程度を検討して、合理的な限度を超えた拘束かどうか
 が判断されることになります(韓国法も日本法とそう変わらないはず)。
 
 事務所側の先行投資やリスク等を勘案するとしても
 ほんとうに報酬が月1万円だったとすると低額にすぎるように思いますね。

 ただ働きならぬ、「KARA」(空)ばたらきというところでしょうか。
 

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