2023年10月11日水曜日

最善を期待し、最悪に備える

 

  (那須朝日岳・冬期)

 この3連休期間中、各地で山岳遭難があいついだ。道迷い、転倒・滑落はもちろん、低体温症で亡くなった人が多かったのも目をひいた。なかでも那須朝日岳(標高1896m)で4人の方々が亡くなった遭難が大々的に報じられた。亡くなった方々のご冥福を祈りたい。

生存者がおられないので、遭難の原因・経緯はよく分からない。しかし報道によると、当日は20メートル以上の強烈な風が吹いていて、ロープウエイなどでは登山を控えるよう注意喚起をしていたようだ。

標高が1000メートルあがるにつれて気温は6度さがる。風速1メートルにつき、体感温度は1度さがる。那須高原で気温15度だとしても、朝日岳で風速20メートル吹かれると、体感温度は氷点下10度以下である。汗をかいて油断すると、低体温症の症状がすぐでてしまう。

実は自分もこの3連休中、東北の山旅を計画していた。秋田の森吉山、和賀岳、秋田駒ヶ岳を登る計画であった。

しかし連休2日前、東北では連休前半冷え込み強風が吹くことは予報されていた。そこで、やむなく初日と最終日(これは雨による)の登山はあきらめ、芭蕉の足跡をたどる観光に切り替えた(これは後に報告したい。)。

登山は、山という大自然を対象に、自己という変動する主体で臨むものである。対象も急激に変化していくし、自身の健康や体調も日々、時々刻々と変化していく。この両者の相関のなかで、時々の決断をしていかなければならない。

その場合に使う方略は、「最善を期待し、最悪に備える」ことだ。いまふうに言えば、プランBを用意しておくということか。

遠征登山は半年~数ヶ月前に計画し、交通機関や宿を手配することになる。数ヶ月先の天気などわかりっこない。そのため、計画をたてる際には、よい天候を期待しつつも、豪雨・暴風への備えも怠れない。したがって、山の計画とともに、観光・旅のプランも立てるようにしている。

最近の天気予報はすごい。このポイントでは明日の13時から3ミリ程度の雨が降り、北西の風5メートル程度などという予報がピタリと当たる。お金を出せば、そこまで正確な天気予報を入手することも可能だ。

一般には「天気と暮らす」(てんくら)で十分だ。「那須岳」×「天気」のキーワードで検索すれば、上位で表示されることだろう。明日、那須岳に登ることが適切かどうかを、3時間単位で、AないしCランクで判定してくれる。C判定となれば、迷いなく登山を断念して観光に切り替えるべきである。

一人登山であれば、あまり問題はない。しかし、グループ登山、ツアー登山となると方向転換が難しいだろうと思う。

ぼくもいままでグループ登山の際、台風接近により縦走を断念したことが一度ならずある。その場合、あとから考えれば行けたのではないかと後悔すること必定である。リスクが2~3割となれば断念することになる。

逆に言えば、7~8割の確率で行けるということである。つまり、「無理すれば」行けるということでもある。そこが難しい。

問題は、その旅の目的は何かである。ピークハントを目的にすると、無理に行ってしまいがちである。これに対し、家に無事に帰ることを目的にすれば、自ずと答えは導かれる。

今回の遭難報道に接し、上記のように思った次第である。自分になんかあったとき、このブログが引用されることのないよう、心したい。

※なお、山岳遭難対策、低体温症対策の教科書は『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(ヤマケイ文庫)である。白馬岳で遭難した北九州グループなど低体温症で亡くなるときは全員が亡くなることが多く、原因や経緯がはっきりしないことが多い。しかし、トムラウシ山の遭難は、15人のツアーでガイドを含め8人が亡くなったものの、7人の生存者がいたため経緯が詳細に調査され、その原因と対策が考究されている。

※ブログを読んでいただいている方は気づかれたと思うが、きょうは常体である。ブログでは、常体と敬体とをむやみに混交しないほうがいいと言われる。ここしばらくは敬体で書いてきた。しかしやはり内容により常体のほうがよいときもある。

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