「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というのがある。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0100000111
同法によれば、「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれと別の性別(他の性別)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を持つ者であって、そのことについての診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき診断の一致しているものをいう(2条)。
一読して理解が困難な定義である。次の3つの要件を要求しているからだ。
①生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれと別の性別(他の性別)であるとの持続的な確信を持ち
②自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を持つ者
③そのことについての診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき診断の一致しているもの
自分は①②の要件を欠くのだけれども、仮に①②の要件を充たすとして、③の要件だけでとても高いハードルに感じられる。
たとえば、交通事故の後遺症診断というのは、場合によっては数千万円の帰結をもたらす。けれども、そのことについての診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づく診断などは要求されていない。2人以上の医師の診断といわれただけで、どの病院に行けばよいのか途方に暮れる。
同法はさらに、その性別の取扱いの変更について、家庭裁判所の審判を求めている(3条)。その要件について、5つの要件を定めている(1項)。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
この請求をするには、その診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない(2項)。
昨25日、最高裁(大法廷判決)は、このうち四号の要件について、法令違憲とした。この要件が「強度の身体的侵襲である手術を受けるか、性自認に従った法令上の取り扱いを受ける重要な法的利益を放棄するかという、二者択一を迫っている」のであり、「意に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害し、憲法13条に違反して無効」であるとした(全員一致)。
https://www.asahi.com/articles/ASRBP7T8YRBNUTIL009.html
NHKの番組で手術を受けた人の映像を見た。術野にいびつな醜状痕が残っていた。重大な決心がなければとても受けられるようなものではない。外見だけでなく、ホルモン異常などの後遺障害もありうるという。強度の身体的侵襲である。
特例法の制定は平成15年、20年前である。法制定以降の社会の変化、医学的知見の進展なども踏まえ、判断したという。
最高裁は2019年にもこの点について判断し、「現時点で」合憲と判断している。つまり、この4年間における「社会の変化」が大きかったということである。この間におけるLGBTQ運動前進の成果といってよかろう。関係者の長年の努力に敬意を表したい。
ただし、最高裁は、五号の要件については判断していない、高裁に差し戻している。たたかいは続く。
※憲法13条。すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
※※12条。この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。
※※※97条。この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。