2011年2月1日火曜日

 今さらジロー(1)



 判例集にきょうみぶかい判決が掲載されていて
 わが事務所でも話題になったので、ご紹介。

 東京高裁の平成22年9月6日判決。そのタイトルは
 以下のとおり、まるで小説の帯に書かれたあらすじのよう。

 「産院で取り違えられ生物学的な親子関係がない夫婦の実子として
 戸籍に記載され実親子と同様の生活実体を長期間形成してきた兄に対して

 両親の死後、遺産争いを直接の契機として戸籍上の弟らが提起した
 親子関係不存在確認請求が権利の濫用に当たるとされた事例」
 
 1審(東京家裁)では弟らが勝訴していたところ
 本高裁判決は兄の勝訴となっています(弟ら上告中)。

 「血は水よりも濃し」「血の争い」「血族」など、親子関係については
 むかしから血のつながりが重視されてきました(血縁主義の原則)。

 最近では遺伝子(DNA)鑑定が10万円前後でできるようになり
 ドーキンス流の「利己的な遺伝子」が紛争を呼んでいます。

 むかしは血液型に関する知識や遺伝子鑑定などありませんから
 婚姻という外形事実から、民法は親子関係を推定しています。

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定されます(722条1項)。
 婚姻関係にある男女から生まれた子は嫡出子ですから、嫡出の推定です。
 
 婚姻成立の日から200日を経過した後 または
 婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は
 婚姻中に懐胎したものと推定されます(同2項)。
 
 受精後平均266日で生まれるという
 人間の生物学的事実に基づく推定です。

 この推定が働く婚姻中であっても、妻が浮気をして
 他の男性との間の子が生まれることもあります。
 (夫の浮気のばあい、婚外子という別の問題になります)

 もちろん夫は「俺の子じゃない。」と訴えることができます
 民法の定める嫡出否認の訴えです(774、775条)。 

 これに対し、親子関係不存在確認訴訟については
 民法の定めがありません。

 ローマ法→大陸法(ドイツ法、フランス法)を継受して立法された
 民法ですが、穴はあります。穴は解釈で埋めることになります。

 三権分立というのは、国会が法をつくり、裁判所が法を執行するという
 役割分担により、国民の自由を守る仕組みです。
 (「わたし作る人、ぼく適用する人」)

 法に定めのないことを解釈で認めることは、ある意味
 裁判所が法をつくったことになり、三権分立に反するおそれがあります。

 それゆえ、立法者が書いていないことはそれを認めない趣旨だ
 と一般には解釈されます(反対解釈)。

 ただし、民法に定めがないけれど認めないと正義に反するばあいには
 それが民法の穴であり、立法者の書き忘れと解釈されることがあります。

 こうして
 親子関係不存在確認訴訟はむかしから認められてきています。

 (つづきは明日)
 

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