2023年10月16日月曜日

木曽駒ヶ岳、霧ヶ峰、乗鞍岳、美ヶ原(7)風穴と養蚕

 

 くじゅう山系の北東部に黒岳がある。くじゅう山系は放牧の結果か草原が多いのであるが、黒岳の山麓は原生林が残っている。いまの時期は紅葉が美しい。男池湧水群から歩いて黒岳に向かう途中、大船山との境に、風穴がある。

大きな岩々のすきまが縦穴の洞窟になっている。深さは2メートルほどあり、奥は広間のようになっている(写真は、中から外を覗いたもの。)。その昔、大船山か黒岳の山体が崩壊したとき、岩々が堆積し、その際、偶然にできたと思われる。外気に比べて内部は冷涼な温度となっていて、7月まで氷が残っている。

そこに看板がかかげられていて、「大正年間に蚕種を保存するための天然冷蔵庫として利用されました。」と説明が書いてある。これまでは「ふ~ん。」となんとなく飲み込んでいたのだが、こんかい諏訪の地元の人の説明で、その意味がよく分かった。

前回紹介した野麦街道の手前に稲核(いなこき)の集落がある。そこにも風穴がある。ここでもバス内のアナウンスでおなじような説明がある。その説明も「ふ~ん。」ぐらいの理解だった。

養蚕というのは、農家が桑を栽培し、蚕(カイコ)を育て、繭を生産する一連の営みのこと。その先、繭から生糸を繰りだし、生糸からシルクを作って販売するのが製糸紡績業である。

製糸紡績業のほうは、機械化され工業化されている。それに対し、養蚕業のほうは農家がやっているものだから、それほどの工夫もないものだと思っていた(失礼)。だがそうではない。

カイコの先祖は蛾の一種。それを人間が飼い慣らし家畜化したものである。カイコは500個ほどの卵を産む。卵は春に孵化する。孵化した幼虫は桑の葉を食べ、脱皮を繰り返し、やがて糸を吐き、繭をつくる。

自然の営みであれば、年に一度しか、繭から生糸をとることができない。ところが、ある人が工夫して、卵を風穴に入れて冷やし保存してみた。すると、孵化が遅れ、夏でも秋でも生糸がとれるようになった。

つまり、収量は3倍。これにより、日本の生糸の輸出は、最大の輸出産業にまで成長したという。なるほど。明治大正期、生糸が日本の輸出産業の雄ということは教科書に書いてあったが、そのような創意工夫があったことは知らなかったなぁ。

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